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ラウンドシフト 俺四捨五入で死ぬの!?  作者: 池金啓太
ラウンド1「人の業の刻まれた世界で」
8/33

008:人類は真似してはいけません

『とにかく時間を進めるぞ。あの悪漢どもをまずはどうにかするがよい』


 アカの念話が終わると同時に、時間は再び動き出した。


 再び聞こえてくるバイクの音、そして村人たちの悲鳴、叫び声が聞こえる中、入弦は内心ため息をついていた。


 この時点ですでに死にそうだ。山賊の正確な数はわからないが、このままいけば間違いなく村ごと略奪される未来が待っているだろう。


「キョーちゃん、あいつらどうするよ?」


「どうするっていったって……どうにかしないと物資にもありつけなくなるからな……どうにかするしかないだろ」


「だよな。でもバイクに乗られてちゃさすがに面倒だな……どうするか……」


 吉野はどうやら撃退するつもり満々のようだったが、バイクに乗っている人間相手に楽に勝つことは難しそうだった。


 頼もしい限りだと入弦は考えながら、先ほど吉野が砕いた岩の破片を見つめる。


 人の頭ほどある岩の塊を見て、入弦はそれを掴み、思い切り投げた。


 岩は放物線を描きながら飛んでいき、襲い掛かってくるバイクに乗っている男の一人に直撃した。


 岩が当たってしまったのはなんとも運の悪い男で、顔面に岩が直撃し鼻の骨と前歯を何本かへし折りながら大きく体をのけぞらせてしまう。


 結果、バイクはその場で態勢を崩し転倒し、乗っていた暴漢を地面に投げ出してしまった。


「おぉ!その手があったか!よっしゃ、どっちがたくさん当てられるか勝負しようぜ!」


 吉野は身近にある岩を掴むと、先ほどの入弦のように岩を投擲する。


 持ち前の筋力を前面に活かした投擲は、軽々と岩を放り投げ、放物線を描いて再びバイクの群れへと向かう。


 今回もバイクではなく、乗っていた暴漢に直撃していた。


 人の頭ほどもある岩がぶつかれば、さすがに筋肉に覆われたものでも無傷というわけにはいかないのだろう。バイクから落ち、後続のバイクに轢かれ悲鳴を上げている。


 入弦と吉野が原因なのだろうが、仲間のバイクに轢かれるさまは悲惨としか言いようがない。


「オラァ!このクソ山賊どもぉ!当たったなら景品寄越せやぁ!」


 そんな悲惨な光景など知らんと言うかのように一心不乱に岩を投げ続ける吉野。村を守っているという立場からすればやっていること自体は別におかしくないはずなのだが、この状況を見ると暴漢以上の蛮族にしか見えないのが何とも恐ろしいところである。


 バイクが一つ、また一つと倒れていく中、土煙に紛れてやってくるバイクたちが畑のもとにまで近づいてきた。


 入弦は岩を投げながら近くにあった鍬を持ち、簡単にではあるが武装する。


 近くまでやってきたことで相手の武装も確認できた。鉄パイプのようなものを持っている者もいれば、斧、棍棒、それぞれ違う得物を持っているように見える。クワなどでは非常に心もとないが、それでもないよりはましだろう。


 だがそんな入弦の考えよりも先に、吉野が岩を投げながらバイクの群れに向けて突進していた。


「てめぇら!よくも兄弟を!許さねえぶっ殺してやる!」


「自分で轢きまくっておいて何言ってんだボケ!人と話すときはバイクから降りろって親から教わらなかったのかゴルァ!」


 突進してくるバイクめがけて、吉野が行ったのは全速力での勢いをつけた飛び蹴りだった。


 突進の勢いと吉野の飛び蹴りの勢いが加わり、バイクに乗っていた男は簡単に宙に投げ出されてしまう。


 そして飛び蹴りを行うと同時に、吉野は空中で両手に持っていた岩を投げ、追加で二人ほどバイクから叩き落していた。


 あいつ人間やめた動きしてるなと入弦は吉野の動きを見ながら愕然とするが、それもすぐに切り替えると近くにやってきたバイクの男めがけて鍬を振るい、バイクから叩き落す。


 入弦が思っていた以上にこの体は鍛えこまれ、その動きを体が覚えているのか、何の抵抗もなくスムーズに相手を落とすことができていた。


 襲ってきたバイクに乗る山賊は全部で五人、吉野が飛び蹴りと同時に二人落とし、入弦が一人落としたことで残りバイクに乗っている者は一人だ。


 吉野は近くにあった岩を投げつけ、バイクから落とす。


「吉野!さっさとこいつら潰すぞ!何人までならいける?」


「全員俺がやってやるよ!キョーちゃんが出る幕はねえぜ!」


 叩き落した山賊たちは呻いている。地面に叩きつけられ、あるいは岩を投げつけられすでに負傷しているようだったが、吉野はそんな山賊たちに全く慈悲の欠片もなく追撃をかけていく。


「でもお前大丈夫な」


「この野郎……!ぶっ殺す!」


「うるせぇ!キョーちゃんがしゃべってんだろうが!!」


 何とか立ち上がった山賊に対しても、吉野は見事な回し蹴りを食らわせていく。格闘技のそれに間違いはないのだが、そういったものに詳しくない入弦からすれば『すごい』といことしかわからなかった。


 数分もしないうちに、やってきた山賊はすべて倒れ伏してしまっている。あとは入弦たちが岩を投げてバイクから落とした、遠くにいる山賊たちを確実に捕縛するか気絶させるかすればおしまいだった。


 そしてそんな入弦たちの様子を見て、遠巻きに見ていた村人たちは歓喜の声を上げていた。


「すごい!すごいぞ!山賊をやっつけた!」


「助かった!助かったぞ!」


 二人で十人以上の山賊を倒したという事実に、村人たちは驚き、喜び、そして命が助かり、作物などが荒らされなかったことをとにかく感謝しているようだった。


「ありがとうございますお二方、何とお礼を言っていいものやら」


「いえいえ、頼まれた通りですよ。畑の邪魔になっているものをどかしただけです。だろ?吉野」


「おうよ、あとはこいつらから身包み剥いで適当なところに放り投げてやればオッケーだ」


 既に吉野は気絶している男から衣服や持っているものをはぎ取っている。


 何というか逞しい生き方だと思いながらも、入弦もそれを手伝うことにした。


 山賊を倒した二人は、村から大きく感謝されていた。


 普段あのような状態になったら逃げ、村のものを奪われるほかなかったのか、中には涙を流して感謝の言葉を伝えてくるものもいる。


「ありがとうございます、本当にありがとうございます。お二人のおかげで、こうして皆無事でいられます」


「構いません。あれも力仕事の一環ですよ。なぁ?吉野」


「そうそう。あれくらい軽い軽い」


 吉野はモヒカンをたなびかせながら胸を張って笑っている。村人たちからの感謝に気を良くしているのか、感謝してくる村人たちに対して笑いながら「どうもどうも」と声をかけていた。


「お二人は確か都を目指しておられるとか?もしよろしければ、この村に根を下ろしませんか?簡素な村ではありますが、お二人がいていただけるとなれば、皆も安心です」


 この村に居を構えるというのも悪くはないのだろう。だが入弦の目的でもある、死なないための立ち回りとしてはもっと多くの人間がいて、大きな組織の中に身を置く方が安全のように思える。


 そういう意味ではこの場所では少々心もとなかった。


「村長さんよぉ、悪いけど俺らは都に行ってビッグになる夢があんだわ。だからここにいることはできねえよ」


 どう断ろうかと入弦が悩んでいると、吉野が調子に乗ったような様子でそう答える。


 理由としては間違っていないのだが、その言い方はどうなのだろうかと思えてならなかった。だがこの場ではそう言っておいたほうが話の流れはスムーズかもわからない。


「そうでしたか。失礼しました。お礼に、欲しがっていた燃料と、少しではありますが食料をお譲りいたします。これからのお二人の旅の無事をお祈りしております」


 燃料と食材を手に入れることができた入弦と吉野は軽くハイタッチする。


 そして村人たちがその準備をしている間、吉野は小声で入弦に話しかけていた。


「いやぁ、感謝されるってのもいいもんだな。キョーちゃんがこういう手段をとったのもわかるぜ」


「そうだろ?平和的かつ問題なく片づけられた。運もよかったけどな」


「あの山賊、昨日あたりから俺らを付け回してた奴らだったからな。体よく排除できて恩も売れた。手早く食料と燃料ゲット。さすがキョーちゃんだぜ」


 昨日から監視されていたという事実に入弦は一瞬視線を縛り上げた山賊たちに向ける。まさかそんなことになっていたとは入弦自身気付かなかった。


 というかそれに気づいていた吉野は、やはりこの世界ではかなりの達人の部類なのだろう。


 入弦がそれを利用して手っ取り早く燃料と食糧を調達したように思っているようだったが、実際はただ力仕事をすることを提案した程度だ。


 とはいえ、こういう風に襲ってくる連中がいるのだとわかったのは大きな収穫だった。


 そして、吉野の力と、入弦自身がどれほどの力を蓄えているのかもよく分かった。


 これから再び西に旅するにあたり、十分な知識を得られたのは幸運だっただろう。


「ついでにこの近隣の村への紹介状なんかも書いてくれるとありがたいな。次の補給場所のいい紹介になる」


「お、そんな狙いもあったのかよ。キョーちゃんすげえな。俺じゃそこまで頭回らねえわ」


「派手に連中を倒したから十分だって。頼りになったぜ?」


「何言ってんだ。ひょっとして自分がやると加減できなくてやっちゃうからってか?キョーちゃんは昔から加減が苦手だからなぁ」


 話を聞く限り、この世界の自分はこの強い吉野と同じ程度には強いのだろうと入弦は判断していた。


 伊達に筋肉がもりもりなわけではないのだろう。とはいえ、一体何をどうしたらこのような体になるのか想像もできない。


 生まれ育ったと思われる村に行けば何かわかるかもしれないが、そんなことをしている余裕はないと入弦は判断していた。


「お二人とも、準備ができました。荷物をまとめて、お二人のバイクに積み込ませていただきましたので」


「ありがとうございます村長。あと、もしよろしければここから西の方にある村の方への紹介状などを書いていただけるとありがたいです。こんな見た目なので、どうにも誤解されることが多く」


「あぁ、なるほど。承知しました。少々お待ちください。とはいっても、私どもと親交のある村など限られておりますが」


 村長はそういって家に戻っていくと、しばらくしてから一通の手紙を渡してくれた。


 入弦たちの身分の証明とでも言えばいいか、助けてくれたことも含め、好青年であるというような書き方をしてくれているようだった。


「すいません、お手数をおかけしまして」


「何をおっしゃいます。村を救ってくださり、本当にありがとうございました」


 村長が深々と礼をすると、それに倣って周りにいる村人たちも深々と頭を下げる。

 入弦と吉野はそれぞれのバイクに乗り込んで村人たちに別れを告げる。


「にしても吉野、すぐに移動してよかったのか?あの様子だと、普通に飯くらいご馳走してくれそうな感じだったけど?」


「早めに移動したほうがいいだろうと思ってな。いつ面倒ごとがまた来るかもわからねえだろ?たぶんだけどすぐ来るぜ?」


「あぁ、なるほど。確かに」


 入弦はその言葉の意味を正確には理解していなかったが、吉野はそれを感じ取っていた。


 その本当の意味を入弦が理解するのは、もう少し後の話である。


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