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ラウンドシフト 俺四捨五入で死ぬの!?  作者: 池金啓太
ラウンド1「人の業の刻まれた世界で」
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007:北東の件

 入弦たちが案内されたのは村にある畑だった。そこには数日ぶりに見る緑が存在していた。


 何を育てているのかは、入弦では理解はできなかった。何せ今まで見たことのない葉の形なのだから。


 真四角の葉が、支柱に絡みつく蔦のようにも見える茎から生えている。支柱を中心に、その茎は大量に絡みつき、締め上げるように天高く伸びようとしていた。


 他にも星の形をした葉を持つ植物や、柳の木の葉に似た葉を茂らせている植物などがあるが、どれも入弦は見たことがなかった。


 ただそれはあくまで入弦が見たことがないというだけであり、この世界ではメジャーな植物なのかもしれないと考え、意図的に口にすることはなかった。


「あれなんだよ、あの岩とかが邪魔でさ……あれがなけりゃもう少し実りを増やせると思うんだけど」


 村人の一人が指さすのは人の大きさほどある岩だった。それが三つ四つと連なる形で畑の中心に存在している。


「他の場所を拡張したほうが早いんじゃないですか?」


「そうは言うけどね……長い間耕したんだが、他の土地じゃダメっぽいんだ。土地が死んでるとでもいうのかな……植物が育たないんだ」


「なるほど」


 この畑の場所は、本当に貴重な植物が育つことのできる土質であるようで、それ以外の場所はどうしても植物が育ってくれないらしい。


 何か毒物のようなものでも含まれているのだろうかと気になったが、とにかく今は岩をどかすことを考えたほうが良さそうである。


「んじゃああれどかしゃいいんだな?キョーちゃんどうする?」


「細かく砕いて運ぶのが一番手っ取り早いかな……あれだとさすがに運ぶのに苦労しそうだし」


「よし、それで行くか。オラァ!」


 てっきり道具か何かを使って岩を細かくしていくことを想定していた入弦だが、その予想に反して吉野は自らの拳で岩に殴りかかった。


 気でも違ったのかと一瞬冷や汗をかいた入弦だったが、次の瞬間畑の中心にあった岩に大きな亀裂が入る。


「お、さすがにこんだけでかいだけあって一発じゃ無理か。オラァ!」


 再び勢いをつけた拳を叩きつけると、岩に入った亀裂がさらに大きくなり、ゆっくりと崩れていく。

 周りにいる村人からは感嘆の声が上がるが、入弦は冷や汗を止めることができなかった。


 確かに筋骨隆々ではあるが、あんなことを平気でできる程度には吉野は強いということになる。


 というか人間が岩を破壊しているところを入弦は初めて見た。骨を痛めないのだろうかなどということを考えながら、入弦はこれ以上止まっていても仕方がないと、吉野が砕いた岩を掴んで遠くに投げていくことにした。


 細かく砕かれたおかげか、それとも入弦の体に宿っている筋肉のおかげか、人の頭ほどの岩も軽々と持ち上げることができ、軽々と遠くに投げ飛ばすことができていた。


「すごいですな、あれを殴って壊すとは」


「なぁに、キョーちゃんだったら一撃だったんだろうけど、俺はまだ駄目だな。修業が足りねえぜ」


 お前はいつの間に修業なんてものをしていたんだと問い詰めたくなるが、入弦はその突っ込みを声に出すのをぐっとこらえ岩を投げ続けていた。


 考え続けると余計な事を思いつかないだろうと考え、入弦は意図的に考えるのをやめていた。


「なぁキョーちゃん、このまま壊すだけか?」


「そのほうが楽だろ?持ち上げるのに挑戦してみるならいいけど」


「確かに苦労しそうだけど、一番小さいので最後にチャレンジしてみるか。それまではぶっ壊してるわ。オラァ!」


 再び岩に向けて拳を振るい続ける吉野に、入弦は何も見えていないかの如く岩を投げ続けていた。


 この世界の一般人の基準はどのあたり何だろうかと考えていると、遠くの方から何かが聞こえるのに気づく。


 それがバイクの音だと気付くのに時間はかからなかった。


「なぁ吉野、バイクの音聞こえないか?」


「あ?俺らの……じゃないな。なんだこの音」


 入弦たちが使っているバイクに比べて妙に低く、また音が大きい。さらに言えばそれが一つや二つ程度ではないことも入弦は気づくことができていた。


「ま、まさか!山賊だ!山賊が出たぞ!」


 村の奥の方から、音に気付いて屋根に上った村人が声を上げている。


 山賊という言葉を聞いていい印象を持つ者はおそらくこの世界においてもいないだろう。


 もちろん入弦もそうだ。だがどうだろう、目の前で岩を砕いていた吉野はおもちゃを与えられた子供のように目を輝かせているではないか。


 何をどうしたらこんな風に喜べるのか、入弦は不思議でならない。


 そしてバイクの音が聞こえる方角に目を向けると、そこには十台程度のバイク、そしてそれにそれぞれまたがったスキンヘッド、あるいはモヒカンの棘付き肩パットを身に着けた筋骨隆々な男たちが鉄パイプか何かを持ってやってきていた。


「ヒャッハー!全部奪いつくせぇ!」


 土煙と共にやってくるバイクにまたがった山賊たちを見て、ようやく察することができていた。


「ストップ、ちょっと待ってくれるか?」


 入弦は山賊の登場にこの場で最も冷静さを保てているのではないかと思えるほどに落ち着いていた。


 いや、驚きが一周回って呆れに至っているといった方がいいかもしれない。


『もしもしアカさん?聞こえてますかね?時間止められます?』


『おうおうどうした。まぁよいが』


 入弦の念話での申し出に、同じく念話で対応したどこかにいるであろうアカは当たり前のようにその力を行使していた。


 瞬間世界の時間が止まり、村の畑に向かっているバイクがあげる土埃も、吉野が砕き飛び散っていた岩も、逃げまどい、驚愕の表情を浮かべている村人も、すべてが止まっていた。


『どうした?何か助けでも欲しいのか?』


『この世界あれでしょ、核戦争とかが起きて人類が滅びたかと思ったけど実は生きててって感じの世界でしょ!』


 入弦はこれに近い世界を知っていた。というより、この世界に近い漫画を知っていた。


 一子相伝の暗殺拳を伝授された主人公の復讐劇がメインの話だったように記憶している。


 とはいえ実際に読んだことがあるわけではないために、かなり朧げな知識だが、強く印象に残っている一つの掛け声が入弦の記憶を呼び覚ました。


 そう『ヒャッハー!』である


 あまりに独特な掛け声に、入弦はすべてを察したのだ。この世界における自分の役割。モヒカンの吉野が自分の近くにいるということはつまりそういうことなのだと。


『おぉ、よくわかったじゃないか。そう、その世界とお前たちの世界の違うところは核戦争が起きたという点だ。えっと……ちょっと待て。二十世紀中頃に第三次世界大戦、その後某国の核攻撃をきっかけに報復核合戦。世界的に既に壊滅した後の世界だ』


 予想通りの、だがあり得そうな世界に入弦は愕然としてしまう。この世界で自分が死ぬとしたらやはりろくでもないやられ方をするのだろうか。


 ツボを押されて顔が爆散したり、腹を貫かれたり、最期は『悔いなし!』とか言いながら立ったまま絶命するのだろうかとそんなことを考えてしまっていた。


 というかそもそもこの世界で生き残るためにどうすればいいのかもわかったものではない。そもそもこの世界に安全な場所があるとは思えなかった。


 実際、村だってこうしてヒャッハー達、もとい山賊に襲われてしまっているのだ。どのようにすれば生き残れるのかなど入弦は想像もできなかった。


『アカさん、この世界で一番大きな都市ってどこにあるの?』


『大きな都市……か、それはあくまで今いる国で、ということだろう?』


『そうそう。そもそも俺って今ちゃんと日本にいる?』


『いることはいるが、残念ながらお前の今いる場所はお前の知る日本とは異なるぞ?』


 よくわからないアカの説明に入弦は首をかしげてしまう。そんな中、アカは入弦の頭の中に情報を送ってくれる。


 それは地図だ。世界地図だ。入弦もよく知っている大陸の形がいくつもある。そして入弦の住んでいた日本、島国である日本がそこにあった。


『これがお前の知る世界地図だが、今お前がいる世界の地図はこんな形だ』


 アカが頭の中に映し出した地図は、入弦の知る世界とは大きく異なっていた。


 大陸の形が違う。いくつかの島国が大きな大陸を作り、大きかった大陸は分断されて小さな大陸となっている。


 かくいう入弦のいる日本も、島国には変わりないが、いくつかの島を取り込む形で巨大に姿を変えていた。


 もともと入弦の知る日本に比べると、その大きさは四倍近くある。


『うわぁ……道理でバイクで移動してても簡単につかないわけだ……でも名前とかは大体共通してるんだな』


『そのあたりは主要都市ばかりだ。他の細々とした都市や町などはお前の知らない名前も多いだろう。お前の求めるもっとも大きな都市で言えば……今お前が目指そうとしている京都で間違いはないだろう』


 東京は既に滅んでいるんだろうなと思いながら入弦は世界の地図を見比べる。


 こうして目に見える形でそれらがあらわされると、ここが本当に自分の知る世界ではないのだということを再認識してしまう。


 日本という国で、京都があって、吉野という友人がいる。それだけで今までの世界とそう変わらないものと思っていたが、どうやらそうではないらしい。


『この世界で、どれくらい生き残ればいいのかっていうのは、わかるか?』


『どれくらいも何も、この世界でお前を殺そうとしている者がいるはずだ。それを退けられれば何とかなるのではないか?』


『殺そうとって……あのヒャッハーとか?』


『それは知らん。だがもしお前の死の運命が変わるとすれば、お前は自動的にその体から出ることができるだろう』


 そういうシステムになっていたのかと、入弦は今更ながらこの異世界への精神転移がどのような構造なのかを知らずに動いていた事実に冷や汗を流す。


『つまり襲い掛かってくる奴を倒し続ければいずれはってこと?』


『武闘派な考え方だが間違ってはいないだろう。その世界のお前はずいぶんと強いようだし、できなくはないのではないか?』


 強いと言われてもその自覚は一切ない。筋肉がムキムキになっているだけで強くなれるわけではないのだ。


 心技体の三つがあってはじめて強者と言われるのであれば、今の入弦は心が全くない状態である。


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