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ラウンドシフト 俺四捨五入で死ぬの!?  作者: 池金啓太
ラウンド2「星の戦の絶えぬ世界で」

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013:宙が見える

 入弦はゆっくりと目を開いていた。


 暗い。最初に考えたのは周囲の暗さだった。


 ひとつ前の荒廃した世界では、光が強く、目が光に慣れるまで時間がかかったが、この世界ではこの暗闇によって、目が慣れるのに時間がかかっているようだった。


 自分の呼吸音が、いやに大きく聞こえる。体の奥から聞こえる鼓動の音もまた、入弦の耳に、いや体内を通して届いていた。


 目の前に広がっているのは、相変わらずの暗闇。いや、一つ二つ、徐々にではあるが白い点のようなものが見え始めている。


 そしてその白い点が、白い光なのだと気付くのに、随分と時間がかかってしまっていた。


 その光が一つや二つではなく、無数に存在していると気付くのに、さらに時間を要した。手を伸ばし、その光に少しでも近づこうとした瞬間、その手が何かにぶつかる。


 目の前にあるのがガラス、あるいは映像を映し出しているものだと気付き、入弦は今自分がどこにいるのか把握しようとしていた。


 まずは情報を集めるべきだ。今ここにいる自分が何者で、そしてこの世界がどのような世界なのか。


 ひとつ前の荒廃した世界のように、すでに悪行を重ねて、誰かが自分を殺しに来ているということになれば、それはそれで面倒なことになる。


 まずは自分の情報を集めるべきだと、入弦は自分の周りを見渡してみることにした。


 ここは、どこかの部屋のようだった。広い。それでいて、誰かが座るべき椅子と、その上には机がある。


 自分以外には誰もいないその空間に、この部屋が入弦自身に与えられたものなのだと理解することができていた。


 床も壁も白く、ところどころに、花などが活けてあるものの、飾り気のない部屋だ。写真も装飾品も何もない。部屋にあるのは机と椅子、そして眠るためのベッド。それ以外には何のために使うのかよくわからないものが置かれている。


 それらのどれもが、入弦は見たことがないようなものが多かった。机も椅子も、入弦が普段使っていたようなものとは全く違う。


 何よりも広い。この一部屋だけで、いったいどれほどの広さがあるだろうかと入弦は困惑していた。


 十五メートル四方はありそうな部屋の広さにもかかわらず、置かれている者が圧倒的に少ない。四畳半の部屋にでもおさまりそうなものしか存在していないのだ。このような矛盾した部屋に違和感を覚えるなというほうが無理な話だった。


 そしてもっともその違いを具体的に気付けたのは扉だ。その扉は自動ドアの類なのだということがわかる。そして扉のすぐ横には、インターフォンを確認する時に使うような操作パネルがついていた。


 部屋の中だけでも、かなり異質な世界だということが分かった。だが前の世界よりは文化的な生活を送っているということを知り、入弦は少しだけ安心する。


 また野宿生活からスタートするのではないかと少しだけ警戒していたのだ。


 だがこのような部屋で過ごしているということは、多少の立場がある、役職のある存在だと思いたい。


 逆にどんな人間が狙ってくるのか不明だが少なくとも前の世界よりは情報を集めるのは楽そうだと、入弦は小さく安堵していた。


 そして目の前に存在している黒い空間。あまりに暗すぎて、周りの景色が全くわからないのが気がかりだった。


 光のようなものが無数にあるものの、それが一体何なのかも、暗すぎてみることができない。


 せめて周りの景色を把握することができれば、状況や世界観を理解することができるのにと頬を搔こうとしてそれに気づく。


 何か、被っている。


 入弦の顔の部分、いや、頭に至るまで、何かをかぶっているということに今更気が付いた。


 マスク、というよりはヘルメットのようなものだろうか。手で触ってみるとその形は兜のようにも、野球の時に被るヘルメットのようにも感じられた。


 鏡でもあれば自分の状態をよく確認することができるのだが、この部屋に鏡らしいものは存在していなかった。


 入弦は自分の周りよりもまず、自分が何を身に着けているのかを確認しようとしていた。


 幸いにも、部屋は明るく自分の目で自分が今どんな格好をしているのかは把握できていた。


 手は手袋をしている。そして黒い衣服を身に着けているようだった。衣服は、視線の関係で完全に把握することはできないが、清潔で、なおかつ頑丈な衣服であることがわかる。


 前の世界で着ていた衣服とは段違いの服だ。


 ズボンに靴、そして上着、何もかも、随分と上質なものであるということがわかるのだが、鏡がないため全身をすべて確認できないのが歯がゆいところだった。


 鏡くらい用意しておけばよいものをと思いながら、入弦は自分が今かぶっているこの謎の物体を外すことができないものかと頭をいじってみるが、どうにも外し方がわからなかった。


 そんなことをやっていると、真っ暗で何も見えなかった黒い画面上に、何かが映し出される。


 ようやく小さな光以外に見えるものができたと、入弦は世界の情報を確認するために自分の体よりも先にそちらの方に目を向ける。


 徐々に大きくなっていくそれが一体何なのか、最初はわからなかった。


 それは一種の建造物のように見えた。だが建物というのはあまりにもいびつな形をしている。


 目を凝らし、その建物が一体何だろうかと考えていると、その姿はどんどんと大きく、否、近づいてきているのだということに気付く。


 大きい。とにかく大きい、その大きさは、その建物が放つ光と構造物の多さが教えてくれていた。


 果てしない距離の先にある物だと、そして巨大な大きさを持っているものだと、入弦は時間をかけながらではあるが理解していた。


 その建物が、まるで入弦が今いる場所と並ぶようにその全容を見せたことで、入弦はその建造物の正体をようやく理解した。


 三角錐の形状をしたその建造物が一体何なのか、理解するのにかなりの時間を要していた。


 船だ。それもただの帆船や旅客戦などではない。単なる海を行く船ではない。巨大な、あまりにも巨大な宇宙船なのだと気付いて、入弦は目の前に広がる黒い空間が一体何なのかを理解した。


 目の前に広がる空間は、決して暗くて何も見えなかったのではない。見えないのは当たり前だったのだ。


 目の前に映し出されているそれが、宇宙だと理解し、入弦は愕然としてしまっていた。


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