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第四十八話 黄金の雨

 レンタヒルに戻り馬車を返してから、列車に乗り込んで一行はアリネルの足元、ブレーメンの町まで来た。

 そして再び入場管理局まで来てはアリネルの入場券を貰うのだった。

 「いよいよなのだ」

 「あたしゃ、この町初めてだね」

 アメラがもの珍しそうに言った。

 そして一行は二日かけて無事にアリネルに上陸し、アリネルの市長のところまで来た。

 市長が話す。

 「――久しぶりだね。何かあったかい?」

 サンガが応える。

 「ええ。無事に石片を回収してきました。ここの石片で最後です。だからこの町の石片に触れに行きたいのですが、あの柵を開錠してもらえませんか」

 「ふむ。その前に、私にもその石片とやらを見せて貰えないかね?」

 「ええ、かまいませんよ」

 サンガは石片を手渡した。

 「――石が灰色になるのはなぜだい?」

 「それは神聖魔法の適性があんたに無いからだね」

 アメラがそう言った。

 「私が触っていましょう。そうすれば読める」

 サンガは触れ続けて石片の内容が読めるようにした。

 「ふむふむ。神から人へねえ。面白いもんだ。本当にこんなものが他にあるなんてねえ。――私の知ってるアリネルの歴史によれば、一番最初にある聖人のもとに星が落っこちてきて、曰くそれには神からのメッセージが書いてあったと。しかし聖者はメッセージではなくその石の持つ性質に興味を持ったと。何でも今まで見たことが無かった物質だったから。そして月日は流れ、聖人は星の石から魔力と生命力を引き出す研究を完成させた。それがあの光の御柱だよ。……で、その星の石がかけらだったとはね。その石が完成したらどうなるんだい?」

 「人々の意識が覚醒するそうです。それは戦争をなくすためだとも」

 「ふむ。世界平和ね。素晴らしいじゃないか。で、そのあとは?」

 「そのあとは聞いてませんね」

 「ほう。まあ、とりあえず、その石、完成させてみようじゃないか」

 「はい」

 市長に連れられてサンガ達はアリネルの中心にある光の柱まで来た。

 「さあ、どうぞ」

 カチャ。

 市長が柵の鍵を開けた。

 「ありがとうございます」

 サンガはすべての石片を持って中へ入った。

 (これをくっつければいいのかな?)

 しかし九つの石片を一人の手でくっつけるのはできなかった。

 プルルル。

 (神様、石片を回収し終わりましたが、どうすればいいですか?)

 (うむ。お疲れさまじゃ。――メルジャウド・コネクトレリック。そう唱えると良いじゃろう)

 (そうですか、試してみます)

 プツッ。

 「じゃ、早速やって見ますか」

 サンガは石片を両手に持って、アリネルの石片にくっ付けて唱えた。

 「メルジャウド・コネクトレリック」

 ピカッ。

 シュウー。

 光と熱を出して石片同士はくっついた。

 「ほう」

 市長は軽く驚いた。

 サンガは続ける。

 「メルジャウド・コネクトレリック」

 アーチ状に、半円状に石片はくっ付いていった。

 そしてついに最後の石片が接着された。

 「何が起こるんだろうな……?」

 サンガがそう思っていると、足元から光が溢れ出して光の柱の中心までその光は行った。そうして今度は光の柱の色が黄金に変わり、その光が天まで届いた。次はその光が星を包んで行った。

 「うわあ、すごいですね。空が全く黄金色です」

 ユリシーが言った通り、空は黄金の雲に包まれていた。

 やがてその黄金の雲から、黄金の雨が世界中に降り始めた。

 ザザー。

 「不思議なのだ。濡れてないのだ」

 「光でできた雨なのでしょうね」

 ティローラと明莉がそう言った。

 その光の雨はすべての人々の心を洗った。

 「何が変わったってわけでもないが、強いて言うなら、意味のない争いはする気にはなれないってところだな」

 ジークが珍妙そうに言った。

 「私も故郷に帰れるといいのですが」

 ブランが言った。

 「ブランさん、きっと大丈夫ですよ。あなたの無実の罪もいずれ晴れる日が来るんです」

 「ありがとう、ゾリュアさん」

 ゾリュアとブランは手を繋ぎ、降り注ぐ雨を見上げた。

 「にゃごーん」

 「うん? なんだかウィズは喜んでるみたい。この雨で本当に人々の意識が覚醒するんでしょうね」

 アイは愛猫のウィズと戯れている。

 「オレ、なんだか不思議な感じがするぜ。胸のあたりがざわざわするよ。悪い意味じゃなくってさ」

 それはルナの心に芽吹いた本当の生きる希望だったのかもしれない。

 「あぁ、どうか拙者にインスピレーションを! 西東の刀剣術を融合した新たな刀剣術を創められますように……」

 ヤエバは雨に祈るのだった。

 サンガは一人両手を上げて一身に雨を浴びていた。

 「……」

 それが「ショーシャンクの空に」ごっこであるとはついに誰も気づかなかった。

 近くの家から人が出てきて言う。

 「市長さん、この雨は何ですか! 家の中にまで降ってきたと思ったらなにも濡れないし……。一体何がどうなってるんですか?」

 「ああ。何でも人々の意識が覚醒する現象が起きているとか。君も全身に浴びていくといい」

 市長は住民にそう言った。


 一時間後、雨は降り止んだ。太陽は黄金に輝いている。

 これは後で分かったことだが、黄金の雨によって大陸中の人々のお腹も心も満たされたようだ。

 その後も黄金の雨は週に一度降り注いだ。

 「じゃあ、市長さん。石片の管理は任せました」

 「ああ、任せておくれ。これまで以上に厳重に管理しよう」

 「あっ、その前に石碑の文言を書き写させておくれ」

 アメラはそう言って、写本を作るのだった。


 一行はアリネルの料理店でごはんを食べていた。

 「長いようで短い旅だったな」

 サンガが思いに耽る。

 「列車での移動が多かったな」

ジークがボヤく。

 「このあとはどうしますか?」

 ユリシーが尋ねた。

 「そうだな。することが無くなってしまったね」

 サンガはテレパシーを送る。

 プルルル。

 (神様。この後はどうすればいいですか。俺は天国へ帰れますか?)

 (ああ、まあ色々あるけど、あと一年もすれば天国へ帰ってこれるぞ。それまで自由に過ごすといい)

 (一年ですか……)

 (ああ、短いじゃろう。わしの仕事ぶりに感謝するとよい)

 (長いですよ)

 (長いかぁ。人間の感覚はちょっとズレてるんだな)

 (ズレてるのは神様の方じゃ?)

 (ほほほ。そうかもしれぬな)

 (まあ、ぼちぼちやっていきますわ)

 (子供でも作るとよい。お主がその世界に寄与できるのはそのくらいじゃな)

 (ふむ。子供ですか)

 (ああ。ユリシーちゃんに明莉ちゃんがおるじゃろうて)

 (ええ、まあ、いらっしゃいますけど。なんだか自分から行けなくて)

 (ガッツじゃよ)

 (ガッツですか)

 (まあ頑張れ)

 (おざなりですね)

 (ほほほ)

 プツッ。

 (あ、切った)

 サンガはユリシーと明莉に言う。

 「ねえ、ユリシー。明莉。これからは一緒に住まないか?」

 「わっ、プロポーズなのだ。じゃ、わたしもなのだ。ゾリュアさん、わたしと一緒に住んで欲しいのだ」

 「ブランさんも一緒にでしたら構いませんよ」

 「やったのだ」

 「え、私はそろそろ故郷へ帰らないと……」

 「そんな堅いこと言わないのだ。ブランちゃん」

 「――で、どうする? 二人とも」

 「私、構いません」

 ユリシーが前のめりで言う。

 「私は星本神社へ帰って、あとを継がなければなりません」

 「ふむ」

 「――なあ、オレも一緒に住んでいいよな?」

 「ああ、もちろんだとも。ルナ」

 サンガとユリシーとルナは一緒に住むことになった。

 「拙者は帝国に帰るでござるよ」

 「そっか」

 ヤエバは帝国で道場を開く算段だ。

 「ジークさん。よかったら、あたしの家に来ませんか? 武闘大会もすぐ近くですよ」

 「サンマリアか。たしかに悪くない話だな。――じゃあ、アイん家にお世話になるとするか」

 「えへへ。よろしくお願いしますね」

 「にゃごーお」

 ボッ。

 ウィズが小さな火を噴いた。

 「お、おう」

 ジークは笑った。

 「アメラさんはどうするんですか?」

 サンガの問いにアメラが答える。

 「そうだね。もうちょっと旅したいからサンガに最後まで付いてくよ。帰るのはいつでもすぐにできることだからね」

 「そうですか、ありがとうございます」

 そこまで空気に徹していたアローマが口を開く。

 「わしはそろそろ寿命じゃ。明後日くらいかのう。見届けてくれるかのう?」

 「当り前です!」

 みんなは口を揃えて「見守る」というのだった。

 「――ところでジークは誰が好きなのだ?」

 ティローラが尋ねる。

 「俺かぁ? そうだなあ。全員好きだぜ」

 「そういうのはいいのだ。どの女の子がって聞いてるのだ」

 「強いて言うならモリリスさんだったかな」

 「あーそっちかあ」

 アイはそう言った。

 「モリリスさんは胸大きかったのだ。ジークはそういうのが好きなのか?」

 「ちげーよ。俺はあの勝気な性格が悪くねえなと思ってただけ」

 「ふーん」

 そんなこんなで話は盛り上がり、夜は更けていくのだった。


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