第四十四話 クルネールの海賊
一行はアメラの森から東に行って漁師町クルネールに来ていた。
「――ここさね。私の知り合いの居るところ。おーい」
コンコン。
ガチャ。
「ああ、アメラさんですか。今日は何の用事で?」
「ちょっと海を渡りたくてね。船出せない?」
「船ですか。――みたところ十人以上いらっしゃいますね。それほどの人を乗せられる船はちょっと……。あっそうだ。モリリスのところはどうだろう。最近は大きな船を作ってた。モリリスの住所はここです。青い髪したロングヘアーの若い女性です」
「そうかい。助かるよ。じゃ行ってくるね」
「はい。いってらっしゃい」
一行はモリリスなる者の家まで来た。
コンコン。
「いらっしゃる?」
……。返事はない。
ガンガン。
強めに扉を叩く。
「…………。どうやら居ないようだね。青髪のロングヘアーって言ってたね。ちょっと浜の方まで探しに行ってみようか」
浜辺に来ると色々な船があった。その中でも一際大きな船を作っている人たちが居た。
「あれかな?」
近くに行くと、青髪の女性が指揮を執って船を造らせていた。
「――すみませーん。あなたがモリリスさんですか?」
サンガが話しかけた。
「うん? なんだい? あたしに何か用事?」
「実は海を越えて南東にある島に行ってみたくてですね……」
「そうかい。そりゃ楽しそうだね。それじゃ」
会話は終わってしまった。
「――そんなこと言わずに。僕たちをあの船に乗らせて貰えませんか? できれば南東の島まで往復送って欲しくて」
「ほう。お前さん方、私の一味になるかい?」
「へ? 傘下に入れと?」
「ああ、あたしはこれから海賊に行こうとしているんだ。女海賊は私の夢なんだ」
「そうですか。南東の島に行けるなら何でもいいです」
「ふっふっふ。また仲間が増えちまったぜ。よし、お前らも船を造るのを手伝え」
ということで船造りを手伝うことになった一同であった。
「ははっ。モリリスのやつ、また海賊ごっこやってるよ。漁師の娘のくせにな」
「うっさい! 私は海賊だ!」
モリリスは漁師の娘だという。話によれば、彼女が幼いころに、海賊小説が町で流行ったらしく、それに心遊ばせ、夢見た少女は、今、本当の海賊になろうとしているというわけだった。
その夜、アメラを除く女子たちはモリリスの家に泊まるのだった。
「――だからあ、あたしは漁師じゃなくって海賊なのー。サヴィー?」
「モリリスさん、ちょっと呑みすぎですよっ」
アイがモリリスの晩酌の手を止めるのだった。
「あー! うるさーい。……酒くらい好きにやらせてくれよう。海賊がままならないんだからさあ。やっと船が出来始めたんだ。仲間を集めるのには苦労したんだぜえ?」
モリリスの長い苦労話が始まるのだった。
一方で、男子たちとアメラは、アメラの知り合いであるコリンの家に泊まっていた。
「アメラさんとこうして長いこと話せるのは初めてですかね」
「そうだね。いつも美味しい干物をありがとう」
「いえいえ。偉大な魔女様に何かプレゼントできるだけでも私は嬉しいです」
「できた男だよ、みんなもそう思わないかい?」
「ええ」
サンガは頷いた。
「――さっ。いきましょう」
「おう」
ゾリュアとジークは酒盛りだった。
夜は更けていく。
明くる日、クルネールには都会から行商人が来ていた。行商人の売り物の中には水着もあった。なので皆は水着を買って海で遊んだ。モリリスもこの日は船造りを休むことを許してくれた。
「へっ。なにせ、あいつらの中には海が初めての奴も多いことだろう。一日くらい休みを与えてやってもいいだろう。太っ腹な私だぜ」
モリリスは自画自賛していた。
「あはは、ちべたいのだ」
「えーい」
バシャン。
アイはティローラに海の水をかけていた。
「ふふっ。まだまだ子供ですね」
明莉は傍観して大人びていた。
「むむ。拙者、身体のラインが強調される水着というものは苦手でござるよ。少し恥ずかしい」
ヤエバは縮こまっていた。
ところでサンガとジークは面白いことをやっていた。
「サンガ、これができるか? 本来は湖の上を行く技なんだがな」
そう言ってジークは海の上を走って見せた。
「おお、すげえな。どうやるんだ」
「足の裏から魔力を放出する感じだ」
「よくわからんがやってみる」
ババババッ。
サンガにはよく分からないが、何となくでできていた。
「すげえな。サンガ、お前さん、やっぱり持ってるぜ」
ジークはサンガを褒めた。
ところでゾリュアとブランは砂浜に座っていた。
「ブランさん。泳がないのですか?」
「僕、泳ぎ方とかわからなくって……」
「そうですか。なら私が教えてさしあげましょう」
「本当ですか? 嬉しいです」
ゾリュアはブランの手を引きながら泳ぎ方を教えるのだった。
「そうです、そうです。足は波打たせるんです。後は頭を浸ける。へそを見る感じで」
「ふむふむ」
「じゃあ、そろそろ手を放しますね」
「はい」
バシャバシャ。
ブランは泳ぎ方の吸収が早かった。
「ぷはぁ。ゾリュアさん。僕、できましたよ!」
「うん、さすがです。吸収がいいですね。この後は何しましょうか」
「泳ぎで競争しませんか?」
「ははっ。負けませんよ」
二人は泳ぎで対決するのだった。
ところでルナは一人魚と格闘していた。
パシッ。
「やったぜ!」
やっとの思いでルナは素手で魚を捕まえるのだった。
こうして一行の水着での一日は終わるのだった。
その後はみんなで船造りを手伝う日々が続いた。
そしてついに船は完成するのだった。
「感動だぜぇ。ついにこの日が来るとはなあ」
モリリスは感無量だった。
「親方! ついにやりましたねえ」
モリリスの部下たちは感動の涙を流していた。
「モリリスさん、やりましたね。これでやっと海に出られる」
サンガは希望に満ちていた。
「海のことならあたしたちに任せな。あんたらの目指してる南東の島に連れてってやるよ」
「頼もしいです」
「あたしは元々頼もしい女なの。サヴィー?」
「そうですか。ところでサヴィーってなんです?」
「わかったか?って意味だよ。――サヴィー?」
「わかりました。サヴィーです」
「――明日は雨だから航海の日はまた次の日にしようね」
「はい」
こうして航海の準備は整うのだった。
次の目的地は南東の島である。