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第四話 サクッと儲ける

 ゴトン、ゴトン。

 「暇だなあ。なにか歌でも歌うか。――そうだなあ。麦津玄師むぎつけんしの電撃でも歌うか。――ふーんふ、ふーんふ、ふーん。――刹那に散るそのきらめきを何度も焼き付けよう死ぬ間際に。そして興奮を、おいらに電撃を。また行こう、誰も知らないところ、たった二人でー」

 「うー! うるさいのだ。静かにするのだー! むにゃむにゃ」

 「ああ、ごめんよ、ティローラ。起こしちゃったかな。――でもまた眠ってる。さすが眠り姫を自称するだけはあるな……」

 ゴトン、ゴトン。

 一行はサンマリアへ向けて進むのだった。


※  ※   ※


 ユリシーとサンガは二人、トロメールを出発する日がやってきた。サンメスに向かうのだ。

 「三時の魔女、アメラさんに会うためには、まずはサンメスまで行かなくちゃですね」

 「ああ。それが一番近い道のりらしいからね」

 二人は行商人の馬車に一緒に乗らせてもらって、旅立った。


 トロメール出立から三日、サンメスまで三日のところにやってきた。そこには少し大きな湖があった。休憩時間になったから、二人は思い思いのことをすることにした。

 「ユリシー。俺、ちょっと向こう岸まで歩いてくるわ」

 「はい。お気をつけて」

 トコトコと湖の淵を歩く。青く透けた水面からは魚がいくつか見える。

 (ここは栄養も豊富なんだな)

  サンガはしばらく歩いた。

 向こう岸までやってきた。するとそこには、灰色の岩らしきものがあった。

 「ふう、一息つくか」

 サンガは何気なくその岩に背をもたれた。

 すると、意外なことに岩は動きだした。

 「お? なんだ?」

 「グォー!」

 「あ、こりゃあ、ドラゴンだわな。気づかなんだ」

 現われたのは灰色の身体をしたドラゴンだった。大きな雄叫びを上げてサンガを威嚇している。

 「なんだ、やるってのか。しょうがねえ、相手になってやるぜ」

 ドラゴンは口を大きく開けて、火を噴いた。

 「ガオォー」

 「うわっ、あっちち」

 サンガの髪の毛が軽く焦げた。

 「野郎め、仕返しだ! ハッ」

 サンガはエターナルブレードでドラゴンの羽に斬りかかる。

 ジャキンッ。

 鱗が数枚剥がれただけで、致命傷には至っていない。そこでサンガは全力を解放することにした。

 「ハーアァー。 ッ! ホームラン・スラッシュ!」

 ズバアッ。

 バキバキバキン! ジャラジャラ。

 ドラゴンの鱗が一気に剥がれた。

 「ウオォーン」

 悲しそうな声をあげる。どうやら痛かったようだ。

 ドラゴンは戦意喪失し、大空へ飛び立っていった。

 残ったのはサンガとその足元に大量のドラゴンの鱗だけだった。

 「……。鱗か。売れるかもな。持って帰るか」

 サンガは両手いっぱいに鱗を持って、持ち帰った。


 「うわ、なんですかそれ、サンガさん!」

 行商人が驚く。

 「見て驚け。ドラゴンの鱗だ。灰色だったぞ」

 「灰色のドラゴン。噂のアッシュド・ドラゴンですかい。初めてお目にかかりましたよ。こいつは高く売れるにちげえねえ。ぜひオイラに買わせてくだせえ。その鱗」

 (やったぜ)

 「いいですよ。その変わり、鱗一枚、金貨5枚ですよ」

 「えー! うーん……。でも、もう二度とお目にかかれないかもですからね。しょうがない。その話乗った! 買います」

 こうしてサンガはまた一儲けしたのであった。


 「ところで行商人さん、ユリシーはどこへ?」

 「ああ、彼女なら水浴びに行きましたよ。――なんです? 覗くんですか? 覗くならその件もわしに一枚噛ませてもらえませんかねえ。げへげへ」

 「いや、覗きじゃない。ドラゴンの鱗を見せたくってだね。――ただそれだけだよ?」

 「なんでえ……」

 (このエロジジイ。そこまでして覗きたかったのか?)


 「戻りましたー。あ、サンガさん。おかえりなさい。なにかありましたか?」

 「おう、ユリシーくん。これを見なさい。なんだと思うかね?」

 「銀色に光ってる……。なにか大きな貝殻ですか?」

 「ちっちっち。違うんだなあ。――これはドラゴン、アッシュド・ドラゴンとかいうやつの羽の鱗だよ」

 「えっ! アッシュド・ドラゴンですか!? それは大変貴重ですね。アッシュド・ドラゴンなら、その鱗にはアマアレイブの成分が豊富に含まれているはず……。魔法研究の後学のためにも、私に一枚くれませんか」

 「うん、いいよ。あげる。向こう岸にいけばまだあるよ」

 「うふふ。アマアレイブの素材が手に入るなんて……。やったわ……ッ」

 行商人とユリシー、二人でテンションを上げながら、向こう岸に残る鱗もすべて回収するのだった。

 サンガはその間に水浴びをしていた。

 (ふう。やっと一息つけた。サンメスまであと三日だ。もうすぐだな)

 サンガの気持ちははやるばかりであった。


※  ※   ※


 「もしもし、神様」

 「はいはい」

 「あのー、なんで三万年もこの世界に顔出していないんですか?」

 「あー、それはのう、わしにもできないことがあるんじゃよ。実はわしはオートフェールの神としては後任、つまり二代目でなあ。やり方がわからんのじゃ。――それに、顔を出したところで、神様が現われたら、神様のご機嫌取りをする人間で溢れかえるじゃろう? わしはそんなこと、望んでおらんのじゃ。だからわしは顔を出さんのじゃよ」

 「なるほど。そんな理由があったんですね。でも、この世界に対して何かできることもあるのではないですか?」

 「実はもうやっていてな。それがシュペンヘリアルダイトの石碑なんじゃよ。しかし、この半霊半物質のシュペンヘリアルダイトなんじゃが、下界に下ろすときに次元間の齟齬が起こって九つに割れて分かれてしまったのじゃ。そこで、このシュペンヘリアルダイトの石片を集めて石碑を完成させてもらいたいのじゃ。魔女の治療よりも先にしてもらってもかまわんぞよ。いや、同時並行で頼む」

 「はあ。でもそれって、どこにあるんですか? それが分からないと集めようもないですよ」

 「今わしと繋がっておる魔女たちに、少し聞いてみるわい。また何かわかったら連絡するぞい」

 「わかりました。お願いします」


 サンガに新たな任務が加わった。シュペンヘリアルダイトの石片の収集である。シュペンヘリアルダイトの石碑とは、黒電話の回すところよろしくアーチ状の石碑である。これには神から人への箴言が書かれている。シュペンヘリアルダイトの石片をすべて合わせたときには、光がオートフェール中を巡り、人々の意識をいい方向に変えるであろう。


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