第二話 サンガ現れ、スライムに負ける
ゴトン。ゴトン。
「なあ、ユリシー。君は、その茶髪の長髪は地毛かい?」
「ええ、地毛ですよ。気になりますか?」
「いやねえ、ちょっと気になっただけ」
「そうですか」
ゴトン。ゴトン。
「いつ着くんでしょうね? 私、お尻が痛くなってきちゃいました」
「さあね。辛抱強く行こうぜ?」
「はい。サンガさんのやる気にはいつも救われる気がします」
「ははは、ありがたいね」
※ ※ ※
源蔵は天国からオートフェールの世界へと転移した。しかし、転移された場所は衛星軌道だった。
「うわっ、でっけえ! 緑の星だな。地球が青の星だとしたら」
源蔵はそのまま隕石の如く地上へと向かった。
「うーん。で、これ、着地はどうすればいいんだろう? とりあえず痛くないといいな」
ゴーッ!
空気の摩擦で源蔵の身体は燃え上がる。
「うーん。燃えてるなあ、俺。――でも、不思議と熱くない。神様が言ってたなあ。とりあえずステータスをカンストにしといてあげるって。それって何でもとりあえず最強ってことでいいのかな?」
はい、そういうことです。ステータスがカンストしている源蔵は衛星軌道から地上に落下したとしても、なんら傷を負わないだろう。
しばらく考え事をしているうちに地上が見えてきた。
「あー、そろそろぶつかるなあ」
源蔵は目を瞑った。
ドッゴーン!
源蔵は地上へ降り立った? 落ち立った。
「ふむ。とりあえず痛みは無し。万事オッケー。あたりを見回すことにするか」
源蔵は目を開けた。
源蔵の目に映ったのは、土だった。そりゃそうだ。クレーターを作ったからな。
「とりあえず、穴から出るか」
源蔵は軽く跳んだ。すると源蔵の思惑とは裏腹に、天高く跳んだ。
「おわあ! どんだけ跳躍力あるんだ!」
10秒ほどしてから地面に降り立った。
「よっと。――さてと、あたりはどうなってるんだ?」
源蔵は見回した。
そこには海が見えた。
「さすがに海はまだ旅の道程にはないよなあ」
海と反対方向を見た。
「おっ。陸地だ」
とりあえず、絶海の孤島でなくて良かったと源蔵は思った。
「なにか国か町が見えるまで、走ってみるか」
源蔵は風の如く走りだした。
夜になった。まだ町は見えてこない。
「仕方ない。野宿にするか。なにか火を点けられるものはないかな」
源蔵は林に入って木の枝を持てるだけ持って、戻った。
「えっと、火の点け方、よくわからないんだよなあ。とりあえず、擦ればいいよな?」
源蔵は木の板に、木の枝を、全力で擦りつけた。
ズリズリズリズリ。
バコッ。
木の板に穴が開いた。
「ありゃ、擦りすぎたか? 筋力も最強っていうことか。面倒だなこれは。――今度は力を調整してっと……」
ズリズリズリ。
しかし、炎は上がらない。
「あれえ? 俺ってサバイバル能力、なさすぎ?」
結局、何回も挑戦したあとに、源蔵は諦めた。
一日目の夜は、明かりも温もりもなく、硬い地面に寝転んで一夜を過ごした。
「なんだか幸先悪くない?」
一人ごちた。
明くる日、源蔵はまた走った。
あたりに緑が増えてきた。近くに町があるかもしれない。
「とりあえず、神様に聞いてみるか」
源蔵は神様にテレパシーを送った。
「もしもし、神様? ここの近くに町ってありませんか?」
「もしもし、神様です。源蔵ちゃん、そこから東北に10kmくらい行ったところに町があるぞい」
「ほうほう。ありがとうございます。早速行ってみますね。それでは」
「うむ。がんばれ。それじゃな」
プツッ。プーッ、プーッ。
(テレパシーって電話とほぼ同じ感じなんだな)
「さてと、じゃあ、行ってきますか」
源蔵はまた走った。
「おや? あれは町というよりも『街』っていう感じですな」
源蔵は街の中へ入った。
「とりあえず、腹が減ったな。飯でも食うか。どこか飯屋はないものか?」
クンクン。スンスン。
源蔵は鼻を鳴らして嗅いだ。
ビビビ。
「む、こっちだな!」
最強の嗅覚を利用して源蔵は飯屋へと辿り着いた。
「たのもー! 店主さんはどなたかー?」
大きな声で叫んだ。
「なんだい、あんた。店主なら厨房で料理を作ってるよ」
「わかった。ありがとう」
幸いにも厨房はシースルーになっていた。
「すいませーん! あなたが店主さんですか?」
「うん? おう! 俺が店主だ! 何か用かい?」
「なにか食べさせてください。頼みます」
「あんた、お金は持ってるのかい?」
(お金? そういや、神様からお金は貰ってなかったな。どうしようか)
「いえ、持っていません。ですが、なにか役に立つ仕事をしますので、一食食べさせてください」
「そうかい。じゃあ、何してもらおうかね。――とりあえず薪割りでもしてもらおうか。店の裏側に回ってくれ。そこに薪置き場がある。割り終わったらまた呼んでくれ」
「はい、ありがとうございます」
(ランランラーン。どうにか一食分は何とかなりそうだ。やったぜ)
源蔵は薪割りを済ませて、店主に話しかけた。
「おや、仕事が早いね。ありがとう。お礼に一食やるよ」
「ありがとうございます」
(やったね)
源蔵は食事を始めた。
「こいつはサービスだ」
エビのようなもののむき身が乗ったサラダが出てきた。
「どうも」
(うん、美味い)
源蔵は無事に食べ終わった。
(さてと、これからどうするか? 魔女がどうたらと言っていたが、その魔女はどこにいらっしゃるのか。魔法に詳しい人でも探すか)
「すいませーん。魔法に詳しい人って、この街に居ますか?」
「魔法に詳しい人ねえ。――魔法使い連盟のある屋敷にでも行ってみたらどうだい?」
「ほう、それはどこにありますか?」
「ここから西北に行ったところだよ」
「ありがとうございます」
早速、源蔵は魔法使い連盟とやらに行ってみることにした。
「ここかな?」
魔法使い連盟の屋敷に入る。受付が見えた。
「すいません。ちょっと魔女について伺いたいのですが、お時間よろしいでしょうか?」
「えっとー? 魔女についてですか……。少々お待ちください。」
受付嬢が奥に引っ込んだ。
しばらくしてから、出てきた。
「魔女に詳しい魔法使いが一人いました。こちらへどうぞ」
受付嬢に案内されて、ある部屋に入る。
「少々お待ちくださいね」
「はい、ありがとうございます」
トントン。
ノックの音だ。
「はーい!」
「失礼します」
やって来たのは茶色い髪をした長い髪の女の子だった。
「初めまして、ユリシーと申します」
「初めまして――」
(やばい、どうしよう。『源蔵』って名前、ちょっと古臭すぎる? 何て名前にしよう。思いつくのは『国破れて山河在り』だ。よしサンガにしよう)
「――サンガと申します。よろしく」
「それで、サンガさんは、どうして魔女のことを知りたいと仰るのですか?」
「それは神様に頼まれたからでして。……えっと、変に聞こえるかな?」
「神様ですか……。今日日、聞かないですね。最後に現われたのは三万年前だと言われますものね」
「三万年前ですか! 随分と顔を出していないんですね」
(今度、聞いてみよう。なんで顔を出さないのかと)
「それで、俺は、世界を救うために、魔女の手伝いのようなことをしなければならないんです。魔女を治すとか。だから、魔女がどこに居るのか知りたいのです。どうぞ教えてください」
「一概に魔女と言っても、この世界には魔女が六人いらっしゃいますからね。この街から一番近いところにいらっしゃる魔女は東の森のヴルプルさんですかね。でもヴルプルさんが治療が必要だとは聞いたことがありません。どこの魔女さんでしょうね?」
「ユリシーさんでも分かりませんか。ではしらみつぶしに一人ずつ当たっていくしかないんでしょうか」
「そんなこともないと思いますよ。魔女は魔女について詳しいと言われますから。魔女同士、何かしらの情報網があってそこで交信しているのではないでしょうか」
「ということは、ここから一番近いヴルプルさんに話を聞きに行けば良さそうですね」
「ええ、そういうことで良いかと思います」
「ありがとうございます。一歩進めました。また来ますね」
「サンガさん。お金は持ってますか? 巷では『ものすごい勢いで薪を割る、赤い鎧の男が飯屋に現われた』と噂になっていますが、きっとサンガさんのことですよね?」
「お金ですか。生憎と持ってないんですよね」
「なら、雑務屋へ行って任務を受けて、それの達成報酬でお金を貰うといいかと思います」
「ギルドでクエストですね? わかりました。何度もありがとうございます」
「いえいえ。これも仕事の内ですから」
やることは東の森の魔女、ヴルプルに会って話を聞くこと。その前にお金を貯めること。よし行くか。
「それじゃあ、また!」
「はい」
源蔵、もといサンガはギルドへとやって来た。
「うーん? 色々あるなあ。何がいいんだろうか。とりあえず、一番上に貼ってあるものでもやるか」
ペリッ。
一番上に貼ってあったものを剥がして受付へ持っていく。
「これ、頼みます」
「はいよ。レッドブルの討伐だね。こいつは赤い色をした雄牛だ。少し凶暴だから気を付けな」
「討伐した証拠はどうすれば?」
「腹の肉でも持って来な」
「あい、わかりました」
(うう、屠殺みたいなものか。苦手だなあ)
街を出て、平野へとやってきた。
「聞いたところによると、ここらへんに出るようだ。しばらく待ってみるか」
一時間後。やっとレッドブルのお出ましだ。
「貴様か、ここいらの人達を怖がらせているのは。悪いが、その腹の肉、いただくぞ!」
サンガはエターナルブレードを構えた。
「ハッ!」
一息に駆けて、斜めに斬りつけた。
ズバッ。ザシャアー!
レッドブルは倒れた。
「うん? なんだかあっけないな。こんなものか。――さてと、腹の肉でも裂くか」
ドクドクドク。
レッドブルの身体から血が滴っている。
(うう。やっぱり血は苦手だぜえ。でも、金のためにはやらなきゃなあ)
その時、後ろの方で声がした。
「誰か! 助けてくれ! スライムが出たぞお!! 一人、取り込まれちまった!」
(む。誰かの助けを呼ぶ声だ。行かなければ)
レッドブルを放っておいて、声のする方へ向かった。
ブクブクブク。
(ふむ。青白い液体の中に一人、取り込まれているな。さて、どうしたものか。とりあえず斬ってみるか)
「俺が行く。ちょっと見ててくれ」
「おう。おいらは街まで魔法使いを呼びに行ってくるよ。気を付けてな、あんちゃん」
サンガの見た目は、ニ十歳の茶髪の長髪だ。ちょっとしたイエス・キリストだな。
「じゃあ、行くぜ? ハっ! おりゃあ!」
ズサッ。ジャリッ。
取り込まれた男の周りを削るようにして斬りつけていく。スライムがどんどん小さくなっていく。
そして男の姿が出てきた。
「よし、今だ」
ガシッ。
サンガは男を左手で掴み、引きずり出した。
「おい、起きろ!」
パンパン。
「げほっ、げほっ。うう。――ああ、あんたが助けてくれたのか? ありがとう。気を付けてくれ。スライムはしぶといぞ」
「ふむ。なら塵も残らないくらいに切り刻んでやる」
シュッ。ザザザザザザザッ。
「これで大丈夫だろう?」
「ああ。キングスライムじゃなければ、それで大丈夫だ。俺は街に戻ることにするよ。あんたも早いうちに戻ることだな」
「ああ」
街に戻る男を見送るサンガ。後ろを振り向くとそこには小さな水滴がたくさん散らばっていた。
(あれ? さっき、塵も残らないくらいに切り刻んだはずなのに……)
ぺちょ、ぺちょ。
指で触ってみる。
ちょっと気持ちいい。
「おっと、遊んでる暇ではないな。こいつが復活してきてるってことは、キングスライムってことか? 孫の持ってたゲームにあったな、たしか『ドラゴンミッション』だったか。王冠被ってたな、あれは」
と、そんなことを思い出している内に、気付いたらキングスライムは元の大きさよりも大きくなっていた。
「むむ。野郎め。また塵にしてくれるわ」
キングスライムを斬りつけるサンガ。しかし、効果はないようだ。キングスライムは大気の水分を吸収してどんどんと大きくなっていく。
「はあー、でっけえ! さて、どうしよう」
ビヨーン。ガシッ。
キングスライムから触手が伸びてサンガは捕らわれてしまった。
「あっ、くそっ。離せっ!」
みるみる内にサンガはキングスライムの体内に取り込まれてしまった。
「ゴポゴポゴポッ」
(って、無駄に空気出すもんじゃねえな。息を止めなきゃ! こういう時、どうすればいいか、神様に聞いてみよう)
プルル、プルル。
(もしもし、神様?)
(はいよー)
(キングスライムの中に取り込まれてしまったんですが、どうすればいいですか?)
(諦めよ。いくらお主でも、一人では何もできはせぬ。しかし諦めるな。お主は殺しても死なない身体になっておる。時を待て)
(えー! そんなのってありますう?)
プツッ。プー、プー。
(あっ、切りやがった)
サンガは耐える。
ぶくぶく。
(あっ、そろそろ意識が……)
※ ※ ※
「――か!? ――ですか! ――大丈夫ですか!? サンガさん!!」
「うーん? あれ、俺は……」
辺りには見慣れない人たちが10人ほどいた。
「よかった。サンガさんがキングスライムに捕らわれているのを見た時は、心臓が止まるかと思いましたよ。無事でよかったです」
「ユリシーさんが助けてくれたんですね? しかしどうやって?」
「毒魔法を使ったんです。10人がかりでやっと倒せました」
「毒ですか。なるほど。――キングスライムはそんなにも強いものなんですね」
「ええ。とにかく死者が出なくて良かったです。一度街まで帰りましょう」
「はい。――あ、俺、レッドブルの討伐をしていたんですよね。一頭。そいつの回収に行きたいな」
「レッドブルの討伐ですか? お金なら町長から渡されると思いますよ。今回のキングスライム騒動、サンガさんが居なければ死者がでるところだったんですから」
「そういうもんですか。ありがたいですね」
サンガと魔法使いたちは、街へと戻った。
そして町長から謝礼金を受け取り、これからの旅はなんとかなりそうだとサンガは思った。
(次に目指すは東の森の魔女、ヴルプルか)