第十五話 仙人の予知
「――さて、お主に伝えるべきことなのじゃが、実はな、わしの千里眼に見えてきたことなんじゃ。……遠からず近いうちに、サンクルールの街に石ころがたくさん降ってくるじゃろう。その光景が見えたのじゃ」
「石ころ? 隕石ってことけえ、じいさん?」
ジークがそう尋ねた。
「まあそうとも言う。しかし、どのくらいの大きさなのかは分からない。わしの意識がどのくらいの大きさだったのか、計りかねるのじゃ。――とにかく、サンクルールの街を救ってくりゃれ。わしもできることは手伝うからの」
「そうですか、わかりました。しかし、今の戦力では街を危機に晒すほどの流星群を防げるのか分かりません。もう少し仲間を増やしてからでも大丈夫でしょうか?」
サンガが尋ねた。
「わかった。――そうじゃな。予知を授けよう」
そう言って、アローマは眉間の前で手を組み、印を結ぶのであった。そして小声で何かを呟いた。
「――キリーク。……。むんむんむん」
ピカッ、ピカッ。
組んだ手から光が漏れた。
「――ふむ、今見えるのは『帽子を被った老年の男』と『灰色の髪をした女の子』じゃな。たぶん、未来のお主達の仲間であろう」
アローマは印をほどく。
「へえ、じいさん、未来予知ができるのか。すげえな」
「老人と女の子ですね。注意してみます」
ジークとサンガはそう言った。
そしてまたサンガが尋ねる。
「ところで、俺に渡したいものって何なんですか?」
「――あぁ、それはわしの師匠から受け継いだこの本じゃ」
そう言ってアローマがサンガに手渡したのは茶色い薄い冊子だった。
「なんです? これ」
「それは『勇者指南書 その日のために』じゃ。神と繋がる勇者のための本じゃ」
「へえー」
パラパラ。
(あとがきだけでも読んでみるか)
そこには「空から降ってきた灰色の石を祠に奉納した」と書かれていた。
サンガが尋ねる。
「翁、この灰色の石ってシュペンヘリアルダイトのことですか?」
「シュペンヘリアルダイト? わしも実物は見たことが無いんで分からん。イルレッソンの祠には門が八つ以上あると聞く。一つ目の門は開けた。じゃが二つ目の門で止まらざるを得なかった。一人に一つの門と言われたのじゃ」
「ということは八人以上必要ということですね。今五人なので、あと三人ですかね。集まったらまた来ます」
「なんじゃ、残りの三人は女の子かいのう? なら登るとき大変じゃろう? わしの仙術で補ってやろう。どれ、わしもお主らに付いていくとしよう」
「そうですね。女の子が仲間に加わるとも予知で出ているので、お願いします」
こうしてアローマも仲間に加わった。
三人は洞窟を出てイルレッソンの祠の前まできた。
「ちょっと試してみますね」
サンガは石片を二つくっつけた。
ピカッ、バシュー。
――バシュー。
少し遠くの方で光の柱が上がるのが見えた。
「やはりここですね」
「そうみてえだな。八つの門とは、また面倒なことになったな」
「しょうがないさ、ジーク。それこそ――なんとかなる――だ」
「そうだなあ」
ジークは遠い目をした。
その後、三人は山を降りた。
チカゲの屋敷に帰った。みんなと合流し、サンガはチカゲとブラッフに聞いた。
「なあ、俺たちと一緒にイルレッソンの祠に行ってくれないか?」
「ごめんなさい、無理ね。私たち、向こう三ヶ月は帝国に用事があるのよ」
「用事? どうしても外せないものかい?」
「ええ。守秘義務があるから詳細は今は話せないけれど、どうしても外せないのよね」
「そっか。それは残念だ」
サンガは諦めざるをえなかった。
次は魔女アメラの治療か。
聞けばサンクルールからレンタヒルまで、和の国製の列車が走っているらしい。渡りに船だ。
(アメラの森まではレンタヒルに行ってから南東へだったよな)
一行は再び旅路へと戻るのだった。