第十四話 女子会
朝、チカゲの屋敷から登山装備を装備して出発するサンガとジークを見送る女子達。
「無事にアローマさんに会えるといいですね」
そう心配するアイ。
「そうですね」
「きっと大丈夫なのだ」
相槌を打つユリシーとティローラ。
そこにブラッフがやってきて言う。
「お嬢様方、朝食の準備ができました」
「ありがとう。――さあ、みなさん、朝ごはんにしましょう」
「わかったのだ」
「ところで、チカゲさんとブラッフさんの関係って何なんですか?」
ユリシーが問う。
「そうね。執事兼相棒といったところかしら」
「そうだったのかー。意外なのだ。――それよりも飯なのだ、飯!」
そう言ってティローラは一足先に食堂へ行くのだった。他のみんなもそれについていった。
アイスを食べながら聞くチカゲ。
「ところで、気になっていたのだけれど、あなた達の年齢と出身と冒険の理由は何なのかしら?」
「18歳、サンメス出身なのだ。武闘大会の時に聞いてなかったのかー? ――冒険の理由は何だか面白そうだからなのだ。それに神様に頼まれたのもあるのだ。世界を見れるのは魅力の一つなのだ」
「それ、神様に頼まれたっていうのは?」
「サンガに頼めば神様の声が聞こえるのだ。念話で石片を集めるのと、アメラさんを助けるのをお願いされたのだ」
「へえ。神様なんて今日日聞かないけれど、本当に居るのかしらね」
「さあ? 天国に居るんじゃないのかなー?」
ティローラはアイスを頬張る。
アイが答える。
「あたしは16歳、サンマリア出身です。冒険の理由は色んな魔女さんに会えるからと、世界を見れるからです」
「へえ。魔女にねえ。あなたも物好きね?」
「えへへ」
ユリシーが口を開く。
「私は18歳、トロメール出身です。冒険の理由は魔法使い連盟に働かされ続けるのにも飽きていて、ふらっと世界を見たくなったんです」
「そんなこと言ってまたー、サンガさんのことが好きで付いてきたんじゃないの?」
ユリシーは顔を赤らめながら否定した。
「ところでトロメールってどこ?」
「ううっ。やっぱり田舎ですか? トロメールは六時の魔女の森の近くです」
「なるほどね。だいたいあそこか。……そんで、あなた達の両親はどんな?」
「わたしのお父さんはドワーフなのだ! そしてお母さんはエルフなのだ。みんな優しいのだ」
「あたしのお母さんは料理屋のウェイトレスでした。父は漁師でした。二人ともあたしが12歳の時に事故で亡くなりました。お母さんは友達のようでもあり、とても優しく愛してくれました。父は厳しかった印象しかないです」
「あら……」
少し重たくなった空気を裂くようにユリシーが話す。
「私の父は木こりです。やんちゃな性格をしています。母は魔法使いです。健気に魔法使い連盟に尽くす性分です」
「へえー。いいわね」
「チカゲさんの方はどうなんですか?」
「私の方? そうね。私の両親は高級貴族よ。母は特筆するところはないわね。普通の人よ。父は暗殺家業を営む裏の人だったわ。私に戦闘術を教えてくれたのは父よ。一人娘だからって優しくしてくれたっけな。皮肉なものね、人の命を摘んだ分だけ早く死んでしまったわ。――ちなみに私は17歳、サンクルール出身よ」
各々の身の上話を聞いて親近感を強める一同であった。
「――それで帝国劇場の最も推せる男優はフロルド・ハイネンなのだけれど、あなた達は見たことあるかしら?」
都市部出身のアイとティローラの二人が言う。
「もちろんあります。フロルドさんも良いですよね、爽やかな顔で」
「一度だけ見たことあるのだ。でもフロルドさんはわたしの琴線には触れなかったのだ。それよりもアラールさんの渋さの方が推せるのだ」
「ふふっ。アラールさんね?」
一方、田舎者のユリシーは話に付いていけてなかった。
「いいなー、みんな。私もいつか帝国劇場を観劇したいです」
そう言うのだった。
そんなこんなで食事のあとはティローラとチカゲの再戦となった。
「あの時の敗北感を拭うのだ。ヌフフ」
「あはは。できるかしら」
二人は武器を構える。
「――瞬菊っ!」
瞬菊は相手に気配を感じさせずに相手の斜め後ろに移動する技である。
「二度は食らわんのだ! ――旋迅斧!」
ティローラは斧を振り回した。チカゲは近づけない。
「単純だけれど、手強いわね。なら今度は正面から行かせてもらうわ」
そう言ってチカゲは別の技を使う。
「小太刀二刀流、影二段」
ステップを踏むチカゲ。
ティローラは交々に斬りかかってくる刃を弾こうとした。その刃に光彩魔法が仕込まれてるとも知らずに。
ヒュン。
ティローラの目からは小太刀が斧をすり抜けたように見えた。
すっ。
ティローラの首もとに刃が添えられる。
「また私の勝ちね?」
「うう。もう一回! もう一回なのだ!」
「いいわよ」
仕切り直してもう一回。
バッ。
今度はティローラから仕掛ける。
「人という字は切る動き!」
ザッザッザッ。
「ふふっ」
キンキンキン。
合気道の技を小太刀に乗せて華麗に避ける。
だがティローラはひるまない。
「トルネード斬!」
身体をねじり、斧で殴り付けるように斬りかかる。
「縫足踵っ!」
バン、ドシン。
「っ、くうー!」
チカゲはティローラの足を地面に縫い付けるように踏んだ。
「タンマ、タンマ! 反則なのだ」
「実戦ではそんなこと言ってられないわよ」
「ふん! 殺し合いじゃなくて試合なのだ」
そんなこんなで戦い合う二人。それを見守る二人。それは昼食のときまで続いた。
昼食後、チカゲの体格に近いからということで、ティローラはチカゲの服を着せ変えられることになった。
「これもいいわね。――これも似合ってるわね」
ボーイッシュな服装。フリフリの服装。色々あった。
「へへっ。そんなに誉めるなってのーなのだ」
そんな二人を見ていたアイとユリシーは、私たちにもかわいい服がないかしらといって、ウィンドウショッピングに出掛けた。チカゲとティローラはまた試合である。
「あっ、この服かわいいですね」
「本当だ! かわいいー」
ユリシーとアイの二人はわいわいと街中を進んだ。
「――よってらっしゃい、みてらっしゃい! フコルフスキーの造り上げた完全反射のダイヤモンドだよー! 見るのはタダ! そこのお嬢さん方もどうぞ」
呼ばれた二人は軽く見る。
「さあ、この水晶に触れてごらん? あなたの波動が測れますよ。あなたの波動と抜群に合う波動を持つダイヤモンドもあるよ。見るかい?」
キラキラ。
「わっ、綺麗。すごくキレー」
「うんうん。綺麗です」
「――無病息災、一病息災、開運にも抜群に効果覿面なダイヤモンドですよ」
「へえー」
「通常価格、金貨5枚のところ、なんと! なんと金貨1枚で販売しております。――おひとついかが?」
「あっ。いいです」
口を揃えて言う二人であった。
その後、ユリシーは眼鏡を買った。
クレープを片手にちびちびと食べながら、チカゲの屋敷に帰った。 その晩は枕投げであった。
すっかり仲良しになった四人であった。