第十二話 イクラーヴィの森
一行は十二時の魔女イクラーヴィの森へとやってきた。
「ザウ・アート・ピュア・ザイセルフ」
ピカッ。
青白く光り、結界は開いた。
森の中を一行は進む。
ギイッ。
「――危ない。みんな、下がって!」
ユリシーが叫んだ。
ドシーン。
大きな木が道に倒れてきた。
「下敷きにならなくて済んだのはいいが、どうするか? 道、塞がれちまったぜ?」
ジークがボヤく。
サッ。
ユリシーが懐から杖を取り出した。
「あれっ。杖変えた?」
サンガが尋ねる。
「いえ、杖そのものは変えてませんよ。ただ見た目が少し変わりましたね。……アマアレイブの鱗粉を先端にコーティングしたんです。これで灰魔法が使えるはずです」
「なるほどねえ」
サンガは顎に手を当てた。
シュッ。
ユリシーは杖を構えて木に向けて、こう唱えた。
「ウト・イト・バル。――アッシュド・フィート」
シュウー。
道を塞いでいた倒木は灰化した。
「――レビテイション」
ユリシーが灰になったそれを浮遊させてどかして、道を作った。
「これで通れるようになりましたね。では行きましょう」
「あぁ、ありがとう、ユリシー」
一行はイクラーヴィの家まで進んだ。
そこには例の如くログハウスがあった。
コンコン。
「――おや、待っていたよ。いらっしゃい」
そう言って中へ促すのは、青い長髪の24歳くらいの妙齢の、麻の服を着た女性だった。
「あなたがイクラーヴィさんですか?」
サンガが尋ねる。
「そうそう。私がイクラーヴィ」
「他の魔女とは違ってラフな格好ですね。ヴルプルさんは白のローブを着ていたし、アドメアさんは黒のローブを着ていた」
「あぁ。あたし、ローブとか苦手なんだよねえ。暑くてさあ」
天然な人だなあとサンガは思った。
みんなは家の中へ入った。
「――さ、本題に入ろうか。私も神様から話を聞いてるよ。サンガくん、君にこの石片をあげよう。内容はすでに書き写してある。遠慮なく持っていきなさい」
「ありがとうございます。ではいただきますね」
そう言ってサンガは袋の中に入れた。その瞬間、ピカッと光った。
「おやあ、何だい?」
イクラーヴィが尋ねる。
「さあ? ちょっと出してみましょうか」
サンガは二つの石片を取り出す。
既に光は消えていた。
「あれ? おかしいですね」
「もしかして、くっ付けると光るんじゃないですか?」
そうユリシーが答えた。
サンガは二つの石片をくっ付けてみる。
ピカッ!
バシュウー。
するとまた光った。今度は柱が立つようにして。
「まるで天まで光が届いてるかのようだね。もしかしたら他の石片もそうかもしれない。今度からは石片同士をくっ付けることで、探知の役割を担えるのかもしれないね」
そうイクラーヴィさんは言うのだった。
「――ところで、魔法を唱えるとき、頭に変な言葉を付けますけど、アレって何なんですか?」
と尋ねるサンガ。
それにイクラーヴィが答える。
「それは魔素に呼びかけてるんだね。この世界では今、合計で51の魔素と13の真魔素が発見されている。真魔素にはSIとかAUとかあって、魔素にはYLとかAK、AL、ML、PL、VL、UT、VIなどがある。文字で書くときには合字で書かれる。ほら、ちょうどプルはこんな風に」
そう言って書いてくれたのは冥王星の惑星記号と同じものだった。確かにPとLの合字だ。
「まあ、呼び方に決まりはなくってね。VIを文脈によってヴィと呼んだりイヴと呼んだりもするのさ」
「へえ。その魔素への呼びかけっていうのは絶対にしなくてはならないんですか? 魔法を使うときは」
「いや、そんなことはない。感覚的に慣れてくれば、必要なくなるものさ」
「なるほど。良い事聞いた」
サンガもいつかは呼びかけなしでフレメンタリアを使えるようになるのだろうか。
お茶を飲みながらよもやま話をしていたら、あっという間に時間が過ぎていった。ジークは魔導列車のスノードームを見ていたりした。
アイは別れ際にイクラーヴィさんとハグをした。ユリシーは握手をした。サンガは特にすることもなかった。
魔女の家から出てサンクルールまでの帰路。ジークがつぶやく。
「次は仙人かあ。偏屈でないといいな」
「たぶん大丈夫だと思うぞ。俺の夢に出てきたときには、優しい感じがあったから」
「ほう。ならいいや」
ジークとサンガの会話は終わった。
女子三人は何だか姦しく雑談していた。
サンクルールに着いて、例の料理店に行って夕飯を済ませ、宿屋に着いたら、男子は二人部屋を、女子は三人部屋を取って宿泊した。次の日は仙人アローマを訪ねる日か。
雑談が終わった夜遅くに、それぞれは眠りにつくのだった。