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第十話 武闘大会

 ジークがサンガに語りかける。

 「よう。まさかお前さんも参加するとは思わなかったぜ。正直、お前さんの実力は計りかねるが、もし試合で会ったら、手加減はなしだぜ」

 「ああ、わかってる。戦うことになったら全力で行くぜ」

 二人は発破をかけあった。

 武闘大会のトーナメント表を見るとサンガとジークは正反対に座していた。当たるのは決勝であろう。

 一方、Dゲートの前ではティローラが待機していた。

 「うー。なんだか緊張するのだ。やるからには全力でいくけれど、ジークみたいな素早くて強いやつが来たら降参なのだ。まあ、そのときはそのときなのだ。どうにかなるのだ」

 こうして、三人が武闘大会の土俵に上がるのであった。


※  ※   ※


 「――さあさあ! 始まりました、今年度の武闘大会。果たして勝者は誰か? さあ、やっちまいな、野郎どもー!」

 血気盛んなアナウンスだ。まるで血を見ることを楽しみにしているような……。


 一回戦目、ティローラの相手は片手剣使いの三十歳が相手だった。

 (オーソドックスなタイプなのだ。わたしの得意な相手のタイプなのだ)

 「――レディー? ファイトッ!」

 試合が始まった。

 「はぁっ」

 ティローラはまず斧で、袈裟切りをしてきた片手剣を打ち払い、背中で当て身をした。

 「うっ」

 吹き飛ぶ相手。すかさず追い打ちをかけに行くティローラ。斧で斬りかかる。

 ガキンッ!

 相手はなんとか剣で受ける。――だがティローラの攻撃は止まない。

 じりじりと押していく。

 相手は焦ったのか、反撃を狙って突きを繰り出してきた。

 それをティローラは避けると同時に相手の後ろに滑り込み、立ち上がると同時に斧の柄で相手の足を、膝の裏をガクッとさせる。

 「わ――」

 前に倒れ込む相手の選手。

 ティローラは倒れた相手の首へ斧を下ろし、寸止めをする。

 振り返った相手は自分が詰まされていることを悟る。

 「うう。降参だ」

 「――おっと、降参の宣言だぁ! 勝者、ティローラ・アラネス!」

 ティローラは溜め息をつく。

 「ふう。なのだ」


 こうしてティローラは無事に一回戦を勝ち抜き、二回戦、三回戦も勝ち抜いて、準決勝の舞台へとやってきた。

 「――さあ、準決勝までやってきましたサンメス出身のティローラ・アラネス! 対するはサンクルール出身のチカゲ・ミランダ・クルールだー!」

 ティローラは話しかける。

 「よろしくなのだ」

 チカゲは答える。

 「よろしく、ピンクのロングヘアーさん。悪いけど、あなたにはここで退場してもらうわ」

 「む、気に食わない黒髪のショートヘアーさんなのだ。ぎゃふんと言わせるのだ」

 両者、武器を構える。ティローラは斧を。チカゲは小太刀を二刀。

 「――レディー? ファイッ!」

 「ッ!」

 チカゲが奇襲をかける。

 ガキンッ。

 「むっ。ジークばりに早いのだ」

 ティローラは少し驚いた。

 チカゲは続ける。

 「私の初撃を防ぐとはなかなかね。――でもまだまだ、これからよ」

 シュッ。

 ガキン、ガキン。

 チカゲはどんどんとスピードを上げていく。

 「むむっ。だけど、わたしの斧を甘く見るなっ、なのだ!」

 ティローラが片手持ちから両手持ちに変える。

 ブオン!

 チカゲは避ける。避けたつもりだった。だが圧縮された空気がチカゲの頬を切り裂くのだった。

 「っ!」

 しかし、チカゲには大した動揺が見えない。何か奥の手を隠しているようだ。

 「――決勝でやりたかったけれど、仕方ないわね。……小太刀二刀流、秘奥、瞬菊ッ!」

 「へ? 春菊?」

 ティローラはボケた。

 そして視界内に居たはずのチカゲを見失ったのだ。あまりの素早さにティローラは驚く。

 シュッ。

 地面の擦れる音に気が付き後ろを振り向こうとする。が、しかし、チカゲの方が一歩早かった。

 サッ。

 ティローラのピンクのロングへアーの一部が切り落とされ、首元に小太刀が当てられる。

 チカゲが言う。

 「降参しなさい。あなたの負けよ」

 ティローラは答える。

 「うう、いやなのだ。いやなのだあ!」

 ティローラは駄々をこねた。

 「――仕方ないわね、その首、撥ねるわよ」

 首筋に冷たいものを感じたティローラは本能的に悟った。

 「うう、わかった。――負けなのだ。わたしの降参なのだ」

 こうしてティローラの武闘大会は終わった。準決勝敗退、三位だった。


※  ※   ※


 一方、サンガは一回戦でエターナルブレードにフレメンタリアを付与しようとして失敗。会場と相手を、自分もろとも黒焦げにした。最後に立っていたのはサンガだったので、サンガの勝利となった。

 (フレメンタリア・ブレードはしばらくは封印だな)

 そう思いつつ、サンガは準決勝にやってきた。

 「――さあさあ、準決勝ですよみなさん! 爆発王子の登場だあ! 両手剣使いのサンガ! 対するはナックル使いのヒルラー・ブラッフ!」

 サンガは治療代をケチったので黒焦げのままだった。

 「はっ、兄ちゃん、面白い恰好だな」

 「うるせえ、ぶっ殺すぞ」

 「殺すなんて軽々しく言うなよ。弱く見えるぜ?」

 「ふん。どう見えるかは自由だ。せいぜい吠え面かいて、そのあとでギャフンと言うがいい」

 「おうおう。言わせてみろよ」

 (ムカッ)

 両者ともにスイッチオンであった。

 「――レディー? ファイトッ!」

 バッ。

 シュッ。

 二人とも同時に前に出た。

 サンガが先に仕掛ける。

 (ホームラン・スラッシュ!)

 ブオン!

 だが素振りに終わった感覚があった。

 (あれ、あいつはどこだ?)

 トトトト。

 ブラッフはエターナルブレードの上を走ってサンガに近づき、サンガの顔を膝蹴りした。

 「ぐっ」

 サンガは後ろによろめくが、耐えて目を開ける。

 スローモーションで相手のナックルが近づいてくるのが見えた。

 片足を軸にしてくるりと回った。

 「おわっと」

 ブラッフはエターナルブレードから降りた。

 両者は間を持って睨み合う。仕切り直しだ。

 (さあ、どうするか)

 二人ともそう考えていた。

 ――サンガはアドメアの家で見た魔法書の内容を思い出していた。

 (たしか風の第三級魔法、ウィンド・サンプ。あれなら頭に変な呪文を唱えなくても大丈夫だったはずだ。付与を試してみるか)

 「付与! ウィンド・サンプ!」

 そう唱えると……

 ビュオー!

 ぐるぐるぐるとエターナルブレードを緑の風が包み始めた。

 (やった、成功だ! えっと、次はどうするか?)

 サンガの頭の中には、とりあえず斬りまくるということしかなかった。それはまるで九字切りのように。

 「おっ、なんだ、なんだ?」

 ブラッフは面白い物を見る顔だった。

 「行くぜ、ブラッフさんよ」

 サンガは足に力を溜めて、両手でしっかりと剣を握った。

 「――ハッ!」

 ビュッ。

 ズザァ。ザザザザ、ザザザザッ!

 サンガは斬りつけまくった。

 「よっ、はっ」

 ブラッフは避け続ける。が、最後の一撃が足をかすった。

 ガクン。

 そこへとどめとばかりにサンガは手をかざしてこう言った。

 「――オー・ヴィ。フレメンタリア!」

 「げっ、マジかよ?」

 シュウウー。

 ドッカーン!

 風魔法とのシナジーで、会場は爆炎に包まれた。

 プシュー。

 煙の止むころに姿を現わしたのはサンガだった。

 一方、ブラッフの方は気絶していた。

 「ふっ。結局はこういうことなのさ。俺の勝ちだ」

 サンガはイキッた。


※  ※   ※


 ところで、ジークの方であったが、途中少し苦労することはあっても、結局は難なく決勝まで勝ち進むのであった。

 (サンマリアの武闘大会とは言え、結局は帝国領の人間だけしか出ていないんだ。こんなもんか。老年部の野郎とも戦いたかったぜ)

 そう思うジークであった。

 試合後、魔法使いによる治療を済ませて、決勝に進むのであった。

 「おっ。あんちゃんじゃねえか。何だか少し焦げてねえか? わはは。まあいい。楽しい試合にしようぜ」

 「おう。俺は全力で行くつもりだ」

 そこで実況の声が入る。

 「――さあ、ついに男子若年部、決勝戦です! 赤髪の男はサンクルール出身の槍使い、レド・ジーク・クルヴァンです。一方、対するはトロメール出身の爆裂王子、両手剣使いのサンガだー!」

 (今更だが、爆裂王子って何だ? フレメンタリアを使いすぎたか?)

 (爆裂王子ィ? まああいい、試合に集中だ)

 二人の思惑が交差するところへ試合開始の声が入る。

 「――レディー? ファイトッ」

 ジリジリ。

 二人は様子見をするようにじりじりと歩みを進める。

 (さあ、どう来る?)

 二人はそう思っていた。

 (まずは始めないことには、始まらない。こちらから行くか)

 サンガがジークに斬りかかる。

 「ふっ。甘いぜ、太刀筋がな」

 ガキンッ。

 サンガの攻撃は軽く流されてしまう。

 「なら数で勝負だ」

 サンガは斬りまくる。

 ズザザザ。

 ところが……

 シュッ、シュッ。

 ガキン。

 ジークはほとんどの攻撃を回避し、必要最低限、弾くのだった。

 「そろそろこっちも攻撃に移らさせてもらうぜ?」

 バッ。

 ジークは跳んだ。

 ガキン。

 ジークの突きを防ぐサンガ。

 スタッ。

 地面に降り立ったジークは、一人で台風でも起こすかの如く、身体を回転させて言う。

 「――銀竜昇天っ!」

 ズオッ!

 ガキン。キイーン。

 サンガの赤い鎧の腹に命中する。振動がサンガの右手に伝わって、手が痺れる。

 「ぐっ」

 サンガが落ちてきたところに、すかさずジークが仕掛ける。

 「次はこうだぜ。――割晶棍かっしょうこん!」

 ガキンっ。

 キイン、キイン、キイン。

 「うわっ」

 あまりの振動に、思わずサンガは剣を手放してしまう。

 (まだだ!)

 サンガは徒手で戦うことにした。

 「はっ、甘いぜ。俺は槍術のみならず棒術も格闘術も修めているんだぜ?」

 自慢するようにジークは言った。

 バッ、バッ。

 ガシッ。シュバッ。

 ジークはサンガの空拳を受け流していく。

 (ここだなっ)

 ジークは寝技に持ち込んだ。

 「ぐっ」

 腕ひしぎ逆十字固めでジークがサンガを追い詰める。

 だがサンガは諦めない。

 「ぐっ。――オー・ヴィ。フレメン……」

 「――フローズン・マウス!」

 ジークが唱えた氷魔法によって、サンガの唇が動かなくなる。

 ギギギ……。

 どんどんとジークの締める力が強くなっていく。

 バンバンバン。

 サンガは地面を叩いて降参した。

 「そこまでっ! クルヴァン選手の勝ち」

 審判はそう告げた。

 「ふっ。なかなかだったぜ、兄ちゃん」

 「ウー! ウー!」

 サンガの唇はまだ凍っていた。

 「ははっ。しょうがねえやつだな。――ヒート・スルー」

 ジュワァー。

 サンガの唇はもとに戻った。

 「まったく。格闘術においては及びもしないなんてな。さすがだよジーク。おめでとう、優勝はお前だ」

 「ああ、ありがとう。二十年間修業してきたのも無駄じゃなかったってわけだ。さっ、受賞式だぜ?」


 一位、レド・ジーク・クルヴァン。

 二位、サンガ。

 三位、ヒルラー・ブラッフ。


 「うっ、うっ。ぐす。――やったよ、母ちゃん。俺、三位になれたよ……」

 「へっ、どうも、一位です」

 ブラッフとジークがトロフィーを掲げる。

 (なんだかんだと、二位にはなれたな。やったぜ、佳代子ちゃん)

 サンガもトロフィーを掲げた。

 「――おめでとうございます!」

 「おめでとーう!」

 ユリシーとアイの声も聞こえる。見ていてくれたのか。

 こうして武闘大会は幕を下ろした。


※  ※   ※


 (もしもし、神様? 質問なんですが、神聖魔法の適正がない人でも魔法は使えるのですか?)

 (おうサンガちゃんや。使えるとも。神聖魔法と常用魔法は違うのじゃ。神聖魔法とは星の地軸を支える魔法じゃ。一方で、常用魔法とは一般人にも使える魔法で主に第五級までじゃな。それ以上のものは非常用魔法と呼ばれ、主に魔女や魔法使いに使われておるわい)

 (なるほど。ジークが試合で使ったのは常用魔法ですか。理解しました。今日もありがとうございます神様)

 (どういたしましてなのじゃ)

 サンガの胸中は「フレメンタリア」という日本にはない魔法というものを使ったことによる昂ぶりで埋め尽くされていた。

 (俺にも魔法が使えた。なんだか楽しくなってきたぞ)

 夜もすがら、そう思うのであった。


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