四国野郎一人旅~25歳、秋の空~
一日目
八時半に気合を入れ家を出発した。なぜなら本日から四日間をかけて、四国を一周し旅することを決意したのである。臨時職員である発掘の仕事が急に延期になり、一週間ほど休みとなってしまった。これほど多い連休はなかったので、かねてから行きたいと思っていた野郎一人旅四国編(その前が九州)を実行することにしたのである。
日本全土を襲った台風十八号が過ぎ、すっきりとした秋晴れの九月二十七日の朝だ。
猶予金額は五万円(予備金はあと二万持参)のビンボー旅行である。
まず、私の住む九州福岡から愛車シビック(愛称シビッQ)で大分県別府市のフェリー乗り場まで、三時間半、下道でへーこら百四十キロの道のりを走った。
ちなみに一人旅をするのは、今回二回目で自分の運転で九州を出るのは初めてだった。
ようやくフェリー乗り場についたのはいいが、なにせ乗船手続きははじめてで、車検書が必要だったり記入欄に書く項目に戸惑ったりと右往左往しながら、なんとか手続きを済ませた。
十二時四十分、船は別府を出港し、目指すは四国愛媛県三崎港!船はは爽快に波を蹴って突き進んでいく。
ここで私は昼飯を。貧乏旅行の悲しさか船内の自販機のカップヌードル(海を渡っているだけあって、シーフード味)にて腹ごなしをした。
その後、幼い子どものように船内を散策し、飽きたらデッキに出てちょっとセンチな気分で海を眺めたり、澄み渡る青空を気持ちよさそうに飛ぶカモメ達と会話したりした。
およそ二時間の船旅を経て二時五十分、船は三崎港へ到着した。
車に戻るように船内アナウンスが流れる。
私は車に乗り込むと、これからはじまる四国の旅に胸を躍らせた。
車庫内は薄暗い。正面に見えるのは大きな分厚い鉄の扉。
その扉が次第に開き、少しずつ光が射し込んでくる。徐々に四国最初の風景が目に入ってくる。
こじんまりとした港だが、ここまで来たんだなと妙に感慨に浸った。
まずは、予定通りに港から近い、四国最西端の佐多岬に車を向けた。
途中、格安で手に入れたカーナビの案内が衛星受信不備の為、固まったり、対向車とすれすれに行き交いながらうねる山道を走る。
行き交う車のナンバーはほとんどが愛媛県となり、思えば遠くに来たもんだと一人優越感に浸った。
到着したのはいいが、結構辛い山道を歩く。道中いちゃつくカップルに遭遇、それを羨ましそうに横目で見、ちょっぴり寂しい気持ちになりながら岬の灯台を目指した。
白亜の灯台から見える景色は海は青々として、晴れ渡った空とともに最高の景色と思えた。
車に戻ると四時を回っていたので、今日の宿を探そうと車を走らせた。七時頃に宇和島に到着、駅近くにビジネスホテルがあったので、しっかり値段(なにせビンボー旅行なので)を聞いて、納得プライスだったので泊まることにした。ホテルのサービスでビールのタダ券をいただき、本日の夕食ビーフカレーを食べながら、ほろ酔い気分で翌日の旅へと思いを巡らせていた。
一日目愛媛県滞在
フェリー代 約七千円 飲食代 千二百円 ホテル代 五千円
二日目
旅初日の興奮もあってか、思いのほか早く起きてしまった。出発予定の七時を前倒しにして、六時にホテルを出る。
四国野郎一人旅も二日目を迎えたのである。今日も快晴、青空が広がっている。
まず、ホテル近くの宇和島城を散策、駆け足でお城まで登った。おかげでいい汗をかいた、早朝の散歩としては最適だ。
続いて車を南下させ、御荘の馬頭山公園のロープウェイに行ったが、到着は八時頃で営業してなかった。しばし、どうしたものかのその場に佇んでいたが、営業開始まで待てずに出発。
高知県に突入。足摺の海洋館を九時きっかりのオープンと同時に見学する。海底館もあったのだが、こっちの方が入館料が安かったので海洋館を選択。館の中央にそびえたつメインの円筒状の水槽に、ほのかな青白いライトが当たり魚たちが泳いでいる。幻想的な空間にしばらくぼーっと見とれていた。
そのすぐ近くに奇岩で有名な、竜串の見残し海岸があり岩場を歩いた。丸みを持った奇妙な形をした岩は独特だった。海の色も青く澄んで空の蒼さとマッチしていた。ぼんやりと景色に見入っていた。
が、そんな和やかさも次第に照り付ける九月おわりの陽気と海の潮気の含んだ生暖かい風が、じんわりと汗ばみ居心地の悪さを感じた。私はその場を後にした。
ほんの近くに海中を遊覧出来るホバークラフトがあって、いっちょこれに乗ってみようか思った。しかし、ちょうど団体客が見終えた後だった。船着き場につくと閑散としてお客はいない。遠慮がちに船頭さんに乗っけてもらえるか話したところ快く船を出してくれた。ありがとうキャプテン!
波飛沫をあげ快調に海を渡る船、私は中央部分が透明となっていて海の中が見える水槽?を見ていた。海中は船が進むことにより少し濁りを見せていたが、やがてポイントに到着しガクンという音をたて止まった。やがて、珊瑚や魚が見え一人感動した。帰りは海を眺めて思いに耽る。
車に戻る途中、公園を掃除していたおばちゃんに呼び止められ、
「竜串はどうだった?」
「良かったです。感動しました」
と伝えると喜んでくれた。旅にはこういうふれあいもあるんだな。
その後、微妙かなと思いつつ、駐車場横の珊瑚博物館を見学し竜串を後にした。
狭い道を走り足摺岬を目指す。到着すると、ジョン万次郎の銅像が鎮座しており私を出迎えてくれた。佐多岬と同じく山道を歩き、岬の灯台へ向かう。そこは今日も天気に恵まれ絶景。それから白山の洞門と呼ばれる大きな岩山がぽっかりとくりぬかれた場所へ。一人でだったのでその威圧感に少し怖くなった。
次の目的地へ。中村市の四万十川遊覧乗り場を目指す。
車をしばらく走らせると、広大な川が現れた。カーナビで確認すると四万十川だった。
景色の良い場所を探し車を停めて川を眺めた。川は緑色をして澄んでおり、ここに来たという感動もあいまってより素晴らしいものに感じた。となかく水がきれいなのだ。我が筑後川とは違った佇まいがそこにある。
一時過ぎにアカメ館という遊覧船切符売り場とおやみやげ屋、食事処が一緒になった、ごった煮的なお店に着いた。
私は一時間おきに出発する船の切符を買った。次の出発時刻である二時まで時間があったので、やや遅めの食事をとった。四国に来たらうどんという事で、ここは讃岐(香川県)にあらず高知なのに、うどんを注文した。しかも店内で一番安いごりうどん600円也。お味の方はなかなかでさすが四国と唸った。
雄大な四万十川を眺めたせいか、財布の紐まで寛大になってしまい、予算オーバーなお土産を購入してしまった。特に四万十川と筆字でプリントアウトされたTシャツ1200円は余計な出費だった(だって、かっこいいだもん)。
そんなこんなで出発五分前にマイクロバスで船着き場に向かう。平日の火曜ということもあって、客は少なくて中年の夫婦、必死に手紙を書く若い男性、なにか物思いにふける若い女性、そして私の五名だ。
私は土手沿いに走るバスの車窓から四万十川を眺めつつ、ちらりと若い二人を見た。多分、二人とも私と同じような理由で旅しているんじゃないかなと思った。
四国に来て行脚のお遍路さんまいりする人たちも感じたことだった。
私は四国という場所は何かに行き詰まったり、自分を見つめなおしたり、変えようとした時に訪れる場所だという思いが漠然とあった。大学時代の友人が就職浪人時代に訪れたのも四国だった。彼もそういう思いがあったのかなと頭をよぎる。そして自分も・・・変わろうとしてるのかな。
そう思うと、私一人が旅してるんじゃないんだなと何だか励まされたような気がした。
遊覧船のスピーカーから物悲しげな四万十川を称える歌が流れると船はゆっくりと動き出した。女性の声で四万十川の紹介アナウンスが流れる。耳を傾けつつもぼんやりと川を眺めていた。
途中、小舟に乗った川漁師の投げ網漁の実演が行われる。アナウンスで巨大魚アカメの話が聞こえてくる。釣りキチ三平であったっけな?
だけど、四万十の雄大な流れ、清涼な水。視線の先で陽の光に乱反射して輝く水面に、心を奪われてずっと川を眺めていた。
遊覧後、落ち着く暇もなく高知県へと向かう。今日は桂浜まで行こうと思っていたのだが、昼の三時を回っていたので、調べていた高知市の安いホテルに泊まることにした。
道中、何度も片側通行で足止め、夕方のラッシュにも巻き込まれ市内に着いたのが七時だった。
高知市の予想以上の都会ぶりに驚きながら、早速宿をとろうとホテルに向かうが、平日にもかかわらず満室だった(予約しとけよ)。
途方にくれた私だったが、とりあえず近くの駐車場に車を停め、どこかに安宿はないかと探し歩く。なんと、歩くこと数十歩でカプセルホテルを発見したが、コンビニのあるビル三階という怪しい佇まいに踏ん切りがつかず、一通り街中を歩いた。しかし、どこも高そうなホテルばかり、心は不安、身体は疲れ、私は観念してさっきのカプセルホテルに泊まることにした。
中に入ると、宿泊者はわずか、整然と並ぶカプセルベッドを見て、私は圧迫感と漠然とした不安を感じる。
(カプセルホテルって、こういう所なんだ・・・)
宿泊者の方も一見、それ系のいかにもなよっとした中年男性に遭遇し得体のしれぬ恐怖を感じた。
「うわー大丈夫か、ここ」
ひとり呟いた。
とにかく、夕食も食べずにいたので、外に出て近くの中華料理でお腹を満たす。心にも余裕が出来た。
さらにカプセルホテルに戻ると、客り数も増えていて安心する。
風呂とサウナを満喫し、あとは就寝だけだ。
まったりとしながら寝るスペースだけのベットに横になり、備え付けの小さなテレビを見ていた。
さあ、明日もハードスケジュールだし寝ようとした十一時過ぎ、若い男性二人がいつまでもペチャクリたおして、やかましくて中々寝つけなかった。
二日目 愛媛県、高知県滞在
足摺海洋館 六百八十円 グラスボート 千円 珊瑚博物館 二百円 ガソリン 三千八百円
遊覧船 二千円 飲食代 千八百円 おみやげ 三千三百円 駐車代 八百円
カプセルホテル 二千五百円
三日目
いつの間にか寝てしまった私は六時半に目が覚めた。ぼーっとしたまま頭でテレビのスイッチを入れると、アナウンサーの元気な声が聞こえる。高知ローカルの朝番組だろうか、ふと旅も三日目を迎えたんだなあと一人感心してしまう。
落ち着きのない私はテレビをそこそこにして外に出た。
朝の高知市内を散歩する。いつもは寝坊助な私も旅の緊張感からか、朝の陽気と空気の清々しさを感じながら高知城をぐるり周りながら歩いた。
三十分ほど歩いてホテルに戻り、身支度を整えチェックアウトを済ませた。
昨日行く予定だった桂浜へ車を走らせる。順調に愛車を走らせていたが、なにを思ったか有料の浦戸大橋を渡ってしまい、慌てて引き返すという散財と失態を犯しながら到着した。
桂浜に到着すると、さらに駐車料金四百円を払い、ちょっぴりブルーになりながら浜辺へと急ぐ。
あれに見えるは坂本龍馬の像だ。完全におのぼりさん気分で、観光客のみなさんと一緒に眺めていた。
さらにそこから広がる桂浜の光景。海が陽の光でキラキラと乱反射して眩しい、広がる砂浜に哀愁を感じる。なるほど素晴らしい眺めだと感動する。
なんとも言えない岩の形がそこは桂浜だと主張しているようだった。
朝日を浴びて輝く海、白く光る砂浜は、まさに維新の夜明けを思う龍馬を想起させるのに十分だった。
浜辺を歩いていくと、海沿いに鳥居を見つけた。階段を上りしばらく進むと到着、神社で何かいいことありますようにと願った。そこから見える景色も良くて、私は早速、いいことがあったと気を良くした。
帰りにみやげ物屋が立ち並ぶ中、私は土佐闘犬センターに行ってみた。、中では闘犬が行われていたが、観料が千五百円もしたので、財布と相談し断念。センター横の囲いの中にいたこれから闘犬となるであろう若い土佐犬と何故かそこにいた烏骨鶏を見ながら、私は闘犬を思い浮かべ想像だけで済ませた。
そこから少し離れた坂本龍馬記念館に行く。意外にも近代的な建物の記念館で、龍馬の足跡を辿るといった内容の映像を中心とした展示内容にも驚いた。
桂浜を後にし、再び浦戸大橋を渡り、武市半平太の旧宅へと向かう。私の母方の先祖が武市半平太らしいので、ご先祖様に挨拶というのが理由だ。そこは意外にもひなびた場所にあり、看板を目印に少し坂をのぼったところに神社があり、隣に彼を称える石碑があった。古い無人駅のような場所には銅像や写真など半平太関連の物が並べてあった。ひょっとしたら私の祖先かもしれない武市さんに思いをはせた。
神社で旅の無事を祈ってお参りをすると、なんだか励まされたような気持ちになった。
車を走らせること数時間、ようやく室戸岬へ到着した。予定より時間が押していたので、灯台の方にはいかず、五十五線沿いにあった中岡慎太郎が鎮座する周辺の岩場を散策してまわった。
整備された浜辺の道を歩いて思ったことは、佐多岬、竜串、桂浜と景色がそれぞれで、ここは室戸岬はごつごつとした岩場が、ふと武蔵、小次郎の巌流島のようだなと思った(巌流島の景色は知らんけど)。
それから徳島県に突入、昼の二時半に遅い昼食をとった。朝からメシを食べていなかった私は徳島でも、うどんを食す、ざるうどん大盛一杯五百円で堪能した。
空腹も満たされ上機嫌で阿波十郎兵衛屋敷へと向かった。道中97年度製ナビの不調により、右往左往しながら到着したのは、閉館まじかの四時半だった。三時に人形浄瑠璃の実演があったのだが、間に合わずビデオや資料、鶴亀の庭などを見学してそそくさと出た。
三日目の宿泊は高速のパーキングで車中泊!そう決めていたので、チェックイン等時間の心配はない。少し、ゆとりが出来た私は鳴門まで車を走らせた。ナイスタイミングで夕日が沈む前に鳴門公園に到着、足早に公園を歩き大鳴門橋下へ、。残念ながら海は渦潮は巻いていなかったが、陽が沈む夕焼けと門橋と海、船と絵になる風景をしばらく眺めていた。その一種、幻想的な世界に「四国に来てよかった」と思わず独り言を言ってしまった。
鳴門を楽しんだ私は、初めての車中泊をする為、土成インターから徳島自動車道に乗り込み、阿波パーキングで夕食して、駐車場で休もうと算段したいた。が、このパーキングにはトイレしかなく愕然とする。でも、まあ・・・人生も旅も思い通りにはならないものだと、ここは潔く一夜を明かすことにした。
身体はかなり疲れているし、すぐに寝れるだろうと持参した毛布に潜り込み目を閉じる。が、全然寝れない。
都度、往来する車のエンジン音やライトの光、車の開け閉めの音。ウハー付きの巨大スピカ―でユーロビートらしき曲を大音量で流すヤンキー兄ちゃん達に、うとうとしだすと起こされを繰り返しながら、一時間程の睡眠、気づけば明け方を迎えてしまった。
三日目 高知県・徳島県滞在
費用 有料道路代 七百八十円 桂浜駐車場代 四百円 飲食代 八百三十円
坂本龍馬記念館 三百五十円 阿波十郎兵衛屋敷 四百円 みやげ代 千五百円
四日目
車中泊中、狭い車の中、眠れず何度も寝返りをうちながら考えたのは、四泊五日(四国だから各県ごとに一泊という)の予定を切り上げ、今日帰宅しようかと思い立ったのだ。
理由としては車中泊のダメージと金銭的な理由だ。そうなると決断は早く羽柴秀吉の四国からの大返しにあやかり「四国から福岡へ一気に帰っちゃうよ」を決行することにした。
五時半にパーキングを出発、脇町インターで降りる。が、料金所で突然のブザー音が響く。えっ、どういこと戸惑っていると、おじさんが愛車シビッQのナンバーをチェックしだす、ブール―になる私。身に覚えないんだけど・・・。
すると、おじさんが、
「徳島道は短いから、二時間過ぎるとブザーが鳴るんだよ。一応、犯罪防止の為にね。なに、仮眠でもとってたの」
「はい」
と、私は頷く。
「これからどこに?」
「琴平の方です」
など打ち解けてフレンドリーに話す。他の観光名所まで教えていただき、その場を後にする。今日帰ると決めたので、おじさんには感謝しつつその名所はいかなかったけど。
朝靄けむる中、道中コンビニでおにぎりとサンドイッチそして栄養ドリンクを買い、運転しながらそれを頬張り目的地を目指す。
六時に金毘羅さんに到着。私は参道のみやげ物屋に車を停め、本殿を目指し階段を登り始めた。
最初は快調に階段を登って行った私だが、あまりにも長く続く階段に、旅疲れと寝不足で次第に息切れを起こす。宝物殿、書院所を通過しながら、まだかまだかなと登りつつ、ようやく本殿へ到着。お参りを済ませ、拝殿横の見晴らしのいい場所へ景色を一望する。
それから、妊娠中の妹への安産御守りを、下の妹は受験なので学業御守りを、そして自分には幸せの黄色い御守りを購入して下山?する。
汗だくで駐車場に戻ってくると、そこのお店のおばちゃんが、
「ここに停めたなら、二千円分の買い物をしていってね。でないと、駐車代千円頂きますよ」
というきっつい一言でやむなく二千円のおみやのお買い物。完全に逼迫した財布の状況を考えると今日絶対に帰るという決心が、確信に変わった。
やり場のない怒りを心に秘め、車に戻り四国最終目的としていた松山市の道後温泉を目指す。
途中、一気に香川県を抜けて愛媛県に戻ったので、本場讃岐のうどんを食べそびれてしまった。まあ、しょうがない。次の課題だと自分に言い聞かる。
その道中、大きな鳥居を発見する。ちょっと気になったので、石鎚神社へ行ってみる。階段をのぼり神社へ。本殿には木槌が三つあり、それを順に持ち上げお参りした後、本殿の裏手にある御神水場で一杯おいしい水を飲む。
松山市に着いたのは十二時前で、ガソリンスタンドで給油をし道後温泉へと向かう。
正岡子規記念博物館に車を停め、歩くこと数分、坊ちゃんのからくり時計があった。一時間おきに作動するようなので、まだしばらく時間がある。温泉に入って戻ったらよい頃合いになるだろうと道後温泉本館に行く。
本館は古い木造建ての豪華な建物で商店街を抜けたところにあった。この有名な温泉に入るというミーハー心と、昨日は車中泊で風呂に入ってない上、旅の疲れも溜まっていることもあり、高揚した気分で神の湯(なんてイカス名前だ)の入浴券を購入した。
中に入ると、広いが昔の共同浴場を彷彿とさせられる。脱衣場は木の床張りに昔の扇風機、無造作に入ってくる掃除のおばちゃんもそういった雰囲気を醸し出していた。
浴場は二か所に分かれており、丸石を彫った湯だし口が印象的だった。目を閉じ、湯の心地よさに身体をまかせまったりと温泉を堪能する。
温泉からあがると、商店街を見学し、坊ちゃん時計に着くとよい頃合いだった。
時計が一時の時刻となると、時計台の屋根がゆっくりとせり上がる。文字盤が一回転すると、マドンナが現れ、真ん中に坊ちゃんと清が、下には温泉に入っている人たち。そのとりまきに坊ちゃんのキャラクターが賑やかに動きだす。
正岡子規博物館に入館した途端、急に頭がぐるぐると回りだした。これはいかんなと思いつつ、足早に展示物を見て回った。今日一日これはどうしたものかと迷ったが、水道の水をがぶ飲みしたら、少しスッキリしたので、気合を入れなおして出発する。
今治のインターチェンジに乗り、それからしまなみ海道へ。四国から本州上陸を目指す。途中、来島海峡サービスエリアで、島々に架かる橋の眺めを堪能しつつちょっと休憩。ただ島々を渡る度に料金所があるのは閉口した。
結局五千円を払い本州に上陸した私は、金銭面はとにかく帰宅しようと尾道インターから高速で一気に帰ることにした。
下関の壇ノ浦サービスエリアに到着するまで、夜七時半となった。道中、疲れや夕方、夜の走行でドキドキしながらの運転だった。
海風を感じ夜の関門海峡を眺めて、レストランで食事。和風ハンバーグセットを注文し腹を満たす。旅ではあまり食にはこだわらなかったので、ハンバーグがうまいことこの上なし。
パワフルブラックドリンクを飲み、気合注入。一路、実家を目指す。
ようやくの思いで、実家に着いたのは二十一時四十分だった。旅の無事と愛車に感謝して、達成した自分を褒めちぎった。
無事に四国旅を終えたことを感謝しつつ、「四国野郎一人旅」を記す。
四日目
徳島県・香川県・愛媛県滞在 広島・山口高速通過
御守り代 千八百円 おみやげ代 三千円 温泉代 三百円
正岡子規記念博物館入館料 三百円 駐車場代 四百円 ガソリン代 三千八百円
飲食代 千八百円 高速代 一万千七百円