私とUNKNOWNと恋愛と。
描き切ろうとしたのですが全然間に合わなかったため、辛うじて形になった一話だけ投稿させていただきたいと思います。
あと同じくらいの分量で3話か4話分くらいは書こうと思っています。
よろしくお願いします。
純粋な興味で覗いていただいたみなさん、一応面白くなるのは2話からですが、覗いていただけると幸いです。ただ、長いです。ちょっとだるいな、と感じたらすみません。(大体三万字くらいです。)
プロローグ
それは、在りし日の光景...
「ありがとう。あなたと一緒に入れて、本当に良かった。」
「いいの?これであなたは、間違いなく普通の人には戻ることができない。もはやその道に踏み込んでしまったら、絶対に後戻りできない。」
「いいよ、私の旦那様。私は、絶対に後悔なんてしない。」
「そうかい。本当は、そういってくれて安心してる僕がいるんだ。」
そうして、礼服に身を包んだ男性が、言葉を区切って...
「ありがとう。そして、これからもよろしく。僕のお嫁さん」
「勿論。」
そして、ウェンディングドレスに身を包んだ女性が、その一歩を踏み出した...
第一章:非日常を引き連れた異星人
「・・・夢か。」
私、高須 翔子は、椅子の製造業をやってるただのOL。今までは恋愛というものをしたことがなかったけど、最近は羽田 孝介さんと付き合っていて、人並みに恋愛ロードを驀進している単なるOL...のはずなんだけど。
「夢の中に出てきて男の人の顔、間違いなく孝介さんじゃなかったし。結構美形ではあったから嫌いじゃあなかったけど、幸せ絶好調らしく孝介さんとの夢、見たかったんですけど。
ていうか、夢の中に出てきた女、それなりにメイクしてはいたけど間違いなく私だったし。私、いったい誰視点で夢を見てたんだろう。」
勿論私には浮気をするだけの顔も胸も度胸もないしね。
「あ、やばい、昼休み後二分で終わるじゃん!間に合わない!」
「おお、翔子急いでるねぇ。頑張れ頑張れ~。」
「ちょ、凛さん、今マジで余裕がないんで後で!」
「どうやらそうらしいねぇ。急げ~」
この人は先輩の速水 凛さん。結構優しく接してくれるんだけど、マジ切れするときは滅茶苦茶怖いらしい。時間がないから以下略!
「遅いぞ、高須。もうすでに部長キレる寸前だぞ。」
「え、ウソ!?だってほら、時間的にはぎりぎりセーフだし...」
「あのなぁ、気付いてないならひとついいこと教えてやるよ。お前のその腕時計、二分分遅れてるからな。」
「うわ、ホントだ!どうしよう...」
「あともう一つ忠告すると、こうしてゆっくり話してるよりは確実に部長に誤りに行った方がいいと思うけどな。」
「ホントだよ。中俣、あんたなんでこのタイミングで話しかけてきたの!?ああ、もういい、ちょっと黙ってて!」
「忠告しただけなんだけど、果たしてなんでこういう扱いになるかな。」
そういえば、中俣 一樹、同僚なわけだがこいつはこういう奴だった。すっかり失念してたよ。ついでに、こういう奴っていうのは、急いでいるときに限って話しかけてくるようなやつのこと。ああ、こういうシチュエーションだとマジうざいよ、一樹!
「いや、お前が話しかけてきたんじゃないかよ...」
とりあえず、部長だ。謝りに行かないと!
「あはは、それはおもしろいねぇ。」
「あははじゃないし、なんも面白くないからね。」
「分かってる分かってるって。で、どうなったの?」
「そりゃあもちろん、部長にこってり絞られたよ。ていうか、三分の遅刻だよ!?産業革命のころのイギリスかっ!って言う話だよね、ホント。」
「いやぁ、遅れた翔子が言える話じゃないと思うよ?」
「そりゃそうなんだけどねぇ。」
今私の隣でしゃべってるのが、同僚の麻美。この職場で一番心を許せる友人だ。
「だからさ、絶対さっき見た夢のせいなんだって。」
「でもさ、果たして翔子に限って本当にそんなことがあり得るのかどうか...」
「おいコラ、それどう意味よ!?」
「だって、翔子ってたいていの男子より男勝りな性格してるもんねぇ。」
「そんなことはないわよ。ただ、我が家の環境がいささか変だっただけ。」
「いやいや、すでに[いささか]っていうレベルじゃないからね!私、翔子の忠告をガン無視して翔子の家に行ったこと、いまだに後悔してるもの。翔子、本当にごめんね。」
「やめて、これ以上言われると謝られてるはずなのになぜか私の方に精神的ダメージが入ってくるから。もうあの家の事はしばらく思い出したくないの。頼むから忘れて。」
「ごめんごめん。でも、ホントに翔子はこのままOLやって、どっかで偶然いい男の人見つけて、結婚して幸せを築けるのかね?結構疑問に思ってるんだよね。」
「まず、忘れてるかもしれないけど私には孝介さんという立派な彼氏がいるからね。彼とのハッピーロードを作り上げる気、私にはバリバリありますから。そして、それは疑問に思うとこじゃない。確かに、少々想像しにくいんだけどさ。」
「まぁ、いいけど。それより、早く作業した方がいいんじゃない?じゃ、私はこれで上がりで。お疲れ様~。」
「あ、謀ったな?そうなんだな、麻美ー!」
周りを見渡すと、みんなすでに帰宅準備を始めたところだった。...今日は残業か。しかも、結構残ってるんだよね、これが。急がないと、今日の日付がかわらないうちに家にたどり着けないかもしれない。
「くぅぅ、それもこれも私に謎の始末分を大量に書かせたあの禿のせいだ!あの禿、いつか絶対に見返してやる!」
ついでに言っておくと、部長である赤羽部長は、禿げてる。これはもうツンツルリンに。
「ほほう、その上司すらも越えていくという心意気、まことに立派なものではある。だが、今日遅刻した奴が言えるセリフではないのと、禿げは許さん。それなりに気にしてるんだ。女性社員からの言葉は応えるもんだなぁ、おい!」
...やばい。後ろを振り向いちゃいけない。その瞬間に私の命運は尽きる...ってわかってても、見ちゃう。見ちゃった。
そこにいたのは、案の定赤羽部長だった。
「ぶ、部長じゃあないですか。あれ、今日はもう帰ったんじゃ...?」
「お前が本当に反省してるようだったら手伝ってやってもいいと思って戻ってきてやったのだがな。どうやら優秀な部下は私を超えてくれるそうなので、私はあきらめてとっとと変えることにするよ。いやぁ、明日の朝が楽しみだね、高須君...?」
...マジですか。私、せっかく得られたかもしれないチャンス、どぶに放り込んでたんですか。
そうして、灰となって燃え尽きた私の前を赤羽部長は無慈悲に通り過ぎて行った...
「バカバカバカ、私の馬鹿ぁぁぁぁー!?!?!?」
私のもとに残されたのは、新たに追加された仕事の束と今日の欠損分の仕事の束だ。...これ、果たして本当に終わるのかなぁ?
「よ、ようやく終わった!やばい、建物のセキュリティが閉まる寸前だった。マジで危なかった!」
建物のロックがかかるのは12:00。私の仕事の束が終わったのは、11:53。かなりマジで危なかった。最悪、警備員さんに取り押さえられてた可能性すらあった。
「とりあえず、これで平穏に我が家に帰れる!よし、とっとと帰るためにもショートカットしちゃえ!」
それは、普段は選ばない公園を通った罰が当たったのか、仕事がなかなか終わらなかった罰なのかはたまた赤羽部長をはげと言った罰なのか。
チュドォォォォォォォォォォォォォン!
そんな物騒な破壊音を引き連れて、翔子のすぐ横、3メートルほどのところに何かが墜落していた。
「え?え、ええええええ!?」
なんかわけのわからない物が降ってきた...確かにそれも一大事なのだけど、それ以上に驚くべきことがあった。
翔子には、直前までに何かが落ちてくる様子なんて、何一つ見ていないし、聞いてもいない。そんなものが存在するわけがなかった。
「いや、なになにない!?マジで無い!なんで普通に歩いてるだけで謎の物体が降ってくるわけ?訳が分かんないんだけど!」
とりあえず叫んでみる。...勿論結果は変わらなかったけど。
「ええっと...?これは...ドローンのかなりデカい奴みたいな?」
とりあえず好奇心に負けた翔子だが、その物体の正体をうまく言い表せない。
「ええーっと、まずはドローンみたいに四つの足を持っている飛行物体っぽい何か...?あ、よく見たら結構大きなボールが...人ひとり分入れそうなぐらいの大きさだねぇ、結構大きい?」
そのとき、そのボールの表面が、唐突にopenした。
「やばい、テロとかそういう奴!?でもここら辺、どこに逃げれば...」
「You don`t have to leave there.」
「え、喋った?」
「What`s happning? ...oh I see.I think this language can`t communicate with this peoplo.ええっと、これで分かる?」
「いきなり日本語になった!?今さっきまで英語話してたはずなのに!」
「あ、どうやら通じてるみたいだね。良かった良かった。」
「いや、何にもよくないし。まずあんたがだれなのか、どこからどうやってきたのか教えなさいよ。」
「今のとこ、僕にもわかんないことが多いんだけどねぇ。
とりあえず、僕の自己紹介をしよう。僕の名前はアーミッツ・シェイブ。あなたたち地球人にとって、僕たちはいわゆるエイリアンだ。」
「エイリアン...?冗談でしょ?」
だって、明らかに高校上がりたてか、それからもうちょっと経ったかっていうぐらいの年齢してるし。
この時期に独特の中二病っていうのだったら確かに仕方ないとは思うけど、ねぇ。
「だって、エイリアンって、タコの形してたり、もっと原始的なアメーバみたいな形してるもんでしょ?エイリアンがなんでそんなに人間に似た姿かたちをしてるのよ。」
「これだから人間っていう種族は思い込みが強くていけない。どうして、自分たちみたいに人間の形をした生命体が生まれてるのに、自分たちだけが人間の形をしている、自分たちが特別だと思い込むんだい?別に生命体が住んでるなら、広い宇宙のこの銀河の中の狭っ苦しい星だけとは限らないんだよ?」
「むぅ、たしかにそれはそうだけど...、なんで地球の事なんか知ってるのよ。」
「ボイジャー探査機って知ってるかい?」
なんだったっけ...?
確か、ほかの生命体と触れ合うために作った、金色の円盤みたいなのを乗せた宇宙船だったっけ?
「そうそう、それで大体あってるよ。その金色の円盤に書かれている写真を僕たちの文明は辛うじて手に入れることが出来てね。最初は意味が分からなかったんだけど、いろいろと試行錯誤してみた結果がこれっていう訳さ。」
「へぇぇー。で、日本語すらペラペラなのはどういう事?確か、基本英語だったと思うんだけど。」
「それに関しては、[こんにちは]の文字を元に法則性を見つけ出して会話しようとしたわけさ。」
「いやいや、その要素のどこを信じろっていうの?どう考えても、100パーセント嘘でしかないでしょ。なに、新手の詐欺かなんかなの?」
「ちょっと待ってくれよ。どうしたら信じてもらえるかな...?」
「本当に信じてほしいんだったら、なんか地球の人間じゃできないことをやってみてよ。」
ふふん、今の人類はすごいんだよ。ぶっちゃけ、並大抵のことじゃ人類の事を超えれるわけがない。特にこんな中二病こじらせた奴に何かできるなんて...
「じゃあ、あの楽器でいいかな。」
そういって指差した先は、木に立てかけてあるギター。
「いったいあれで何をしようっていうの?」
「いいからいいから。まぁ、見ててくれよ。」
そういうと、10メートル以上は離れたギターに向かって手を伸ばすようなしぐさをして...
ギターが、勝手になりだした。
「う、ウソだ。何をどうやったらこんなことが出来るの!?」
「こっちからすると割と当たり前の技術なんだけどね。早い話、音には波長っていうものがある。」
「うん、その程度はさすがに知ってるよ。」
「だから、それと同じ波長を僕から出してあげたんだ。そうすると、どうなると思う?ついでに、ヒントは音叉?とかいう道具の片方の音を鳴らすともう片方もなるっていう、あれだよ。」
「えっと、音叉みたいに波長がおんなじなんだから...音が共鳴する...?」
「そう、そういう事。」
「でもそれなら今の技術でももしかしたら可能かも...。」
「じゃあしょうがないか。一日一回しか使えないから、本当は使いたくなかったんだけどな。」
そういうと、謎の男の子エックスの声が、後ろから聞こえてくる。
「え?まさか、テレポート!?」
「正確には、空間を少し曲げてその道をショートカットしてるだけなんだけどね。」
「何言ってるかわかんないけど、とりあえずなんかあんたがすごいってことは分かった。
でも、だからって私にできることなんてないし、あの禿に仕事化せられたはいいけど明日からは普通に勤務だからさ、もう早く帰って寝たいんだよね。だからさ、なんか私にやってほしいことがあるなら、はっきり言ってくれない?私にできる限り、何でもするからさ。」
何でもするからさと、翔子は確かに言ってしまった。
「なら、しばらく僕をあなたの家に泊めてもらうことはできませんか?」
「え!?」
いやいやいやいや、彼氏もいるのに人間の形したエイリアンを我が家に泊めるとか、正気の沙汰じゃアないから。大体、いきなり別の星に来て、最初にあった人間だからってそういう事を頼むのはどうなの?ちょっとは罠にはめられて、解剖されるとかは思わないの?
「いわゆる[ホテル]と言われるような宿泊施設がこの地球上に存在してることは知ってるのですが、いかんせん通用する貨幣や硬貨が全くと言っていいほどないんですよね、これが。一応この星に準備してきている以上、お金を稼ぐ方法は持ってきたんですが、宿泊すらできないとなると、稼ぐことすらできないんですよ。と、いうわけで、泊めてもらえませんか?」
こっちの心なんてまるで気にした様子もなく、彼はただただ私に頼み込んでくる。
「無理。他を当たって。」って言おうとして、気が付いた。このエイリアンが頼れる人は、今私しかいない。それは、全く知り合いもいないまま、言語も何一つわからないままでほかの国に放り込まれたのと同じようなもんだろう。
それは・・・この星の存在を知ってやってきてくれたエイリアンに対してあまりにも、酷い仕打ちじゃあないだろうか。
そして気づけば。
「いいよ。」
脳がいろいろ考えるより先に、口が勝手に動いていいよって言ってた。だって、地球に来るために来てくれたエイリアンに出来ることなんて、私にはそんなにないから。だったら、どうせ一人暮らしでさみしいままの我が家に、一人ぼっちのエイリアンを済ませてみるのも悪くはないと思う。
それに、もしかしたらエイリアンに恋愛相談に乗ってもらえるかもしれないしね。
「ありがとうございます。でも、言い出したのは自分なんですけど、邪魔ではないのですか?」
「そこらへんは大丈夫。もともと、自分が住むには明らかに大きすぎると思ってたんだよね。もう一人増えるぐらいがちょうどいいの。じゃあ、いこうか。」
そして二人は、家の方に向かって歩き始めた・・・
「昨日のは...夢?」
昨日、帰りが遅くなってボーっとしてたせいか、エイリアンと会ったような夢を見てた気がする。確か、公園を通ってたらいきなりエイリアンが表れて、それで...
「おはようございます、翔子さん。料理、勝手に作っちゃったんですけど、大丈夫ですか?」
ああ。やっぱり昨日のエイリアン、アーミッツの声だ。
「っていうか、今何時?」
「ええっとですね、いまは7:40分です。」
「え、やばっ!今日は始まりが早くて、8:00始まりなのに。どうしよう、こっからじゃどれほど急いでも間に合わないよ...」
「いいですから、朝食を食べて出かける準備をしといてください。僕がなんとかしますから。」
「...ごめん。あなたに賭けるよ。」
そうやって進んだ技術なんだかどうなんだかよくわからないエイリアンが言ってくれてるんだから、諦めて今は出発する準備だけをしよう。
「準備は終わったよ。どうするの?」
「こことここの座標を入れ替えて、っと。翔子さん、今からあなたを会社の女子トイレに送るから、なんとかごまかして。それじゃあ行くよー。えいっ!」
「え、ちょ、ちょっと待って。急すぎ
「うん、ミッションコンプリートだね。」
するとそこには...翔子が今さっきまでいた空間に、今はだれもいない。まぁ、そういう目的でこの能力を使ったんだから当たり前なんだけど。
「ほんっとうに、どこに送るかは先に言いなさいよ。おかげでかなり怪しまれたでしょうが。」
あの後は大変だったのだ。なんせいきなり送られるとは思ってなかったので、バランスを崩して転倒。おかげでトイレがかなりうるさくなって、あたり一帯が一斉にこっち向いたのが扉越しで分かるくらいだ。
「起立。これより朝礼を始める!礼。」
「ついで、出席を取る。部署ごとに読み上げていくから、今この場にいないものは返事をせよ!」
ザワザワ。
「どうした、何かおかしなところがあるか?」
「課長、いない人はどうやって返事をするんでしょうか?」
「いる奴は返事すればよろしい!」
あーあ、自分のミスなのに、自分でキレてる。ホンッと手におえないな。
「高須!は、たいてい休みだから今回も休みか」
「課長、何言ってるんですか!私、ここにいるんですけど!」
「ホ、本当か?あの高須に限って、朝礼会に出席するなんてことはあり得ないと思っていたんだが...果たしてどういう風の吹き回しだ?」
「いや、今回は時間に間に合ったので、普通に出席しただけですから!決して普段からアンチ朝礼会の訳ではないんです!」
「ま、まぁ。そういうことにしておくか。」
へぇー、あの高須が。いやいや、あいつも一応社員だしな。
「やかましい!言いたいことがあるならはっきり言うようにせよ!」
おお、部長が久しぶりに役に立ってる。ありがとう部長、これで安らかに天国へ
「勝手に旅立たせるな、ボケ!」
あらら、声に出ちゃってたみたいだね。まぁ、極論仕事まじめにやっておけばこの人は大丈夫かもしれない。
「いやぁ、びっくりだね。あの翔子がまさか寝坊しないとは。」
「凛先輩、さすがにそれは酷いですよ。私だって間に合わせるときは間に合わせるんですから。」
そんなことを言いながら、ふと罪悪感を覚える。
これは、一日一回限定だけど、ドラえもんの[どこでもドア]みたいだね。果たしてこれがどこら辺まで動けるのかはまだ分からないことも多いけど。
そうそう、そして常に助けてもらうのはのび太君。いつもドラえもんに道具を貸してもらうんだけど、毎回[やりすぎ]で失敗しちゃう。
この力に頼り続けたら、アーミッツに頼り続けたら私も現実ののび太君みたいになってしまうんじゃあないか。
「極力、力を借りないようにしないとね。」
そうつぶやく翔子の左手の中には、いつの間にか車のかぎが握りしめられていた。
「...結局、迎えが来ないことを忘れてた私はあなたを頼る、頼らないどころか車で帰ることすらできなかったけどね。」
「うーん、僕が何かまずかったですか、翔子さん?」
ついでに、アーミッツの家事の技能はかなり高い。料理とかめっちゃおいしかったしね。
あ、けど唯一裁縫だけは嫌い(本人談)だそうだから、地雷に足突っ込むのはよしといたほうがいいだろな。
閑話休題。
「どうだった?今日も面接試験に行ってたんでしょ?」
「それが...あんまり芳しくないんですよね。普通に面接試験しようと思ったら、日本国籍を持っていないとダメだって門前払いされちゃいまして。いやぁ、ほんとに困りました。」
「へぇえ。それで、どうしてたの?」
「仕方がないから、いわゆる日替わりバイトとかって呼ばれるのをひたすらやってましたよ。うまく教えることが出来ないとダメな家庭教師の仕事とかはなかなかできなそうですしね。」
「なるほど。」
「ただ、やっぱり賃金は安いんですよね。」
普段なら一人で食べなきゃいけないむなしさが、もう一人いることでかなりにぎやかに思える。こんな食事、いつ振りだろう?
いつかは私も孝介さんと、二人で家庭を築いて、こんな会話を...したいなぁ。
「で、これからなにかする予定はあるんですか?」
「いや、特にないね。今日は仕事も定刻通りに終わらせられたし、暇しちゃってるんだよね、今。」
「おお、それなら、[テレビ]とかいうものを一緒に見ませんか?地球の文化はまだ分からないところが多くて、知りたいことが多いんです。」
「へぇぇ、あんたかなり日本語流暢に話せるから、てっきりそんなの全く問題ないんだと思ってた。」
「それが、日本語は自動翻訳システムによって何とかなったんですけど、どうにも敬語?とかいう文化になれないんですよ。たぶん今だって、僕が話したいこととはちょっと違った意味になっちゃってると思います。」
「そうだねぇ。ニュース番組はかなり専門的な内容が含まれてるからかなり難しいんだよね。うーん、多分お笑いの番組とかがいいと思う。」
思い立ったら善は急げ。リモコンを棚から引きずり出してきて、昔の記憶を頼りにお笑い番組を探す。
なんでこんなにほこりをかぶってるかというと、もともとテレビは好きだけど残業が多すぎて、まともに見る時間が取れないんだよ!ホンットウに、あの企業のせいで私の自由は制限されているとおもう。(と愚痴をこぼすたびに、麻美は[そりゃあ残業の原因の99パーセントはあなたにあるし。あはは~]と笑うし、一樹は「このくらいは普通の範囲に含まれるだろ」っていうし。)
「私って、ホンッと不憫だと思う。」
「?そうなのですか?僕のせいだとしたらすみません。」
「あ、会社の話。気にしないで。」
その間も、お笑い芸人は客を笑わせるために一生懸命考えたネタをテレビの前で、発表してる。
それが、妙にまぶしく見えて...
「翔子さん翔子さん、今の芸人はどんな面白いことを言ったのですか?」
「そうだねぇ、今のはいわゆる[言葉遊び]の類だよ。」
「そうなんですか。翻訳は便利ですけど、意味しか出してくれないのでこういう時は本当に不便なんですよね。」
「へぇぇ。」
私、高須翔子は昔からいわゆる[空気が読めない子]、今風に言うなら[KY]だった。
クラスが静まり返ったタイミングで友人に話しかけちゃたり、クラスのみんなが左に進んだ時にも私だけが右に進んじゃったし、お笑い芸人のネタがわからない人には自分がわかってる場合だけ教えてあげたりした。
その度に相手は困ったような、怒ったような、あるいは笑ってるような顔をしてた。でもその理由が翔子にはどうしてもわからなくて、理解できないなりに周りに合わせようとして...
失敗した。
結局私は空気が読めなくて、クラスからはぶられた。
「そんな過去があったんですね。もしかして、僕を連れて帰ってくれたのも、それが理由ですか?」
「うーん、多分理由の一つではあると思う。あの時の私と、一人ぼっちの姿がよくかぶっって見えたから。
...なんで私の過去を知ってるの!?心?心を読んだの!?」
「いえいえ、読心術なんてできませんよ。ただ、最後のほうが言葉になっちゃってたので、そこから推理しただけです。」
「え!?どこ、どこから私、言葉に出してたの!?」
「ええっと、クラスが静かにとかいうあたりですね。」
ええ!それ、ほぼ全部じゃん!けど、この前に色々と考えてっと思ったからこそアーミッツは[最後の方]とか言ったんだろうし、勝手に起こったりするとこれで全部ってばれちゃうしなぁ...
「ふふふ、理由、あったんじゃないですか?」
「へ?何の話?」
「ほらさっきの、周りに合わせて行動できなかったことですよ。なんか、理由あったんじゃないですか?」
「確かに、そりゃああったよ。
クラスが静まり返った時に話しかけたのは臨時委員会があるよ、ってことを伝えるためだったし、
クラスのみんなが左っていったときにわざわざ自分だけ右を選ぼうとしたのはそっちの方が面白そうで、興味があったからだし、
お笑いのネタがわからない子がいたときはクラスの中で笑われてた子が本人は悪くないのに笑われてるのが可哀そうだったからだし。」
「それなら、確かに社会になじむという意味では違うのかもしれませんが、人間としては立派なことではないのですか?」
「...そう?」
「少なくとも、僕はそう思います。」
「...そっか。そうなんだ。」
なんか、すっきりした。
「やった、仕事終わった!」
「最近翔子、今までがうそみたいにすばやく作業できるようになったよねぇ。なんかいいことでもあったの?」
夕日が差し込むオフィスで、いるのは私と麻美だけ。他の人たちはほかの部署の手伝いに回されちゃった。
もう初夏に入ったころかぁ。早めに夏物の洋服揃えておかなきゃね。今、我が家にはもう一人の同居人もいることだし、ね。
男子の服って、どんなのがいいんだろ。全く考えたことがなかったから、どうすればいいか少し迷うな。
「翔子、最近余裕で来たよね。今までは仕事と私生活を両立させるのに精いっぱいで、それすらも中途半端だったのに、今ではそんなの余裕ですーって感じだもんね。ほんとにどうしたの?」
「うーん、家に私の代わりに家事をしてくれる人が来たっていうか...」
「え、まさか孝介さんという彼氏がいながら浮気?浮気なんですか!?」
「いや、まだ男性か女性かすら言ってないじゃん。」
「え、じゃあどっちなの?今の反応見ると男性だと思うんだけど、そこん所どうなの?」
「...その通り。」
「孝介さーん、こいつ、浮気してますよぉ!」
「ちょっと、今日これからデートなのに変なこと言わない!今のが孝介さんに聞こえてて、それを孝介さんが信じちゃったらどうする気なの!?」
「えっと...まだ来てないから聞こえてないってことで、セーフ!」
「いやいや全然セーフじゃねぇし。私の精神的にセーフじゃねぇからそれ!」
「あ、噂をすれば影が...あれ、孝介さんの車じゃない?わざわざ恋人の事を迎えに来てくれるなんて、カッコイイ!ヒュウ!」
「えーい、冷やかしは少し黙ってて!あ、孝介さん、今行くねー!」
今日はせっかくのデート。どうせなら冷やかしばっかしてくる同僚は放置しておいて、しっかり楽しんでこないとね!勿論、相手に迷惑をかけない程度に。
「ごめんよ、翔子。待ったかい?」
「いいえ、そんなことはないですよ。今さっき仕事が終わったところです。」
「じゃあ、立ち話っていうのもなんだから、車に乗ってから話そうか。」
「そうですね!」
何しろここ最近までは残業続きで、まともにあえてすらいない。どこぞの禿のせいで。禿げのせいで。話したいこと、喋りたいこと、知りたいこと、聞きたいことがいくらでもある。
けど、むやみやたらにあせるのも禁物。まあ時間はたっぷりあるんだし、ゆっくり話せばいいよね。
「じゃあ、出発するぞー。」
今日行くのは、都内のフレンチレストランだ。なんでも彼曰く、[都内でも知る人ぞ知る名店!]っていうところらしい。けどな、フレンチのマナーとか全く知らないんだよなぁ。一応ネットで調べた程度の情報は持ってるけど、どこまであてになるか分かったもんじゃないし。
けどま、彼とのデートを成功させられたら問題ないよね。よし、ガンバろ!
「...全然話したいことはなせなかった。」
「あれ、翔子さん、どうかしたんですか?」
家に帰ってくると、エイリアンがいて、家事の全てがかたづいてる、そんな日常。
「ホントに、喋りたいこと全然しゃべれなかった。結局不自然な間は多くなっちゃったし、今日こそ話そうと思ってたことがまた心残りになっちゃった。」
「それは、以前言っていた翔子さんの恋人の話ですか?」
「その通り。...なんだけど、まあこれが思った以上に深刻なんだよ。」
全く、自分が言いたいことが何一つ言えないようじゃあ、男性と付き合うなんて夢のまた夢。
結婚なんて、下手にやったら一週間以内に破綻しちゃいそうな状態だよ。
結婚適齢期とも言われているように、この期間を逃せばあとは置いておばさん道ましっぐらだ。そこまでに、なんとか目安は立てておかないとね。
「すみません、翔子さん、ニュースを見てたら[更年期障害]?とかうわけのわからない単語が出てきたんですけど、これってどういう意味ですか?」
「ちょっと、その話を私に振らないで!今、それになるかならないかの瀬戸際だから!」
「え?これ、ふっちゃあいけない話だったんですか?確かニュースでは、30代後半から40代にかけて顕著にみられるとか何とか...」
「ちょ、あとでパソコンの使い方を教えてあげるから、それで調べなさい。」
今その話はないでしょ!こっちはそうなるかならないかで悩んでんだよ!?そっちの方には絶対に行きたくない!
まだ私、一応ピチピチの二十代だから!まだ29歳だから!手遅れじゃない…よね?
プルルルルル、そんな聞きなれた着信音と共に、電話がかかってきた。もう、なんなのさ!
「もしもし、高須です」
「あ、翔子?さっきはゴメンね、ちょっと一方的にしゃべりすぎちゃったかもしれない。」
「ううん、そんなことないですよ!とても楽しかったですし!」
「そっか、ならよかった。少し話しかけてくれようとしてたの、冷静になってから気付いて、電話も受け取ってもらえなかったらどうしようかと悩んでたんだよ。」
「いや、むしろ話しかけてくれてありがとう。じゃあ、また次もデートしてください。」
「分かった。任せろ!」
ツー、ツー、ツー
「はあ、よかった!まだ愛想つかされたわけじゃなかったみたい!」
「今の電話相手は、翔子さんの恋人ですか?」
「そうなんだよ。でもなんか恋愛って難しくてさ。」
「僕でよかったら、相談に乗りますけど
「ホントっ!?ありがとうほんとにありがとう。マジで最近悩んでたんだよね。」
こうして、別の星の生命体によるはじめての恋愛会議が行われることになった...本人たちはそんなこと何にも気にしてなかったけど。
幕間1:速水 凛の回想
「はぁぁ、全く、翔子が彼氏連れてくるなんてねぇ。本人は知らないだろうけど、部署を超えて噂になるって、相当よね。」
私は風呂に入りながら、どうしてもそうつぶやいてしまう。ついでに、風呂に入るのが好きすぎて最早私にとっては数少ない趣味の一つ。結構各地の温泉に通ってみたりもした。
それにしたってまさか、まさかあの翔子が、ねぇ。
「確かに胸は割と大きくて明るいからわからなくもない...のかな?」
確かにそう考えると今までできなかったのが不思議なくらいであって、結構な優良物件なんだろうか?でも、それにしたって...変わっていすぎる。
「麻美も何やら変なことつぶやいてたしねぇ。」
[果たしていざとなった時、翔子はどちらを取るんでしょうねぇ?]なんて思わせぶりな発言しちゃって、何を知っているのか。ちょっと気になる。
「まぁ、いいわ。私はあくまで私の恋愛をする。他の誰かの心配してあげるほどの余裕は私には無いし、考えるだけ時間と糖分の無駄よね。」
そう言い残して、凛はデザートについて既に考え始めていた。彼女は気付いていない。それが彼女の恋愛が成就しない理由の一つであると...
第二章:エイリアンと恋愛相談をしよう
「で、今現在二人の仲はどこら辺まで進んでいるのですか?」
「どこまで、とは?」
改めてアーミッツに恋愛相談に乗ってもらうことになったので、事実を知ってもらうのは大事だよね、と思ってアーミッツからの質問タイムにしてみた。
「だから、早い話キスはもうしたのか、とかそういう話ですよ。流石に性行為はしてないと思うんですが...だいたい、性行為できる人が今更悩むはずありませんしね~。」
「...いまだキスもできていません。けど、まだ付き合ってから三か月しかたってないからそれもしょうがないと思うんよ。」
「はい、そんな翔子さんに悲報です。」
といって、アーミッツはいつの間にかマスターしていたパソコンを使ってあるデータを示してくる。
それは円グラフになっていて、どうやら年代ごとに分けられているみたいなのだが...
「え、う、ウソでしょ!?なんでキスしたことがある高校生がすでに30パーセントを上回っているの!?」
「残念ながら、すでに世界的にもこれが標準のようですね。高校生でも、割と普通にキスぐらいはするらしいですよ。」
「...ほんとに出遅れちゃってるじゃん、私。」
「まあまあ、キスしたことがない人もいることですし、付き合ってる年数はカウントに入れてないのでそうはいっても公平なデータではないと思いますよ。大丈夫、安心してください。」
「これのどこが安心できるのよ!?」
最近の高校生、ちょっと元気がよすぎやしませんか?だって、キスとかもうちょっと仲が深まってからやるもんなんじゃないの?そんなに簡単にポンポンやっちゃっていい物なの?
「とりあえず、焦らなきゃという認識は持ってもらえたと思います。」
「そりゃあ、今ので目が覚めるような思いだったわよ。急がないと、本当に何にもできなくなっちゃう。」
「それを防ぐためにも、頑張って二人の距離を縮めるところから始めましょう。」
って言われてもな~。それが出来たら、そもそもこの問題は発生してないわけだし。
そう、この問題の原因はすべて私のコミュニケーション能力にあるっていうのは分かってるんです。ただ、分かってることとそれを実行できることは全く別物なんです。なんで世の中のカップルはあんなに滑らかに話すことが出来るんだろう。
「とりあえず、僕の故郷の風習を試してみませんか?」
「ほうほう、どんな?」
「僕の故郷では、花を送ることで相手に親愛の気持ちを伝える、という風習が...」
「却下!なぜなら、地球の風習ではそれは相手に結婚を申し込むときの風習だから!めっちゃ勘違いされちゃうじゃん!」
「えー、いい案だと思ったんですけどね。」
それのどこがいい案なんだろう。
自分の意志がまだ固まっていないのに婚約を申し込むって、相手にはもちろん自分にもかなりのダメージが入ると思うんだけど。
「しょうがありませんね。そんなにいやならプランBでいきましょう。
プランBは、一日デートを一回翔子さん側が主催で行うっていう案です。」
プランAと比べても大幅に質が落ちるんですけどね、とつぶやくアーミッツ。
うん、普通にプランBの方を提示してほしかったな、私は。
「まずは、極力相手の好みに合わせるべきだと思います。相手から[-することが好き]とか、[-やってみたい]とか言われた記憶ないですか?」
「うーん、そもそも大して話せてないからなぁ。こんなことになるならもっとそういう事聞いておけばよかった。」
「うーん、これじゃあ本当に計画の立てようがないですね。
情報収集はこれから精力的に行ってもらうとして、とりあえずは無難なベースプランを立ててみましょうか。」
そういうが早いか、アーミッツがグーグルマップをコピペして印刷を始める。っていうか、それ私の物なんですけど。まだ使っていいと許可出した記憶ないんですけど。
ホントに現代の通信機器にアーミッツがなじみすぎて怖い。
「まず、10:00くらいに駅に集合して、っていうプランで考えてみましょう。何かやりたいことの候補とかありますか?」
「うーん、映画は見たいかな。」
だって、絶対楽だし。孝介さんと話さなくても勝手に音声が間をつないでくれるとか、どんだけ素晴らしいんでしょう。映画を作った人はマジで偉大だと思う。
「そんなへたれ精神だから何もできないんですからね。」
はいはい、わかってますよ。分かっててもどうしても直せないだけですよ。
「ここから昼食を食べることになるでしょう、多分。
そこで映画についての意見交換とかできたらベストですね。ま、そこはがんばってもらって。」
「無理。もしも孝介さんと意見が食い違っちゃったらそのあとの話、気まずすぎて絶対にできないじゃん。そんなギャンブル、絶対無理無理。安定志向でいこうよ。」
「はぁ。全然だめですね、これは。」
そういうと、アーミッツはビシッ!と指を立ててなんか偉そうな格好しだす。しかも結構美形だから無駄に様になってる。
この場合の無駄っていうのは、本当に言葉通りの無駄でしかない、という意味。早く話し、続かないかな。
「いいですか?相手からすればせっかく翔子さんがデートでわざわざ映画館に来てるんですよ?これは当然意見交換などで話すチャンス!と息込んでくるはず。それを相手の翔子さんは全く話そうという気が見受けられない。そんなことになったら、映画が詰まらないのに自分に無理して付き合わせてるような印象を与えてしまうでしょう?
そしたらそのあとのデートの雰囲気はおよそ最悪です。なんせお互いにお互いの事を気遣って、何にも言葉を発しないんですから。」
「うーん、確かに一理あるなぁ。で、でも、もし孝介さんと意見が食い違っちゃったりしたらどうするのさ?それこそ雰囲気が最悪よ。」
「そこについては心配いりませんよ。相手に何か言われる前に、[今日の映画どうだった?]と思い切って聞いてしまうんです。あとは相手から聞いた答えと合わせて、適当に賛成しておけば大丈夫なわけです。」
そんなにうまくいくもんなのかなぁ?
っていうか、自分側から孝介さんに話しかけるのってすごく勇気がいるんですけど。だからこの一手はできれば採用したくないんだよなぁ。
「へタレ。」
「う、うるさい!純情な心を持った乙女なだけ!」
「で、そっからの話なんですけど、全く予定を入れれないんですよ。」
「それはまたどうして?」
「勿論、相手の興味がどこにあるかがわからないからです。そのためにも、情報収集は必死なんですからね!尻込みしてないで、しっかり情報集めてきてくださいね!」
「...はい。」
ああ、デートする前にもすでに孝介さんに話しかけなきゃいけないのか。...ヤバッ。
普通に考えて、それができるんだったらここで話し合ってる意味がないしね。
「まぁ、特に何にも内容であれば、ショッピングに行くのが一番無難かなとは思いますけどね。何を買うかにもよって大きく変わってきますけど、やっぱりショッピングをしないと現代人は生きていけないっぽいので。」
「確かに、それはそうかもしれない。ショッピングなしじゃ私はご飯を何一つ食べれないだろうから。」
「まぁ、ここについては不確定要素が多すぎて話にならないので諦めてディナーの話へ行きましょう。」
「そうだね。」
確かに孝介さんの好みも分からないのに、無理やり入れたってどうしようもないもんね。
この話をこれ以上続けられたら無理だった。...私の精神にかかってくるプレッシャーが。
「さて、ディナーについてですけど、個人的にはイタリアンかフレンチあたりの優雅なとこがいいかな、と思っています。なぜならとりあえずそういうあたりに言っておけば、なんか行儀がよさそうに見えるから。
これでもデートにおいて見栄えは重要なので、安さだけを注視してたらダメなんです。」
「ほほう、確かに一理ある。」
確かに、一日デートの終着点がファストフード店だったら見栄え悪くてダサいしかっこ悪い。
よし、ディナーはイタリアンかフレンチに決定でいいか!
「そして、そのあと、デートはまさに大詰めを迎えます。」
「え?もうそれで終わりじゃなかったの?まさか孝介さんの家に上がりこめなんて言わないでしょうね!?」
「いや、本来はそれぐらいしても何ら問題はないんですけどね...
最後の行程というのはほかでもない、花を相手に渡すという動作を最後に付け加えるだけですよ。」
「却下だ、っていってるでしょ!?何回言ったらわかるのさ!?それは地球上では[婚約してください]の意味なんだって!」
「...本来はそのタイミングで言わなきゃいけない言葉とそのタイミングでしかできない動作ですよ?いっそそのタイミングで結婚を迫ってみましょうよ!」
「無理無理無理無理無理!そんなこと絶対無理だって。」
「...まぁ、どうしてもできないならしょうがないんですけどね。」
それにしても、とアーミッツは私の想定以上のヘタレっつぷりに驚きをいまだに隠せない。よくもまぁこの意思の貧弱さで恋愛やろうと思いましたね、っておい!
そりゃあ確かにへタレかもしれないけど、私だって勇気振り絞って頑張ってるんだぞ!
とりあえず、出せる勇気は出してみよう!...それが難しいんだけどね。
「あ、おはよう、翔子。」
「おはよう麻美。ねぇ、麻美って恋愛経験あったっけ?」
「失礼な。今現在進行形で恋愛をしてます~。どっかの先輩と違ってコッチの恋愛はちゃんと成就してます~。」
「そっか。ねえ、麻美が相手に欲しい物とか、やりたいこととか聞きたい時ってどうするの?」
「?どうするって、そのまま聞くしかなくない?それ以外になくない?」
「ソ、ソウナンダ。そういうものなんだね...。」
...そのまま聞くってことが出来ないからあなたに相談したんだけどね?何の役にも立たない答えを返してくれてどうもありがとう。
「とりあえず、孝介さんに相談してみるしかないか。」
「どう?何か面白い進展あった?」
「うーん、とりあえず今度一日デートに誘ってみるつもり。そこでどれぐらいまで出来るかだよね!」
「へぇ、一日デートとか結構面白いことやってるじゃん。頑張れがんばれ~。」
「完全に他人事だと思ってるでしょ!?そうでしょ!?」
「まあ、なんだかんだ言って私は彼にいろいろ聞くことに何にも抵抗がないしね。」
...いいなぁ。一回私もそんなこと言ってみたい。
「ねぇ、麻美。さっき、あなたが私によく似た女の話をしてたんだけど、どういう事かな?」
「え、り、凛先輩、どうしてここに!?って、いったい何の話ですか!?私にはかけらもやましいところはありません...」
「さっき、[どこぞの先輩と違って]って言ってたんだけど、果たしてそれは誰の事なのかな?私の恋愛が一か月前に潰えたことを知ってる人が、まさか私について行ったとかじゃないよねぇ?」
「も、ももも、もちろんですとも。全然別の人の話ですから。いやだなぁ、先輩ったら、いやに疑心暗鬼になっちゃってるんじゃないですか?あはははは...」
「へぇ、そうなんだ。へぇぇ。」
え、これ私が主体じゃないの?つーか頼むからここでけんかをしないで!周りが離れちゃったせいでここには私を含めたこの三人だけになっちゃってるから。誰か、ヘルプ・ミー!
「...え、視線、だれも合わせてくれないんだけど。」
さわらぬ神にたたりなしとかいうけど、触った奴に巻き込まれたら何にも抵抗できないじゃん。
今日は孝介さんが迎えに来てくれるそうなので、待ち伏・・・ではなく、彼の迎えをまっていた。
ぶっちゃけ、このチャンスを逃したら私が話しかけられるタイミングはこの先見つけられないでしょ。
「やあ、翔子。待たせちゃった?」
「ううん、全然。」
普段通りの会話をして、そしてこれから全然今までにないことを...しゃべりたい。
「ね、ねぇ孝介さん、あのー。」
「大丈夫。落ち着いて、一つずつゆっくりでいいよ。」
「あ、そ、そうですね。」
…やっぱり落ち着きを保ち続けるのなんて無理だって!めっちや緊張するって!
「こ、今度、1日デートしませんかっ!?」
「勿論!翔子から誘って貰えるようになるとは、もしかしたら僕もなかなかかもしれない!とにかく、絶対行く!」
「ええっと…行きたいところとかありますか?」
「いや、それは翔子が主催してくれると言うのに自分の要求を押し付けたりしたら最悪じゃないか!翔子、何であっても俺はお前の決断を尊重しようじゃないか!」
「そ、そういわれても...」
なんか孝介さんのテンションがものすごい高いんだけど...
て、そこじゃない。どこに行きたいかを聞かないと何にも進まないよね。ネバーギブアップ!
「ホントに行きたい所来ないんですか?」
「そうだなぁ、翔子と一緒に行くとするなら、普通にショッピングか公園とか行ってゆっくりしたいなぁ。ま、あくまでできたらでいいけど。」
「分かりました!予約とか任せといてください。」
「任せるよ。」
やった!
アニメとか、ゲームの話と化されたらギブアップだったけど、普通にショッピングとか公園行ったりするだけでいいんだ!それなら、私でもなんとかなるかもしれない。
「へぇぇ、彼氏さんがショッピングを提案してくるとは、面白い彼氏さんですね。」
「面白いとは何よ、面白いって。たぶん私に合わせてくれてるのよ。」
やっぱり、相談するならほかの誰よりもアーミッツが安心できるんだよね。エイリアンだから、相談してもそのあとの人間関係がこじれることがないのが素晴らしいと思う。
「じゃあ、プランとしては
午前中は映画を見て、そこらへんで昼食食べて、午後はショッピングして公園に立ち寄る。そっからゆるーくドライブして、イタリアンレストランでいいですか?」
「いいと思う。っていうか、なんでさっきからそんなに口調がつんけんしてるのさ?そんなにいやなことでもあったの?」
「別になんでもないです。それより、いつにするかとか決めたんですか?」
「それね。それは、六月下旬にある休みでいこうと思ってる。」
「ほほう、悪くないタイミングですね(ネット調べ)。それなら、傘などを準備しておくとさらにいいと思います(ネット調べ)。」
「おお、さすがアーミッツ、頼りになるなぁ。地球の天気に関してもこんなに詳しいってすごいね。もしかして、向こうの星では気象予測とかの仕事についてたとか?」
「いやいや、そもそも私の星に天気予報士のような仕事はありません。」
「え、なんで?私たちの文明よりずっと進んでて、もっと正確に当てれるようになるんじゃないの?」
「そもそも一人ずつが名のマシンの集合体であるイヤホンを持ってて、天気の予想は自分が欲しい分、必要な分だけ天気を予測してくれるんですよ。つまり、耳に超小型化したスマートフォンを取り付けたような状態だと思てくれればいいと思います。」
「へぇぇ、今の技術も結構進んでるし、頑張ればもしかしたらいけるかもね。」
さーて、話が大幅に(っていうか原形をとどめてないぐらい)脱線しちゃったから、元に戻さないとね。
「ねぇ、僕と一緒にデートの予行練習をしておくっていうのはどうですか?」
「おお、いいねぇ。そういうプロセスを踏んでからの方が、なんか安心できるもんね。よし、今週の週末に行きたいんだけど。。行ける?」
「いいですよ。じゃ、ついて行って花の選定でも手伝いますか。」
「だから、花は送らないって。」
いつのまにか。
自分でも気づかないうちに、不安の種が忘れされているなんて。そして、その忘れ去った不安の種が大きくなって芽生えてくるというのはどれほど怖いかという事を...。
「ちゃんと駅で待ち合わせできましたね。」
「いやいや、心配するのそこじゃあないでしょ!?もっと立ち振る舞いとか、身だしなみとか、そういうところをチェックしなさいよ!駅で待ち合わせなんて、いまどき小学生でも出来るわ!」
「冗談ですよ。翔子さん、からかってると面白いんで少しからかっただけです。」
「なんかだんだん遠慮ってもんがなくなってきたよね、あんた。」
「でも、本当にこんな風に彼氏にからかわれたらどうするつもりですか?まさか、こんな風に食って掛かる気じゃないですよね?」
「うっ...」
確かに。孝介さんにこんなふうにからかわれたら、どうしよっかな。
今みたいに答えるわけにもいかないし、普通に戸惑っちゃうかも...
ま、そこは帰ったらアーミッツと相談だね。
「それにしても、明日にはすでにデートって、どんだけ忙しいんですか。」
「しょ、しょうがないじゃない。いきなり別の部署の仕事回されちゃったし。」
こればっかりはあの禿げている部長が悪いんだ。あの禿のせいだ。
...隣を禿げた人が通って行った。めっちゃびっくりしたんだけど。
「で、今回見に行く映画はどんな映画なんですか?」
「...決めてなかった。」
「ええっ!?いや普通にダメでしょうそれは。なんかいい映画を見繕ってください。」
「そんなこと言ったって、彼が見たいのがどんな映画かわからないし...どんなのがいいんだろ。」
「今回デートでいくんだから、恋愛系の映画を見た方が話が弾みやすくていいと思いますけど...っていうか、本当にどのジャンル見るかとかすら決めてなかったんですね。」
「だって、ねぇ。」
結局、映画館で唸っているうちに時間は過ぎていく。
「ほら、さっさと[恋愛映画 50選]とかってネットで調べて、見るものを決めましょう!そうしないと、間違いなくできませんから。」
「ねぇ、だんだん扱いがひどくなってない?」
「気のせいですって。それより、[美女と野獣]なんかがいいんじゃないですか?」
「おお、有名どころだねぇ。よし、それでいこう!」
よし、チケットを買って...
「次の上演は、11:45分からになりまーす。これから[美女と野獣]をみられる方は、11:45分のチケットを販売していまーす。」
...そ、そんなバカなことが起きるわけ
「翔子さん、最初の九時からの上演、もう始まってますからね。考えるのに時間使いすぎて間に合わなかったんですからね。今度は前売り券勝っといてください!」
「ホ、ホントすみません。」
やばいな。明日やっちゃいけない奴だ、これ。
で、これからどうしよう。
「こっから行けるところってなると、相当に限られてきちゃいますよ。」
そうなんだよね。でも、こういう系統の事故が必ず起きらないなんて限らないし、どうやったらカバーできるかな。
...やばい、何にも思いつかない。
「なにか、このへんにしかないものないんですか?」
なんか有るかな?...なにか、なにかないのか!
...あ、思いついた!
「ねぇ、ちょっと行ってみたいところがあるんだけど。」
「へぇ。近くにある湖とは考えましたね。」
「そうでしょ。ここの湖は水質がいいし、今はまだちょっと寒いけど行くときは初夏、問題はないでしょ。」
まぁ、代替案だけど、悪くはないと思う。
っていうか、この湖は割と有名だけど、すっごいナチュラルに忘れてた。
「あそこら辺のベンチに座らない?」
「いいですねぇ。」
二人して、大して広くないベンチに座る。...なんか、恋人やってます、って感じがあっていいな。
「ねぇ、翔子さん。地球の恋愛はどんなふうに行われるのですか?」
「うーん、どんなって言ってもなかなか説明しにくいなぁ...
逆に、そっちの星ではどんなふうに恋愛をするの?こっちとは違うの?」
「こっちとは違うのかどうかっていうのを聞くために質問したんですけどね。
僕たちの恋愛は、たいてい機械によってお見合いします。」
「え、それどういうこと?」
「国民的にこちらで言う[出会い系サイト]のようなものが流行っていて、若者から老人まで多くが機械を通して相手について知ります。
こっちは戸籍などを通して真実の紹介を年一回されているので、地球の物よりよほど安全なんですよ。そして、相手と顔を合わせてみてもいいな、って思ったら相手に連絡を取ることが出来ます。
そこからは恋人らしくデートとか花を送ったりして結婚って流れです。」
「それは...」
まるで、地球の平安時代みたい。まぁ、その時代に二人を引き合わせてたのは二人の両親のわけだけど。
「それって、ちょっとさみしくない?機械に全部を支配されちゃうわけでしょ?自由な恋愛はできなくなっちゃうじゃん。」
「むしろ私たちはそれが当たり前だと教えられてきたので、それ以外の恋愛の仕方を知らないんですけどね。さて、改めて聞きます。地球ではどんなふうに恋愛をするんですか?」
どう、なんだろね。
アーミッツの世界とは全然違うし、国によっても結構違う。
「私たちの恋愛にはいろんな形があるの。
一つ目は、同じ学校や同じクラス、または会社でかかわりがある人と話していって、仲良くなってそのまま恋に落ちるっていうタイプ。この場合は、二人とも合意の上で進むから相思相愛ならまさしくロマンチックな恋なんだけど、どっちかがもう片方に愛想を尽かしたら別れちゃうこともあるから要注意、かな。」
なーンて言って、私だって恋愛をそんなにしたことがあるわけじゃないけどさ。それでも、何回か心が折れて、あるいは舞い上がってきた経験が私にはある。
それにしても、ロマンチックのある恋ってなかなか響きがいいな。
「二つ目は、お金のかわりに恋愛をやってたらいつの間にか引き下がれない一線まで来ちゃった、っていうタイプ。幸せになることもあるけど、私の周りの人の中ではバカなことにだれか分かったもんじゃない人の子供は孕んじゃって、いまさら引き下がれるか!って感じになっちゃった子もいるから、普通に不幸せになることの方が多いかな。アーミッツの言ってた出会い系サイトとかが禁止されている理由の一つかな。」
そう、お金をもらってた連中はロクな人生を歩まない、っていう事を私は学んだんだ。
「へぇぇ、意外ですね。そんなの、引き下がれない一線まで行く前にやめちゃえばいいのに。」
「それが出来てたら誰もこんなことにならないと思うよ。」
誰だって、たとえ世間からは絶好調と呼ばれるような恋をしてる人たちであっても恋の悩みを抱えている。
それの箍が一度外れてしまえば...あとは破滅待つのみ、って感じになってしまう。
「二つで終わりですか?」
「ちょーっと微妙だけど、現実でも起こりうるしまぁいいでしょう。
三つ目は、ロマンチック恋愛型。たとえばおんなじ本に両方が同じタイミングで手を伸ばそうとしてぶつかったりとか、二人が交差点でぶつかって...とか?」
正直言って、そんなマンガみたいなことがほんとに起きるのかはどうかは分からないけど。
ただ、怒るかもしれないしいいんじゃね?みたいな。
「こちらとそちらでは、恋愛観すらも違うんですね。」
「そうだね。全然違う。」
「...」
「?どうしたの、アーミッツ。急に黙りこくって、なにかいまわたしまずいこといった?」
「...いいえ、何も。」
「そ、そう?」
なんか、最近アーミッツが変なんだよね。返事が上の空だったり、ぼぉーっとしてたり。やっぱり地球の環境に慣れてないのかな?
そうだ!もっとアーミッツについて聞けばなんかわかるかもしれない!
「ねぇ、アーミッツの星ってどんな感じなの?」
「地球より進んでいるところもあれば、地球よりも遅れているところもあるような星です。」
うーん、どういうことだろ?
なんか哲学的な答えが返ってきた。なんて答えればいいかわからないんだけど...
「じゃあ、まず地球より進んでいるところからお話ししますね。
まず、すでに翔子さんに見せたような楽器を遠くから鳴らしたり、空間をゆがめてテレポートのようなものをできる技術が存在しています。さらに、寿命を薬の投与で伸ばす技術なども発達しています。」
おお!今の地球からすると、まさしく夢の技術!そういう技術にあこがれた人も多いと思うけど、まさか実現されてるなんて。
「それから、人間ではない種族も多いです。むしろ僕は割と人間に近い種族として生まれましたが、むこうは全然違う種族の方が多いくらいです。」
マジか!普通にラノベにでもありそうな展開じゃないですか!
っていうか、星が違うってこんなにロマンがあることなんだね。文化違いすぎでしょ。
「で、遅れてる点っていうのは?」
「私の星は、現在星の表面積の96パーセントを海に覆われています。」
聞いた瞬間に、あーミットがすごく悲しそうな顔をした。
...聞かなきゃよかったな。
「その原因の八割は人間によって行われた強引な開発が原因です。残り二割は星の重力が強いので温室効果ガスをとどめやすいってこともあるのですが...
おまけに、科学者たちは何とか自分の研究を認めてほしいがためにひたすらテレポートに没頭しました。最初の一つはうまくいったのですか、そのあとなかなか成功しなくて、ようやく成功したころには多くの国々が海にのまれた後でした。
それでも科学者たちはそれらのことを認めたくなくて、材料の提供を理由をつけては拒んで、その結果対策は大幅に遅れました。その間に負のスパイラルは取り返しのつかないレベルになってしまって、そのミスに気付いたころには私たちの星は手遅れでした。
そこが、私たちの星が精神的に遅れているといった理由です。」
アーミッツが、腹の底から絞り出すように、あるいは激情をたたきつけるように言う。こんなアーミッツは初めて見た。
...でも、それはもしかしたら地球の未来かもしれない。まだ、手遅れじゃないことを願ってるけど、もう手遅れかもしれない。
そんなこと、普段は考えないのにね。ちょっと感傷的になってるのかもしれない。
「さて、翔子さん。もうすぐ昼の時間帯ですよ。これからどうするんですか?」
「えっ!?」
ホントだ!いつの間にこんなに時間がたってたんだろう。
「とりあえず、明日も行く予定のカフェに行きましょう。」
「あのー、そこってどれぐらい時間がかかるんですか?」
「えーっと、映画館から20分くらい?」
「だとしてら、その間会話をどうやって持たせるつもりですか?」
「...考えてなかった。」
「...もうちょっと考えてからデートに臨みましょうよ。それで失敗したら目も当てられませんよ?」
やばい。アーミッツに呆れられてしまった...ほんとにどうにかしなきゃね。
「とりあえず、音楽をかけよう。」
「それはいい案だと思います。とりあえず音楽をかけてみましょう。[いきものがかり]とかあるとベストですね。」
「おお、それならあるよ!」
やったね、それならある。これで何とかなるね。
「とりあえず、そのカフェに向かってみましょう。」
結局、これだけ騒いでおいてカフェには普通につけた。
「なかなかいい雰囲気のカフェですね。映画を見た後の体をほぐすにもよさそうです。」
「でしょう?結構頑張って探したんだから。」
ここは見はらしもよくて、カップルのデートの人気スポットとしても有名なんだそう。
確かに高台の上にある関係で、かなり長めがいいね。
「で、何頼むとかは決まってるんですか?」
「そこはあえて決めないでいこうかなって。ほら、あんまり細部まで決めすぎると行動の自由度がなくなるじゃん?」
勿論、ただ単に考えていなかっただけではある。
でも、でもね、言い訳をさせてもらうと今さっきのいいわけにも真実が含まれていて、あんまり決めすぎると孝介さんが大変かな、って...
...はい、決めてない私がわろうござんした。
「で、ここでさっき見た美女と野獣について話すわけですね。」
「なるほどなるほど。」
なるべく明日デートすることをイメージして動く。明日は孝介さんと一緒、明日は孝介さんと一緒、明日は孝介さんと一緒!
「さて、そろそろ注文しましょう。」
「うーん、じゃあきょうはワッフルにしようかな。あんまり金に執着してるように見えてもあれだし、ちょっと奮発しちゃお。」
「いいとおもいますけど、絶対に汚したりしちゃあだめですよ。ダサいですからね。後、お金は十分な額を持つようにしてください。」
いや、そこは言われなくても気を付けるから大丈夫なんだけど...ま、忠告はありがたく受け取っとくかな。
「あと、当たり前ですけどちゃんとおごるようにしてくださいよ。」
「勿論、相手が払おうとしてきても。」
「割り勘しようと言ってきても。」
「たとえ十分の一でもいいから払おうとしてくれても。」
「「絶対に拒むべし!」」
決まった!なんか訳わからないけど、あーミットとものすごくいきぴったりだった!
...よく考えたら、ここカフェだった。
周りの視線が一斉に私たちの方向いてるよ。うう、気まずいなぁ。
「ねえ、アーミッツ、食べたらすぐにここを出よう。」
「え、なんでですか?もうちょっとゆっくりしていきましょうよ。ここ、いい感じですよ。」
鈍っ...!
なんでこの雰囲気の中平気でいられるんだろう。これが星ひとつ分の違いなのかな...?
「ちょっと、これ以上はマジで私のメンタルが耐え切れない。早く食べちゃって!」
「よくわかりませんが...そんなに言うんだったら仕方ありませんね。」
結構無理やりにでもアーミッツを連れ出さないと本格的にヤバかったので、私は逃げる!
「はぁ、やばかった。」
おもに精神が。
「何の話ですか?っていうかパンケーキもうちょっと食べたかったです。」
おい、メンタルが強すぎるって。なんであの環境の中で平気でいられるんだろう?
私としてはあそこにこれ以上いるのはもう無理だったんだけど...
「それよりも、もうショッピングに行かない?そこら辺の予行演習の方が私的には大事だと思うんだけど。」
「確かにそれもそうですね。それじゃあショッピングにでも行きましょうか。」
チョロいな。
「どんなお店を回る、とかは決めてあるんですか?」
「それが、実はまだなんだよ。何せ男性が見て回りたいお店って、どんなものがあるのかわからなくて。」
「そうですね、僕が言っても地球基準だと違うかもしれませんし...とりあえず、いろいろなところを回ってみたらどうですか?」
「そうだね、多分そうしないとどうしようもない気がする。」
という訳で、いろいろな場所を回ってみることにした。
古本屋
「なかなかいい本がそろってるもんなんだね。」
私はあまり読書が好きな方ではないが、嫌いな方でも別にない。なんか面白そうな本がたくさんあるし、意外と楽しいかも。
「へぇぇ、この建物は...いいですね!」
アーミッツは本が大好きなので、めっちゃ食いついてた。いやいや、今回の目的はデートを成功させることだからね?
「でも、こういう本とか普通に良くないですか?」
「あ、ほんとだ。二人でこういうのを買いに来るのもいいね。」
「その本、ここで買ってくかい?」
「アーミッツ、ここで買っちゃだめだからね。少なくとも私は金を出さないからね。」
「...悲しいです。」
初ボーン、見たいな擬音がアーミッツの背後に見えるよ。うう...。
お菓子屋
「うん、おいしい!」
「さっきカフェで結構食べたのに、ちょっと食べすぎじゃないですか?」
「だっておいしいし、チーズタルトを食べてしまったとしてもそれはしょうがないと思うんだよ。きっとそれが今の私の定めなんだよ、うん。」
「いや、そんな定めないですから。さっさと食べ終わって、ほかの場所に行きましょうよ。」
だって、普通にチーズタルトは存在自体が罪だと思うんだ。菓子屋に売ってあってチーズタルトを食べないという境地に達するのは並大抵のことじゃないと思う。
というわけで
「店員さん、今度はチョコタルトをお願いしま...痛っ!いきなり何をするの!」
「だから、ここにあまり長居しすぎるとホントにろくなことになりませんから。時間は大して残ってないんですからね。」
「それは普通にアーミッツが古本屋に長居しすぎただけじゃ
「とにかく!行きますよ。」
かなり強引にごまかされたね。まあ、しょうがないか。
これ以上は本気でアーミッツがキレそうだし、まじめにほかのところ行くとしますかね。あー、おいしかった。
衣服屋
「ねぇ、どうしようアーミッツ。私、彼のサイズを全く知らないんだけど。」
「本当に準備不足も甚だしい状況で来たんですね...明日がかなり不安なんですけど、果たしてこんな状態で大丈夫なんでしょうかね。」
「でも真面目にどんなサイズ分かったらいいかわからないんだけど。こういう場合はどうすればいいんだろ?どうしようもないのかな?」
「とりあえず、受付に行ってみたらどうですか?」
そうだね。とりあえずアーミッツが言うとおりにしてみよっかな。
大丈夫、勇気をもって
「May I help you?」
「あ、場所を間違えました。すみませんでしたぁぁ!」
やばいやばいやばい、外国人専用受付に行っちゃったよ。普通に英語で尋ねられたからめっちゃビビったよ。
「相変わらず翔子さんは面白いですね。」
「うるさい、そんなこと言ってる余裕はこっちには全くないんだから!全くもう!」
普通に考えて外国人用受付とかあると思う?絶対ないでしょ、普通。
「お探し物ですか?」
「そうなんですけど...いかんせん彼のサイズとかウエストサイズとか全く分からなくて、どうしようか途方に暮れていたんです。」
「あるいは準備不足とも言います。」
アーミッツ、余計なこと言いやがって!
「お相手のだいたいの身長、肩幅、体重がわかれば算出することはできますよ。」
やった!ぎりぎりセーフ!
「大体Lサイズですね。割と男性としては平均的な方だと思います。」
「ありがとうございます!それで、男性物売り場はどこにありますか...?」
「じゃあ案内しますね。」
めっちゃ丁寧じゃん!
っていうか、普通に日本の店員は世界的にはトップクラスの丁寧さを誇ってると思うんだよね。やっぱり、日本人はもっと自分達をアピールしていかないと。
「で、どんな服を送るつもりなんですか?」
「えーっと、彼は一応単色とか二色とかのシンプルな服が好きなんだけど...そういう服が多いなら、むしろカラフルなのを買ってあげるのがいいのかな?」
「ええ~、ここにきて悩むんですか?先に決めといてくださいよ...」
「悪かったね、決めてなくて。
今まで男性に衣服の贈り物なんてしたことがなかったから、どこで売ってるかとか何が喜ばれるかとか全く分かんないんだよ。」
さっきの店員さんはもう受付に戻っちゃったか。残念、まだいてくれたら相談したかったんだけどなぁ。まぁ、いないもんはしょうがないか。
「こういう感じの服ならどうかな?」
「いいんじゃないんですか?それよりさっさと行きましょうよ。もう飽きましたし。」
アーミッツがめっちゃ飽きてるんだけど。
しょうがない、そろそろ公園にでも行くかな。...正直、もうちょっと服を見ておきたかったけど。
「早く次に行きましょう。」
せっかちだなぁ。
公園
「うわぁぁぁ、きれいですね!」
「ホントだ、これは早めに来て良かったかもしれない。ありがとう、アーミッツ!」
私たちの前に広がっていたのは、きれいな夕日の景色。少し小さめの池に夕日の光が反射して、きれいな景色を作り出している。
「できればこの景色を明日も見たいね。」
「そうですね。こんな景色を見られたら、幸せなんでしょうか。」
そういったアーミッツの横顔が、なんかどことなく悲しみをたたえて見えて。
「どうしたの?アーミッツ。なんか悪いところでもあるの?」
「いいえなんにも。」
でも、アーミッツのそんな表情はすぐに消えて行って、悲しげな表用につながるような表情もあっという間にアーミッツの顔からは消え去って。
...何、だったんだろうか。もしかして、何かの気のせいだったんだろうか。
「さて、そろそろ夕食ででも食べに行きませんか?おなかが減りました。」
「そうだね。そろそろ6時か。いいぐらいの時間なんじゃない?」
だから、あえて自分の気持ちを振り払うように、私は夕食のためにイタリアンレストランに行くための準備を始めて。
そんな後姿をじっと見つめているアーミッツにも気づかずに...
「予約は何人様でしょうか。」
「2人です。」
「お名前は?」
「高須です。高須 翔子。」
「それでは、こちらの席でお待ちください。」
それっきり、会話という会話がなくなる。
アーミッツは話しかけてこないし、私もなかなか話しかけられない。
短いようで、長くて、一瞬のようで永遠の時間がかかって
「ご注文は決まりましたか?」
「肉厚ベーコンの濃厚カルボナーラで。」
「トマトのバジルソース添えピッツァで。」
それで、また会話は何もなくなってしまう。お互い、喋る言葉は最小限。相手にかける言葉もなくて、ただ単に静かな時間ばっかりが過ぎていく。
イタリアン料理はおいしくて、ただそれだけで。
会話も何もない料理はただ単に栄養摂取だけでしかなくて。
お互いに全てを分かってるようで、なんも分かってなくて。
そんなもどかしい時間だけが刻々と過ぎて行って、そして家に帰ってくる。
「ごめんなさい、アーミッツ。私、こんな状態になってもどうしようもなくて。」
「いいや、違うんだ翔子さん。悪いのは、全部全部僕なんだ。分かってて、どうしようもないんだ。」
「本当に、本当にごめんなさい。今日は、多分どうしようもできないだろうから、私は寝ます。早めに寝てね。」
そしてそこにはアーミッツだけが一人、ポツンと残されて。
そして次の朝、アーミッツはいなかった。
幕間2:アーミッツの心
さて、ようやく僕の番ですね。
翔子さんは、もしかしたら僕の気持ちに気づいているのかもしれません。でも多分、気付いていないんです。彼女は僕をただのエイリアンとしてしか見てないだろうし、ましてや彼氏さんまでいるのに僕の事を好きだとは思わないでしょう。
それでも。
「最後に一言、好きだって伝えたかったな。」
もともと、今回の地球遠征は、偵察ぐらいの意味しかないし。それでも髪を引かれる思い(果たしてこれであってるのかわからないけど。地球の言語は全く難しくていけない。)がするのは、翔子さんのことがあるからだろうか。
「いいや、僕は戻らなきゃいけない。これは使命なんだから。数少ない同胞を救うための使命なんだから。僕は、何としてももどんなきゃいけないんだから。」
そう思っても、どうしても心も足も公園の方に向かない。
「...明日、翔子さんは今日みたいに彼氏さんとデートして、あんな楽しそうに笑って、幸せそうに家に帰ってきて、幸せな夢を見るんでしょうか。
心から何かを楽しめているかのような、あの純粋な笑顔で、曇ることなく明日を見続けるのでしょうか。」
僕は。
心の底から、自分の存在意義の全てを吹き飛ばすかのように
「明日、僕の気持なんかまるで知らないかのようなあの笑顔を、彼氏さんに向けるんでしょう!
そしてここで星のためなんて言って逃げ出す僕には、翔子さんの、彼女の隣にいる価値はないんでしょう!
それでも...それでも僕は!僕は!恋がしたかったんだ!」
叫んでいた。
でも、これさえも、この気持ちさえも何一つ翔子さんには届いてなくて。
無相応、だったんだろうな。
「...帰る準備を、しなくちゃ。」
アーミッツの気持ちを移すように、空には雲がかかっていた。