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2話「他人」

その日は滝のような雨が降った。

いつもは自転車で登下校しているのだが、仕方がないので電車を利用した。

入学してから今日まで気にも留めなかったが、雨が降ったことは一度もなかった。

少し憂鬱になりながら切符を購入し、適当にスマホをいじりながら時間を潰す。

そこまでは、特に何の変哲も無い日でしかなかった。


時刻を確認すると、後5分で電車が来るらしい。

混んでいるであろう車内を想像して苦い気分を味わっていると、隣にいたくたびれたスーツ姿の女がいきなり靴を脱ぎ出した。

俺はその奇妙な行動に驚いていたのだが、周りを見渡しても特に誰も気にしている様子はない。

女の表情は切羽詰まっており、何だか嫌な予感がして仕方がない。

一体何がしたいのかとぼんやり考えていると、不意に一つの言葉が頭に浮かんできた。

自殺。そうか、この女は今ここで自殺しようとしているのか。

俺も人生というものに退屈しており、決して何か希望を持って生きているわけでもない。

しかし、自殺というものを考えたことは一度もなかった。

どうする。俺の思い違いという可能性もある。

しかし、女は今にも飛び込みそうな雰囲気である。

そもそも、死ぬ覚悟を決めた人間を他人が(みだ)りに引き留めていいものなのか。

いやしかし、目の前で死なれるのはとても寝覚めが悪い。

ここで体を押さえ込んでみるか。

しかし、最近ニュースでよく痴漢冤罪の話を耳にする。

理由はともかく、他人の目には俺が彼女を襲っているようにしか見えないだろう。

自分が罪に問われるのも避けたい。

再び時刻を確認すると、残り2分しかない。

どうする。俺は人生で経験したことがないくらい焦っていた。

死、というものに直面したことなど一度もなかった。

思考を加速させ、ぐちゃぐちゃの脳内を何とか整理しようとする。

仮に、自分が女の立場なら、どうすれば死を思い留まる。

結局何の解決策も浮かばないまま、駅のホームには電車の到着を知らせる放送が流れた。

耳に電車の轟音が入ってきた瞬間に、俺は、無意識に、彼女の手を握っていた。

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