第十話:カティア=フィロワ
悠達の視界の端で、小さな影が起き上がる。
あまりにも『生』を感じさせない声にすわ新たな魔物かと気を引き締める悠だったが──そこにいたのは、当然魔物ではない。
声の主は、先程悠に剣を投げてよこした、シスター風の少女であった。
「ここは、どこだ……? い、いや……それよりも……」
もはや立ち上がる気力もないのだろう、少女は赤ん坊が寄るようにして、悠達の──肉の元へと近づいてくる。
やはりその様はゾンビが近づいてくるようだったが、悠とクララは少女を見守っていた。
「にく……! す、すまない……不躾な願いなのはわかっているが……その肉を、私にも分けてはもらえないだろうか……?」
やがて少女は悠の隣までやってくると、そう懇願した。
言うとおり、少女はその願いをすることを躊躇っているようだった。それでも空腹の限界で倒れた少女に後はなく、なりふり構ってはいられないようだった。
悠は少女の願いを聞いてから、クララと見つめ合うと、力強く頷いた。
「食ってくれ! あんたには、その権利がある」
箸で肉をつかみ、手を添えてもはや余力のない少女の口元へと運ぶ。
「ああ……恩に着る……っ!」
逡巡は一瞬、迷いはその香りを間近で嗅いだ瞬間に吹っ飛んだ。
雛鳥のように少女は悠の運んだ肉を一口にする。
「……っ! ……!」
死さえも間近に控えたその少女に、ディアルクの焼肉はもはやこの世の理を越えた真理さえも感じさせた。
いっそ悶絶でもするように、少女は言葉を失った。
幼い顔立ちの、閉じられた瞼の端に涙が滲んでくる。
味が、栄養が、魔力が、全てが枯渇していた少女の身を癒やしていく。
「っくん……! はあっ……なんて、美味いんだ……!」
肉を呑み下し、少女は目を見開いた。地獄から天国だ。死を目前にした空腹から、最高級の肉を味わうという経験は、中々出来まい。
だからこそ、少女もまたその恍惚に抗えない。それでも彼女はその凛とした心を持って、餓死寸前にディアルクの肉を味わったとは思えないほどのスピードで正気を取り戻す。
「あ……! その、すまないっ! みっともない所を見せた……!」
たった一口だったが、その身に含まれる魔力は少女の力に動けるだけの活力を与えた。
土下座するような勢いで頭を下げる少女に、悠もクララもついていけない。
「命の恩人に、食べ物を強請るという無粋! 騎士としてあるまじき姿を、許してほしい!」
「ちょ……頭を上げてくれ!」
深々とした謝罪を繰り広げる少女に慌てながらも、悠はとりあえず頭を上げさせる。
幼い少女の瞳は、その幼さには不釣り合いな強い光を宿していた。
「助けられたのは俺達の方だよ。君の剣がなければ、アイツは倒せなかった。ありがとう」
「なんと……! キミは器が広いんだな……!」
少女の口から紡がれるのは、可愛らしい外見からは想像出来ない、堅苦しい言葉だった。
そのギャップに調子を狂わされつつも、悠はなんとか会話を続ける。
「あー……そうだな、メシでも食べながら、自己紹介しないか?」
「っ! 私も、これを食べていいのか?」
「ああ、十分その権利はあるよ。肉はたくさんあるし、遠慮なく食ってくれ!」
「キミ達は立派な人だな……これほどの食料を惜しげもなく与えてくれて、感謝する」
いちいち大げさな少女の言葉に、悠は苦笑した。
だが、本当のところは少女の言うとおりだ。山の中という環境の中で、食糧を調達するのは実は難しい。
毒のないものを見分けるだけでも大変だし、それに実食に耐えうる味か、労力に見合うだけの量や栄養を持っているか……などを考えたら、手持ちゼロの状態から満腹になるというのは、困難を極めるだろう。
食糧の調達に関しては、悠はその能力のおかげで超一流だと言えた。そこに、山の主を倒す力さえ兼ね備えたとなれば──この山において、悠が食に困ることはもうないだろう。
悠はその事に気がつかない。クララからの礼も、少女からの感服も、どちらも大げさだなという程度にしか考えていないのだ。
だからこそ、こうして美味しいモノを分かち合うという事もできるのだろう。それは、上総悠という人間の美徳だった。
「美味い……美味い……! ありがとう、何度感謝しても足りないぞ……!」
その後、彼らは大いに食べ、楽しんだ。結局、食べることに夢中になって自己紹介ができなかったのは、ご愛嬌と言ったところだろう。
◆
一通りの肉を平らげた悠達は、満腹から来る倦怠感に頬を緩めていた。
山の中で食べる最高級の肉という非日常に、悠達は大満足だ。
「ふうー……まさか山の中でこれほどの料理にありつけるとは……キミは、天才だな」
「はは……まあ、切ってから塩で揉んで、焼いただけなんだけどな」
「謙遜するな。塩加減は絶妙、焼き加減はジャスト。これほどの肉料理を出す店はそうそうないぞ。一口サイズを焼きながら食べるという発想もいい。キミはもっと誇るべきだ」
「そうだよ! 色々な部位を焼きながら食べるのって、違いがよくわかって飽きないし、楽しいよ!」
また、焼肉というのも少女達にとっては珍しい発想だったらしい。
悠としてはポピュラーな料理を作っただけなので、こうも褒めちぎられるのは面映いのだが、それでも可愛らしい少女達に褒められるのは悪い気はしなかった。
「さて……自己紹介が大分遅れてしまったことを許してほしい。私の名前はカティア=フィロワという。モイラスで神殿騎士を努めている者だ」
食事が一段落すると、悠達よりも一際幼い少女が胸に手をあて、自己紹介を行う。
モイラス、神殿騎士。聞きなれない言葉が、悠を混乱させる。
「騎士さま!? え、と、その……」
頭を抱えてふらつく悠だが、それよりも大きな反応を見せたのはクララの方であった。
騎士という言葉に驚いている以上は、カティアは大層な存在なのかもしれない。腹を好かせて死にかけていたというなんともいえない出会いもあり、この世界の住人ではない悠にはイマイチ現実感の薄い光景だ。
「いや、身分は気にしないでくれ。私にとってキミ達は命の恩人、今まで通りに接してくれた方がありがたい」
ただ、クララとカティアを見ていると、悠にも『神殿騎士』がどの様に扱われる存在かわかってくる。
そっとクララに目を移すと、クララは一瞬だけ迷ってから、悠に向けて語りだす。
「神殿騎士って言うのはね、神様に仕えて、各地で人助けをしてる人達のことだよ。助けられた人達がとても多くて、信頼を集めてるの」
「目の前でそう言ってもらえると嬉しいよ。しかし神殿騎士を知らないとは珍しいな」
クララの説明を肯定するカティアから逆に向けられた質問に、悠は一瞬どう答えたものか迷った。
それを適切に伝える方法が分からなかったし、神に仕えているという説明に、明らかな『異端』である事を伝えていいか迷ったからだ。
「あー……この辺からすると凄い田舎の出なんだ。服装見ても、なんとなく判るだろ?」
「確かに独特の服装だな。だが気にしないでいい。無遠慮な詮索はしないさ」
悠に何かしらの事情がある、というのは今のやり取りだけでわかったようだ。悠は心中で胸をなでおろす。
そんな悠を見てクララも安堵の息を吐く。しかし彼女にはもう一つ気になる点があった。
「えっと……カティア、って呼んでいいかな? あと、聞きたいことがあるんだけど……」
「ああ、歓迎するよ。まだ名前も聞いていないが、キミ達の事は友だと思っている。それで、聞きたいことというのは?」
呼び名に関する質問にカティアが返したのは好感触だった。実直な喋り方からも分かる通り、カティアは嘘を嫌う。悠達を友人だと思っているというのも、本当だった。
だがクララが本当に問いたいのは、もう一つの質問の方であった。
「その……失礼な質問だったらごめんね。カティアって、何歳……?」
それは、カティアの年齢を問うモノだった。
何故遠慮がちにその問いが投げかけられるのか、悠にはわからなかった。確かにカティアは幼い見た目をしているし、一人で山にいると言うのは相応しくなく感じる。だが、今敢えて年齢を聞く必要があるのかと言えば、そこまで疑問に思うことでもない気がした。
「……と、歳か」
しかし、悠の考えとは裏腹にカティアは固まった。
本当に聞かれたくないことを聞かれたかのように。
「歳がどうかしたのか?」
悠は素直にクララへと問いかける。見るにカティアは年齢を気にするような見た目でもなく、その外見は一言で言い表すと『幼い』と形容できる。二十代三十代に見える女性に対しての問いかけならばともかく、別段躊躇うような質問でもないと思ったからだ。
だが積極的に力を借りられることにクララは気を良くしつつも、悠に疑問の出処を話すことを躊躇った。悩ん末、クララは敢えて、悠に答えを渡すことにした。
「あのね、神殿騎士って十八歳以上じゃないとなれないの」
迷いの果てにクララの告げた答えは、悠を驚愕させるに十分値するものだった。
「じゅ……十八!?」
思わず、悠は声を荒らげる。
何故ならカティアは、どう見ても十二、三才。見方によってはもっと幼く見えてもおかしくないほどに幼く見えたからだ。
だとするならば、飛び級かなにかだろうか? 悠は慌ててカティアの方へと振り返ると、そこにあったのは絶望のような、諦観のような哀愁ある表情であった。
「……フフ、驚くよな……そう、神殿騎士は十八歳以上じゃないとなれない。私はな……これでも十九歳なんだよ。だというのに、みんな私が神殿騎士だというと驚くんだ……っ」
カティアの瞳からは、騎士らしい凛とした目の光は失われていた。いじいじと地面に指を添わせ、何かを描く様は考えるまでもなく不貞腐れて居るのが見て取れる。
幼い外見は、カティアのコンプレックスだったのだ。この喋り方も外見でなめられないよう、騎士らしくある事を意識して定着させたものだった。
「あ、わ、悪い……!」
「いいさ、いいとも。年齢に対して幼く見えることはよくわかっている。……そりゃあ、同僚にもナメられるだろうさ……」
明らかに変なスイッチが入ったカティア。悠とクララは、ただ慌てふためくことしか出来ないのだった。
◆
「……成る程、ユウにクララだな。ありがとう、ようやく命の恩人の名前を知ることが出来た」
たっぷりと時間をかけて二人が自己紹介を終えるくらいの頃には、カティアはすっかりと元の調子を取り戻していた。
柔和な微笑みを浮かべ、落ち着いた口調で礼を述べる。騎士然とした態度を『素』に持つ少女を見て、悠はまたここが異世界だという実感を覚える。
そうしているのが見た目幼い少女──実際には年上──だというのも拍車をかけていた。実年齢よりも若く見られる人はいくらでもいるが、ここまで実際の年齢と外見が離れている人というのは中々いない。
だが、その態度や実直なカティアの様子を見れば、彼女が述べた年齢も嘘ではないと伝わってくるだろう。
「しかしまあ、なんだってこんな山の中に一人でいたんだ? 俺達も人のことを言えたもんじゃあないけどさ」
普通に考えれば、山の中に一人で遭難している少女というのもおかしな話だ。直ぐ側にそのおかしな例が居ることは軽く流しつつ、悠はカティアに気になっていたことを訪ねた。
「……そうだな。恩人のキミ達にならば話しても構うまい。全く関係のない話でもないかもしれないからな。実は騎士団より命を受けているんだ。このあたりでとあるものを見かけたという情報が入ってきて、ここへはその調査を命じられて来た」
少しだけ考える素振りを見せてから、カティアは問い掛けに答える。
基本的に、少数に命じられる任務には秘匿性がある事が過ぎったからだ。しかし迷ったのも一瞬、それが命の恩人が欲している情報である事を考えれば、迷いは消えた。
「何を見かけたの?」
悠の疑問を引き継いだのはクララだった。
興味の感情で何気なく聞かれた対象に、またカティアは少しだけ悩んだ。
話すべきか否か。議題は先程と同じだが、悠達にそれを話すべきか迷った理由は、少し違かった。
「ドラゴン」
だが、カティアは答える。簡潔に、しかし重苦しく。
たった一つの単語を聞いただけで、悠とクララは息を詰まらせた。クララはその単語が何を示すかをよく知るがゆえに。この世界の事に詳しくはない悠でさえ、その単語だけはどれほど重大なモノかすぐさま理解することが出来てしまった。
カティアがそれを話すか迷ったのは、これだ。しばらくここに留まらなければならない悠達の不安を徒に煽ることを厭ったのである。
「……と、あまり不安に思わないでほしい。飽くまでも『らしきもの』をこの辺りで『見たかもしれない』という程度の話だ。調査と言うのもどちらかと言えば、いるというよりもいないという事を確認するという意味合いが大きい」
だからこそ、凍りつく二人に対してカティアは予め用意していた説明を付け加える。
あからさまに安堵の息を吐き出す悠達に微笑むカティア。
「ドラゴン、かあ。本当にいたらやっぱヤバいんだよな、それって」
カティアの言葉にひとまず安心して、悠は寝言の様に呟く。
ドラゴン。日本に住んでいてその単語を聞いたこともない者は殆ど居るまい。
幻想の中だけに住む存在の彼らは、悠の中にも様々な姿で存在している。時には姫を攫った怪物であったり、蘇ったかつての世界の支配者であったり──共通しているのは、いずれのドラゴンも圧倒的な存在だということだ。
「うん……もしドラゴンが見つかったりしたら大騒ぎだよ。多分、沢山の騎士さまがこの山に来ると思うよ」
「だろうな。極圏でもないこのあたりの討伐任務としては破格の扱いになる」
それはやはり、この世界でも同じことのようだ。
クララの反応を見るに、神殿騎士という存在は優秀だという事を悠は感じていた。その物々しい名前から悠は神殿騎士をばりばりの戦闘集団と認識していたし、事実神殿騎士はそのような存在だった。悠にその存在をイメージしやすく伝えるならば『現代で言う特殊部隊』くらいの喩えが近いだろう。
「とにかく、ドラゴンがいるとなれば大騒ぎになる。そうなる前に目撃情報の真偽を調査し、報告するのが私に与えられた任務だった。そうしてこの山に来たはいいのだが……遭難し、餓死寸前だったというわけさ」
情けない、と言葉を締めくくってから、カティアは口を真一文字に結んだ。
騎士としての戦闘能力には優れていたカティアだったが、この世界の基準で言えば彼女は『都会っ子』で、サバイバル能力はからきしだったというわけだ。
山の歩き方は知らない。向かってくる魔物を倒すことは出来るが、それが食べられるかわからない、どう食べればいいかわからない。
彼女もまた、何も知らない異界の地で彷徨う者の一人だったというわけだ。
「そういうワケがあったのか。それで、カティアはこの後どうするんだ?」
立場は違えど、自分の知らぬ場所で迷っていたカティアに親近感を覚えつつ、悠はついで程度にもう一つ質問を投げかけることにした。
「この後、か。……正直、遭難していて調査どころではなかったからな、もう少しだけこの山を調べる必要があるのだが……」
悠の問いは、カティアにとっては難しい質問だった。
まだ山の調査も進んではおらず、成果はない。調査は続けなければいけないのだが……
「また迷ってしまいそうだし、そもそも無事帰る手立ても……」
自嘲的にため息を吐き出して、カティアは肩をすくめる。
調査を再開しても、また遭難するのがオチだろう。
結局、どうしたら良いかわからない。目下、それがカティアの悩みとなっていた。
考えないようにしていた事が話題へと上り、カティアは苦々しく口を動かした。思い出せば、それは重圧となってカティアへとのしかかる。
生きるべきか死ぬべきか──そんな、重大な人生の岐路を選ぼうとしているかのようなカティア。
「じゃあ、しばらくこのキャンプに滞在しないか?」
そんなカティアに対して、悠はあっけらかんと口を開いた。
「え?」
「まだ山に留まるなら、拠点は必要だろ? ココにいれば多分、食糧で困ることはないぞ」
「しかし、これ以上世話になるというのも……」
食糧、という言葉にカティアは先程振る舞われた焼肉の事を思い出した。
自分が餓死寸前でも、悠は軽々と──ではなくとも、ご馳走を用意することが出来る。自分にない能力がここにはあるのだ。だが既にクララを養っている状態の悠により掛かることは、カティアの意地が許さなかった。
「俺達も、戦える人がいてくれれば助かる。剣を貸してもらえなきゃ、ディアルクにも勝てなかったろうし……魔物に襲われたって時に、協力してくれる人がいると心強い」
「う、むう……」
もちろん、助けるだけではなく助けてもらう。悠がそう付け加えたのは、キャンプに加わることに抵抗を感じるであろうカティアの真面目で実直な性格を考慮してのことだ。
「それに、出来る事があるならその任務に市民が協力する事があってもいいだろ? 普段いろんな人を守ってる神殿騎士だからこそ、さ」
悠は畳み掛ける様に、理屈を並べる。この世界に来てから日が浅い悠は、神殿騎士に守ってもらったことなどない。知られぬ内に守られている、ということさえない。
悠の言葉は狙い通り、カティアが感じていた抵抗感を薄れさせていた。
しかしそれは、カティアが悠に言いくるめられたからではない。むしろ逆だ。彼女がディアルクと戦っている悠を発見したのはもう勝負が決しようとしている所だったので、武器さえあれば悠がディアルクを──山の主とさえ言われる魔物を倒せる能力を持っている事を知っている。つまり、さらなる戦力は彼にとってそれほど重要ではないのだ。
カティアの意地が折れたのは、悠の器を見たからだ。
緊急時であれば食糧というのは重要だ、食糧を巡って殺し合いが起きるというのは、異世界の歴史でも珍しいことではない。
だというのに悠は当然のことの様に手を差し伸べ、苦労を背負い込むために説得までする。カティアが意地を張ることをやめたのは、悠の器の大きさに感服したからだ。
「……そういう事ならば、どうか頼む。暫くの間、私もキャンプに加えて貰いたい」
「ああ! こっちこそよろしくな!」
差し伸べられた手をとり、固く握手すると、カティアは照れくさそうに笑った。
神殿騎士の彼女にとっては、市民を守ることは当然のことだ。だからこそ、騎士でもない彼が当たり前のことのように誰かを守る事ができるのは、尊く感じられる。
「そうと決まった所で、さっさと寝るぞ。山の生活は早寝早起きってな。あ、そうだ。カティアは今日のところはそこの寝床を使ってくれ」
立てかけ小屋を指し示してから、悠はトイレへと立つ。
ぱちぱちと音を立てる焚き火の前に少女二人が残されると、ふとクララが笑い出す。
「ふふ、すごいよね、ユウって」
「そうだな」
たったそれだけの簡素な言葉の交換だったが、何がすごいか、をカティアは良くわかっていた。
「改めて、これからよろしくね、カティア」
「此方こそ、クララ」
名前を呼び合うと、二人は示し合わせたように笑った。
「おー、なんか早速仲良くなってるか?」
「えへへ、まあねー」
「そうだな」
少ししてから悠が戻ってくると、何も分からないでいる悠の様子に、二人はまた顔を合わせてから少し笑った。
三人共が遭難している最中という奇妙な身の上での出会いは、ひとまず命が確保されているという状況では不思議と面白おかしく感じられ、楽しそうな二人の様子に悠も釣られて笑うのであった。




