ワイズの冒険者生活の始まり
ワイズの冒険者生活が今、始まる!
1ヶ月の修行と聞いて何を思い浮かべる?
体力づくりとかも重要だと思ったが、ブルー曰く「魔術理論を覚えるほうが先かな」とのことだった。
想像を現実とする為には物理法則を超えない程度にマナを使用して実現させる。その為の修行をメインにするのだとか。
もっぱら座学と魔術の講義がほとんどの修行を1ヶ月ほど終えた後、
「うん、まあ、それだけできればいいんじゃないかな?」
という、『青の原初魔術師』ブルーから太鼓判をもらった。
なんでも、「基礎は教えたから後は応用だねー。ま、君ならマナの力押しで大抵の事はなんとかなるって!」といい加減な終了宣言ではあったのだが。
ともあれ、実力者がついてる状態でハイオーガやハイオークを倒す練習が出来たのは行幸だったと言える。一応、これらの魔物はB級やA級冒険者が相手をする魔物らしいので、これで冒険者としての活動を始めたら「C級とは思えない!」とか言われて注目の的になる事間違いなしである!
物語開始3話目にして既に人生はイージーモード間違いなしである。ブラック企業で働いてた身としてはこれから待ち受ける楽勝人生に胸が躍る。
「それじゃあ、今度基点の修復をお願いしたい場所があったら冒険者ギルド経由で手紙を出すよ」
そう言ったブルーと固い握手を交わした後、ブルーと別れてワイズは地方都市サハネの冒険者ギルドの門を叩いたのであった。
「それでは、此方の用紙に名前と冒険者として役立てる技術を記入してください
そう受付嬢に言われてワイズは意気揚々と名前を記入し技術欄に『魔法全般』と記入した。それを確認した受付嬢は自信満々な顔をしているワイズの事をちらりと見た後、新しく発券された冒険者登録証を渡してくれた。ランクはCである。ここでステータス確認とかあれば「なんということでしょう!」と驚かれたに違いないのに残念である。
「今日はもう昼過ぎなので依頼は少ないですが、見ていくとわかりやすいと思いますよ。説明はいります?」
「いえ、大丈夫です」
一応、冒険者としての依頼の受け方は想像している物と差異は無いらしく、これが受けたいと受付で言えば良いのである。他の人に先を越されない様に張り紙自体を剥がして持ってくる者もいるが、その辺は自由なのだろう。さて、冒険者として輝かしい第一歩を踏みしめる為に! 魔物を討伐する仕事は無いかな? と掲示板を見てみる。
『求む! 畑の収穫!』
『畑の草むしりをしてくれる方を募集』
『木材の切り出しの為に力自慢を募集!』
『女性限定! 新商品の売り子を募集! 面接有り』
『路上のゴミ拾いを募集! 資源ゴミ回収業者』
『畑の収穫をしてくれる方募集!』
『馬の世話が出来る方を募集!』
『排水溝のドブ掃除をしてくれる方募集!』
『工事の為に力仕事が出来る人募集』
C級冒険者の受けれる依頼に討伐依頼は1つも無かったのである。しかも拘束時間は1日である。
報酬は日給で平均銀貨6枚ほど。ちなみに銀貨1枚でレストランでお昼御飯が食べられるぐらいの価値である。ランチ1000円と考えればいいのか? 場所によっては500円ランチとかあったりするけどまさか銀貨は1枚500円なのか? おいおい、日給で3000円~6000円って。大学生時代に日雇いアルバイトした時は8000円はもらえたぞ!?
「あ、あの。討伐依頼とかって報酬幾ら位なんでしょうか?」
受付窓口に戻って聞いてみると、受付嬢は丁寧に説明してくれた。
「討伐する魔物によりますが、ゴブリン1体で銀貨1枚。オークが銀貨3枚。スライムは銅貨50枚ぐらいですね。各魔物の討伐証明になる素材を持って来てください。ゴブリンなら角、オークなら牙2本、スライムは核とか」
命懸けの討伐依頼の報酬レートが低すぎる。
ゴブリンと一口に言っても力は大人と同じぐらいあるし、オークなんてその辺の大人より力があるぞ。人間を攫う時に小脇に抱えて全力疾走とかできるような奴らだ。
「ちなみに、オーガとかになると幾らぐらいに?」
「そうですね、オーガの物と分かれば銀貨6枚ぐらいはしますけど、基本的に角の品質によりますね。それぞれの討伐証明になる部位はそのまま換金できる部位と言う意味合いなので、今まで述べたのはあくまで基本取引額です。そこから状態が悪ければ値段は下がりますし、状態が良ければ高くなったりします」
つまり、オークやオーガは魔物として強いから素材として使える部位に高めの値段がつくのか。
たしかブルーに教わったことを思い出すと、魔物は強ければ強いほど魔力やマナを溜め込む部位が発達するとか。ゴブリンやオーガと言った鬼種は額の角が立派であればあるほど保有する魔力やマナの純度が良かったり量が多かったりするらしい。それがそのまま買い取り額に影響するということか。
というか、大人1人相当の相手を倒して――――というか討伐して1500円~3000円かよ。
命の値段軽すぎるだろう。30ドル殺人を請け負うヒットマンとか出てくる映画見た事ねぇよ。
「C級冒険者でオーガの角を持ってきた場合、買い取ってもらえます?」
「買い取らないですね」
「何でです?」
こっそり魔物討伐に言って素材を集めて売り払ってしまおうかと思ったが、それは出来ないらしい。
「例えば、闇市で購入した物を「討伐してきました」とか言って持って来たり、外で拾った物を持って来たり、他の人から奪い取った物を持ってくる人もいたので」
「買い取ったはいいけど、後になって粗悪品だったり曰くつきだったり、強奪した物だとわかると問題になるからか」
「ええ、基本的に冒険者のランクはそのまま信用度だと思って下さい」
にっこりとほほ笑んだ受付嬢の笑顔がちょっと怖い。
もしかしてこれ、釘刺されたんじゃないのか?
「ちなみに、冒険者Cランクっていうのはどれほどで?」
「信用無し。街のごろつきレベルです」
にっこりとした笑顔のまま受付嬢のお姉さんにざっくりと切って捨てられてしまった。
「それに、ワイズさんのような年齢のいった方は元服役囚だったり奴隷だったり山賊だったり傭兵だったりした人が多いのでさらに信用度は低いですよ? できれば国で発行してる出生証明書や職業経歴書を持って来て頂けると口添えもできますが」
そんな物あるわけがない!
今から東京都に戻って区役所に駆け込めとでも言うのか!?
こちとら気づいたら異世界に召喚とか転移させられた根なし草だ!
「わ、わかりました」
「地道にがんばってくださいね。子供達もCランクからがんばってますので」
すごすごと引き下がったワイズに受付嬢のお姉さんの笑顔が痛い。
まるで「お前の考えてることはお見通しだこの犯罪者予備軍」と言われてるようで痛かった。
「ちなみに、ゴブリン退治は受けれますか?」
「Cランク冒険者でも受けれますが、詳細評価でC+を得てからにしないと買い取り拒否される可能性もあります。ワイズさんの場合はC-ですのでまずはそちらの日雇いから始めて頂くのをおすすめしますよ」
途中で振り返って聞いてみたが、ワイズに対して受付嬢のお姉さんの笑顔は鉄壁のまま「大人しく日雇いの仕事をしろ」と目で言われてしまった。背後に怒りマークとか燃える火炎とかが見えた気がしたので、ワイズはこれ以上言っても仕方が無いか、と諦めて『畑の雑草毟り』の仕事を手に受付へと戻ってきた。仕事は明日の朝早朝から始まるとの事だった。
どれもこれも体を使う仕事ばかりである。ブルーの奴め、体作りはC級の依頼でやらされると知っていて魔術理論の講義ばかりにしたな!
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