『青の原初魔術師』に弟子入りする事になりました
異世界にやってきた和泉改めワイズ。
そこで出会った世界屈指の『原初魔法使い』ブルーに弟子入りすることになる。
ワイズミ。今は略称にしてワイズ。
しがない日本人である。
大学卒業後に就職した企業は所謂ブラック企業と言う物で、基本給以外の残業代なし、という会社に勤めて3年目だった。
交通費も電車で移動しないといけないのに自転車で来れる距離だからなし、接待代も賄賂になるからとかなんとかで自腹、休日出勤は本人の意思と言う名の強制、残業をするのは本人の能力が低いからと定時でタイムカードを切った後に終電まで残業。
毎日毎日そんな日が3年も続けば病んでしまう。
そんな俺――――ことワイズに訪れたのは異世界転移! 異世界召喚と言うのか? まあ、どっちでもいいか。
そこで俺は何でも「世界の守護者にして世界で指折りの実力者『青の原初魔術師』のブルーさん」と自己紹介した変人に拾われた。全然ただの旅人じゃなかった。
いや、現代日本で生活していた身の上としてはファンタジー世界の住人は全て変人にしか見えないんだけどな。
「マナというのは人の意識、潜在意識に作用する物質で基本的に人の意志に沿って現象を形作る」
「想像力次第ってことですか?」
「物理法則を超える物はできないよ。それらを超えようとすると理論と術理が必要になってくる。そっちは魔術と言われるね」
「難しいんですね」
「なに、慣れてしまえば呼吸をするように使えるようになるさ」
そう言って笑った青目青髪の魔法使いブルーは自分の指先に<灯り>と呼ばれる淡い光を放つ魔法を灯すと、自慢げに笑っていた。
「君はあれだね。マナへの適応力が高いね。これは人としては異常なレベルだよ。エルフとかハイエルフ並みだ。正確に計測してみない事にはわからないことだが、たぶん君はニホン? とか言う世界から来たのだろう? この世界の常識、法則――――まったく別の世界の法則に放り込まれる際に再適応化されたと見るべきか」
「どういう事を言ってるかよくわからないんですが」
「ある一定の法則を超越した特異点を通過した場合、法則を超えて新たな肉体に再形成されるんだが、以前の肉体は消失する。同じ世界線に2人以上の同一人物は存在しないからね」
なんだっけ、どっかで聞いたことあるぞ。
たしか、ブラックホール情報パラドックスだっけか? それに話が似てる気がする。
ブラックホールに吸い込まれた人間はどうなるか、とかそんな話だった気がするがさっぱりだ。
「ま、難しい話はこの辺にして食事にしようか。とりあえず、この稀有な出会いに乾杯だ!」
「は、はあ。ありがとうございます」
そう言ってブルーはテーブルに並べられた料理の数々をワイズに勧めた。
場所はワイズがゴブリンに襲われた場所から1週間ほど歩いた場所にある街だ。
名前はコルバニース王国地方都市サハネという場所らしい。
なんでもブルーは人間の国全域を覆うほどの結界を張っている人物らしく、この地方都市はブルーが拠点として使っている場所の1つらしい。結界は3重になっており、2枚目と3枚目の間は魔物も存在している中立地帯。3枚目を超えた先は魔物が自由に闊歩している危険地帯。1枚目の内側は国の主要都市が入ってるのだそうだ。
「中立帯とは言っても魔物は居るからね。ああいうゴブリンも出たりする」
もぐもぐと骨付き肉にかぶりつくブルーはそう言うと大陸地図を広げてくれた。
「もっぱら、大陸の半分が現在人間の勢力圏。で、中立帯の魔物を掃討した後に2枚目の範囲を広げて3枚目の近くまで広げたら3枚目を解除。もう少し先に結界の基点を設置しに冒険者たちと向かい、設置。で、3枚目を起動。という流れで人間の領土を広げてる。だけど結界の基点も劣化すると効力を失うからね。僕しか結界が張れないから1人であっちこっち旅をしているわけさ」
なんだか、これ、オーバーワーク過ぎないか。
1人で大陸中の結界を管理するなんてことできるのか?
それをそのまま聞くと、ブルーはにっこりと笑って答えた。
「うん、無理」
「じゃあ、人間が大陸制覇なんてできないんじゃないの?」
「うん、無理!」
「夢も希望もないな!」
つまりどう人間ががんばって領土を広げてもブルー1人にしか結界を維持できない以上、大陸制覇など夢の又夢なのだ。
まさに絵に描いた餅である。
人類は今後ずっと魔物との戦いに費やすことになるのか。
「人間達には是非に要塞を築城して自分達で領土を守ることを覚えてもらいたいんだけどね。僕が過保護なせいか結界に頼り切っちゃってねぇ」
と、ブルーはそう言って食べ終わった肉の骨で地方都市の壁を指した。
城壁に見えなくもないが、魔物の進行に対してあれでは不安が残るのだろうか。
高さにして10メートルぐらいありそうだが。
「十分とは言えず、十分とも言える」
「と言うと?」
「ゴブリンやオーク、オーガに対しては十分だけど、上位の魔物種には不安が残る」
どうやらファンタジーにあるように魔物にも上位下位があるらしい。
今はまだ下位の魔物のほうが多いがその内上位の魔物達が攻めて来る周期があるらしい。
その際には3枚目の結界に魔物達の攻撃が行われ、結界が破られるのだそうだ。
そして再び3枚目と2枚目の間で魔物との戦いが行われ、そこで2枚目も破られれば人間の領地は奪われていく。
第1結界は上位の魔物であっても破られる物では無いらしく、そこまでは攻めて来られることは無いそうだ。
「そんな戦争を僕らは300年、400年と続けているわけさ」
「争いの絶えない世界だな」
ワイズはそう言って酒類に口をつけたが、日本のビールや発泡酒を知っている身であっても薄いと感じた。これ、水で薄めているな。だが、目の前のブルーはそんなことを気にした風も無いのでこれがこの世界では一般的なお酒なのだろう。
「ま、偉い人間達は1枚目の内側でぬくぬくと過ごしているからね。危機感は無いんだろう」
「絶対に滅びないとわかっているから、か」
なんとも虚しい話である。
結局冒険者や兵士ががんばって人間の領土を守っても守らなくても1枚目の内側の王族や貴族にとっては「どっちでも良い話」であるそうだ。結果として生活に余裕がある者達が王都周辺に集まる。王都への密入国も後を絶たないそうで、王都にスラム街ができると言う状態に陥ってしまっている。そのせいか地方都市や村々は発展せず、人が少なくなった村は中立地帯の魔物達に食われ、犯され、魔物の繁殖の犠牲になっているそうだ。そのせいか中立地帯と言っても魔物の数が減り続けるという事は無い。
「ま、というわけで僕が君に1ヶ月ほど魔法魔術の基礎と結界障壁魔法を教えてあげよう」
「それは助かるけど、なんで俺にそこまで親切にしてくれるんだ?」
「いやぁ、君の保有している魔力とかマナが尋常じゃないからね。僕の代理をやってもらえれば助かるな、と」
「つまり、結界とかの基点を維持するような事に協力してくれ、と?」
「うん。それが僕への授業料! 安心したまえ! 僕が教えるんだから君は世界でも屈指の魔法使いになれるとも! 僕から学んだことをちゃんと忘れずに鍛錬を続ければね?」
なんとも胡散臭い話であるが、生きていく上に力は必要なのは今の話で確かだ。
それに、今この世界で頼れるのは目の前のブルーという魔法使いしかいない。曰く、世界屈指の魔法使いなのだからそんな先生に教わればそれなりに強くなりそうな気はする。
「じゃあ、お願いするよ」
「いやあ! ありがたい! 正直エルフやハイエルフは協力的じゃないし、彼らの血を引くような混血種は中々生まれなくてね! たまに魔力が強い人間を見つけては結界の基点を整える為の魔法を教えたりするんだが人間の寿命は短くて!」
「それ言ったら俺だって人間だぞ?」
そうワイズが言うとブルーは目をぱちくりとさせた後、「ああ、そうか」と手をポンと叩いた。
「たぶん、君の寿命はものすごく長いと思うよ?」
「は?」
「殺されたりするなら別として、寿命と言うのはほぼ無いんじゃないかな。ほら、マナに適応した身体になったと言っただろ? 君の身体はほぼマナで構成されているから、マナが無くなれば死ぬだろうけど大気中のマナを吸収する器官が全身だからほぼ不老と言ってもいい。まあ、魔法の使い過ぎて年を取ったりはするかもしれないけどね」
「さ、さいですか」
どうやらワイズは争い事の絶えないファンタジー世界に転移した代償に常人以上の魔力と不老の身体を得たようだった。
読んで頂きありがとうございます!
ブクマ、評価など頂けると活力になりますのでよろしくお願いします!