表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/3

異世界にやってきてしまったらしい

 毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日。

 始発で通勤して、終電で帰る日々。

 日によっては帰れない日も多い。

 こんな生活なんて嫌だ。

 とっとと辞表を出してしまえばいいのに、明日の出勤の為に帰ったらすぐ眠る。

 辞めてしまった後に再就職するのが手間だ。

 それを考えるなら明日の仕事の事について考える方が良い。

 そんな風に考えて考えて考えて、気づいたら通勤中に倒れていた。

 眩暈がして倒れ込みながら思ったのは――――、

 ああ、やっと眠れる。仕事はこれを理由に辞めることができる。

 だって『仕方がない』じゃないか。

 そう思った所、視界の端に緑色の霧が見えた気がした。


 暗転。


「――――ハッ!」


 通勤中に倒れたはずなのに草原の真ん中で寝ていた。

 これは夢か?

 それとも天国か?

 こういう時は病院のベッドで目を覚ますか、全ての人間に無視されて道路で目を覚ますべきだろう。

 なのに一面草原である。穏やかな風が流れ、蝶が飛び、どこまでも抜けるような青い空に白い雲が浮いている。


「北海道か!?」


 なんかこんな映像をテレビで見たことある気がする。

 最後にテレビを見たのは何時だったか覚えてないけど。

 よっこらせ、と起き上がって俺は辺りを見回した。

 人家らしき物も無ければ、道路も無い。

 というより、自分が倒れたのは東京のはずなのでわざわざ意識消失した人間を北海道に連れてくる人がいるわけがない。


「あ、仕事――――は、もういいや。それより帰る方法探さないと」


 数年働き続けた会社の事を思い出したが、一度これで無断欠勤してしまったな、と思うとどうでもよくなってしまった。これでクビになるんだったらそれはそれでいい。自分の姿を確認してみるとスーツ姿だった。カバンはどこかに落としたらしい。スマートフォンもカバンの中にあったんだけどな。

 とりあえずこのまま此処にいても仕方がない。当ても無く歩き出す事にした。

 


 しばらく歩いたところで人影が見えた。


「なんだ、やっぱり人がいるじゃないか」


 良かった。このまま森の中で野宿することになるのか、と心配したじゃないかもうやだなー。


「おーい! すみませんー! つかぬ事をお伺いしますがー!」


 と、声を掛けると小柄なその人影が此方を振り向いた。

 両手を振ってこっちですよー、と合図するとその小柄な人影はこっちに向かって歩き出した。

 余りに小柄なのでお年寄りか子供かな? と思ったのだが、


「なんじゃあれ」


 小柄な人影の姿が仔細にわかるほどの距離になると、その肌の色が緑色で角を持った何かであることをしった。あれだ、子供の時によく遊んだRPGのゴブリンとかに似てる。


「あのー、えーと、コスプレ?」


 にしては良くできてるな、と思った所で――――その暫定ゴブリンさんは棍棒を振り上げて此方に躍りかかってきた。


「ええええええ!?」


 あまりに急な凶行に腰を抜かしてしまった。

 いきなり声を掛けただけで相手に棍棒を振り上げる人がいるか!?

 北海道でもそんな奴いねぇよ!


「ちょ、な、なにするんですかー!?」


 尻もちをついた状態で両手を振るうが相手はお構いなく棍棒を振り上げ――――、


 ドガッと何かに阻まれて地面にゴブリンが落ちた。

 

 え、今度は何が起きたの。

 目を白黒させる俺の背後に誰か立った。


「ゴブリン相手にフレンドリーに話しかけるとか、いやぁ、流石の僕も驚きを隠せないね?」


 そう言って笑った青髪青目の男は自分で持っていた杖でゴブリンの喉を潰すように振り下ろした。

 ぐぇ、とカエルが潰されたような声をあげてゴブリンは簡単に絶命した。


「君、大丈夫かい? いや、大丈夫じゃなかったらそれも吃驚なんだが。ショック死なんてやめてくれよ?」


 青目青髪の男はそう言うと俺の手を引っ張って立たせてくれた。


「あ、ありがとうございます」

「いえいえ、冒険者には見えないね? こんなところで何やってるんだい?」

「いえ、その――――」


 なんと言ったらいいか。

 通勤中に気づいたら此処にいました。

 むしろ此処はどこですか、なんて聞いていいのだろうか。

 そんな風に迷っていると、青目青髪の男は、うんうん、となぜかしたり顔で頷いた。


「まずは自己紹介といこう。僕の名前はブルーと言う。なに、ただの旅人さ」


 ローブを被ったその男はそう言うと、手のひらを俺に向かって突き出した。


「さ、君の名前は教えてくれるかい? 円滑なコミュニケーションの為にも名前ぐらい教えてくれると助かるんだけど?」


 そう言われて俺は慌てて名刺を出そうとして名刺入れもカバンの中であることを思い出して少しだけ慌てた後、口頭で名乗った。

 だが、その名前は彼にとっては発音しにくい物みたいで、訝しげな顔をされてしまった。


「ワイズミ? 聞いたことのない名前だね。まあ、いいか。この先その名前で行くとなるとこの国では困るだろうから、僕があだ名をつけてあげよう」


 そんな事を言われてもこの名前で生まれてこの方生きてきたのだから、今更名前を変えようと言われても困る。でも、確かに人に呼ばれるときに呼びにくい名前だと相手が困るな。ブルーという名前からして外国の方かな? そしたら――――そうだ、就職する前に遊んでたオンラインゲームのキャラから名前を使ってしまおう。本名を縮めただけだし。


「それでしたら、ワイズでどうでしょ?」

「いいね、それ。呼びやすい」


 ブルーはそう言って破顔すると手を差し出してきた。


「よろしくね、ワイズ君」

「え、ええ。よろしくお願いします」


 握手と笑顔は得意だ。

 だって得意先と毎日してることだから。

読んで頂きありがとうございます!

ブクマ、評価などを頂けると励みになります!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ