風の章4『落胆』
「はぁー!!」
気合いを入れる時の掛け声かと思うくらいわざとらしい大きなため息が響いた。
「あの神風殿のご子息なのだから、立派に育っていると思って迎えに来たのだ。でも、とんだ期待はずれだったのだ」
これもまたわざとらしく、大きく首を振りながら、手で顔を覆い、叫ぶように言った。はたから見ても挑発している事は確実であった。普通ならば、普通の人ならばこのような挑発には乗らないだろう。
しかし了也は。
「うるせえな! てめえに親父の何がわかるってんだ!!」
キレた。
こちらもわざとらしく、しかしながら確実に、キレた。
「母さんが死んでから、俺だけを村に残して、どこかに行っちまった親父のご子息だから立派!? 親父からしたらそりゃ立派に育ってるだろうよ! あの無責任に比べればな!」
了也の父、風夢神風は、まだその息子が幼き時分に、出稼ぎに行った。そしてそのまま帰らなかった。息子である了也からすればそれはとても無責任な親であった。
了也は、そんな親を許していない。寧ろずっと恨んでいた。村が大変な事になった時も、親の事を恨んでいた。そんな、怨恨の対象である親を持ち上げて、そんな事を言われれば、まだ少年である了也には、怒るしか選択肢がなかった。
「あいつが居なくなってから、村の人たちも俺を守ってくれたさ! でもな! あいつは一切俺を守ってくれなかった!」
愚痴を言う相手なんて村には居なかった。
「そいつを立派で、俺を期待はずれだって!? お前は親父が何をしていたか知ってるのか! それは子どもを放っておいてまでやることだったのか!」
本心から甘えられる相手なんて村には居なかった。
「あいつが何をやって、お前に立派と言われてるかは知らないけどな! てめえの子どもひとり守れない奴のどこが立派なんだよ!!」
自分が居ていい場所なんて、村にはなかった。
幼くして、独りであることを親に強制され、ずっと耐えて来た了也が限界を迎えるのに、現状は十分すぎた。
侵略された故郷。囚人となった自分。誰もこの牢から村に戻ってこなかったという事実。これらは、幼い身体に閉じ込めるには、とてもとても……。
「目を瞑るのだ」
そんな了也を見兼ねてか、男は口を開いた。
「目を瞑るのだ。ゆっくりと呼吸をするのだ。口を閉じるのだ」
ただの命令。しかしなぜかそれに逆らう事が出来ず、了也は目を瞑り、口を閉じて、鼻から大きく息を吸った。
ひと呼吸、ひと呼吸と深く空気を吸い込むと、不思議と心は平常に戻って行った。
「そのまま答えるのだ、風夢了也。まずは、この牢から、何か感じなかったのか」
「異常なまでに白かった。まるで自分まで白く染められたかと錯覚するくらいに」
「『不幸』はいつから感じて居たのだ」
「部屋を隅々まで見回してから……」
「何故、目を瞑り、ゆっくりと呼吸をし、口を閉じただけで、そこまで落ち着けたのか」
「……精神結界」
会話はテンポよく進んだ。直前まで自分が叫んでいた事が恥ずかしくなるくらいに。