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プロローグ「未来の自分」
「なあ、そこの人。闘技大会まではまだ少し時間があるんだ。ちょっとだけでも話を聞いて行かないか」
ボロの木箱を置き、ボロのローブのようなものを纏い、彼は通行人にそう声をかけていた。
しかし、彼の言葉に足を止める者は誰もいなかった。それもそのはず。ここは世界三大大国のひとつ、アイリス女王国の中心都市。彼の服装はその場には相応しくないものだった。
「観客はゼロ……か」
彼の表情はフードで隠れて伺えないものの、声色は明らかに落胆していた。
「でもまあ、いい。さあ皆、聞いてくれ」
男はフードを被ったまま立ち上がり、大袈裟に両手を広げて話を始めた。
「この話は、今日からはじまる闘技大会に参加する、ある男の物語だ」