新生活応援フェア
カランカラーン
ん…?
カランカランカラーン
先程は荘厳なイメージを醸し出していた鐘の音が、なぜかすごくチャチな音に聞こえてきた。
カランカランカランカラーン
むしろ、商店街でありがちなクジ引きで、
係がもっているハンドベルの音に近い気がする。
「ちょっと、なに無視するですかー?」
今度は幼さの残った、あどけない声が聞こえてきた。
カランカランカランカランカランカラン
「おーい、聞いてるですかー?」
だんだんと声に怒気がこもってきてる気がする。
「いい加減、目を開けろです!」
突然、何か硬いもので頭を叩かれた。
くもった音だったが、カランと音がした。
「いっっ、てぇー!」
叩かれた額をおさえつつ、体を起こし目を開くとそこには真っ白な空間が広がっていた。
見渡す限り、何もなく真っ白な世界。
唯一の存在が、ベルを片手になぜか怒ってらっしゃるワンピース姿の少女。
真っ白な空間の中においても、その少女の髪の白さは一際輝いていた。
「やっと起きたですか。今回はねぼすけさんなのです。」
キョロキョロ辺りを見渡してみるものの、やはり少女の他には何もなかった。
さっきまであんなに体中が痛かったのに、今では全く痛みを感じない。
それに服装はデートに出かけた際の服装のままで、傷一つなかった。
「あれ、ここどこ?僕って死んだんじゃ?」
「その通りなのです。あのままじゃグロテスク過ぎだったのでキレイにしてやったのです。」
白を基調にしたワンピース、そして白い髪。
青い模様は清潔感を際立たせ、手には金色のブレスレット。
背中には羽根も無けりゃ、頭上のリングも無いけど…
「もしかして、天使さん…?」
「ぶっぶー、残念ながら天使じゃないです。」
盛大に間違えてしまった。
だが、僕は死んだことに間違いはないだろうし…。
「え、じゃあ悪魔とか?そんな白い服着てるのに?」
「悪魔でもないです!こんな可愛い顔した悪魔がいるとでも思ったですか?それとも、もしかして小悪魔系に見えちゃったです?」
怒ったり、照れたりと情緒不安定な少女に苦笑いを向けながら、頭の中で何が起きてるのか整理してみるが、さっぱり分からない。
試しに、頬をつねってみたら意外にも痛みがあった。
「あ、ここは夢の世界じゃないですよ。だから痛みはあるです!」
そう言われると、さっきベルで叩かれたことを思い出す。あの時も痛かった。
「たしかに、あれは痛かったなー。」
ちょっとしたイタズラ心で、叩かれた額をアピールしてみた。
「あ、あれは起きなかったあなたが悪いです!と、とにかく私は天使でも悪魔でもないです!世界の均衡を保つために、この空間で様々な事象の管理をしているすごいやつです!しいて言うなら、世界そのものなのです!」
わたわたと慌てながら、話の流れを変えようとするが、自己紹介になってない。
まさか自分自身が世界そのものとか。
「って、世界?!」
まさかの擬人化。
世界自体が目の前に現れる、とかさっきまでの話の流れがきれいに変えられてしまった。
「ま、そんなもんです!実際には名前はないですけどね!せっかくなので、セカイちゃんと呼んでくださいです!」
僕の驚きを目の当たりにしたからか、なぜか自信たっぷりのドヤ顔をする始末。
このドヤ顔で、驚きも呆れへと変換される。
「…で、君は何のためにここにいるの?」
「………」
ムスッとした表情で、こちらを見つめてくる。
そんなに見つめられても、恋にはおちないぞ。
「おーい!」
「…セカイちゃんと呼んでくださいです。」
「え?」
「だから、キミ、じゃなくてセカイちゃんと呼んでくださいです!!!」
さっきまでのドヤ顔は、どこにいったのやら。
まさかの世界(擬人化)が一人称にこだわりをもたれるとは。
「あー、やっぱりそう呼ばれたいの?」
「呼ばれたいとか、そういうことじゃないです!世界が決めたことは絶対ルールなんです!」
見た目同様のワガママっぷりに、僕も動揺。
涙目での抗議にはさすがに逆らえません。
「わかったよ。で、セカイちゃんは何でここにいるの?むしろ、ここどこ?ってか、僕は何でここにいるんだ?」
「わー、そんな質問ばかり困るです!いいですか、簡単に説明するですよ。まず、ここは世界と世界の狭間なのです。二つの世界を繋ぐ門みたいなものです!そして、私はそこを管理する門番さんなのです!」
どこからともなく出現した、ホワイトボードにイラストが描かれていく。
地球とおぼしき二つの星と、その二つの架け橋。
架け橋にはセカイちゃんのイラストが立っている。
そして、いつの間に着替えたのやら、セカイちゃんはスーツ姿に黒縁メガネ、そして指示棒という塾の講師のような服装になっていた。
絶対につっこんだりしないぞ。
「要するに、この世には世界が二つあって、それらをセカイちゃんが守ってるってことか?」
「んー、二つというわけではないのですが、今はとりあえずその考えで間違いではないですよ!」
「なるほど。で、僕が呼ばれた理由は?」
セカイちゃんが指示棒で、ホワイトボードを指し示すと内容に変化が起きた。
そこには、灰色に色の抜けた片方の星。
もう一方の星は真っ黒な影がかかり、中央の橋へと迫ってきているようだ。
そして、橋の上にはセカイちゃんと僕が立っている。
「実は、神谷さんは特殊な事情によってここにいるです。神谷さんの居た世界、地球とは別の世界で何かが起きたみたいなんです。しかもそれが地球に影響を与えようとしてたみたいで、まさかの私も大ピンチだったですよ!」
その時の状況を説明したいのか、あたふたしだすセカイちゃん。
残念ながら、ロリコン属性は無いので特に萌えたりはしない。
すると、セカイちゃんの頭上に電球が出てきて発光しだした。ベタだな。
「そこで、天才である私は思いついたです!悪影響が起こる前に地球をストップさせたのです!そうすれば、地球には何も問題は起きないのです!」
「地球を、ストップ…?」
「はい、そうなのです。今地球は神谷さんが亡くなった直後で時間軸が止まっているです!そう、それがミスだったですよ!ちょうど止まった時間に亡くなった神谷さんだけがストップ効果に反映されなかったです!私としたことが、やっちまったですよ。」
「ちょっと待って。え、僕はどうなるの?」
「さすがにこのままには出来ないですので、異世界で頑張ってもらおうと思うのです!んで、ちゃちゃっと異変を解決してきてくださいです!そしたら地球も元に戻すことができるですから!」
「え、どうやって?ってか一般人には無理でしょ?どうすりゃいいの?」
「まぁ、考えるより感じろです!さて、今回行ってもらう土地はこちらなのです!トゥっ!!」
ホワイトボードには、いつの間にか地図が描き出されていた。
そして、そこに何かを投げつけられたとおもったら、ダーツが刺さった。
「あちゃあー、最初にしては厳しい場所なのです。まぁ気をつけていってらっしゃいなのです!」
「え、拒否権とかないの?ってか何これ体が、ってうわぁーーーー」
突如、体を幾重もの魔法陣が囲み、まばゆい光に包み込まれた。