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第3話

――ズンチャッチャ、ブンチャッチャ……。


「ふー……っ、慣れないドレスは疲れる……」

『ピクピクンゥン!』

「ピコ太郎! 頭の上で某子犬の真似なんてしてんじゃねえぞ! おめえはかわいくないんだから!」

「シャーロット殿、どうされました?」

「オーランさま! いいえ! なんでもございませんことよ!」

「髪飾りの鳥が何か? おや? この鳥……」

「な、な! なんですか? 剥製ですよ!」

「どこかで見たことあるような……」

「さあ! オーランさま! 踊りましょう!」

「おおっ、シャーロット殿! ぜひ!」

 

――ズンチャッチャ、ブンチャッチャ……。



 夕刻からはじまった舞踏会は夜更け過ぎまで続いていた。

 わたしは地味な茶々色のドレスで頭に髪留め代わりのピコ太郎を乗せ参加していた。

 エスコートはもちろんオーランさま。

 呼んでもないのに部屋の前で待ち伏せしていた。

 長身に黒ずくめのそれは素晴らしい正装姿で!

 舞踏会へ入場したときからずっと大勢の令嬢の羨望と嫉妬の視線に晒されている。

 目立つのだけはカンベンしてくれ!

 なんのために地味なドレスを選んだと思ってんだ!


「今宵のシャーロット殿はあの夜空に浮かぶ満月よりも美しく光り輝いておられまする!」

『目も頭も悪い男!』

「賛成! ただし目のほうだけ。それにしても……踊りっぱなしで目が回る」


 そうなのだ!

 オーランがやたらはりきって放してくれないので、夕刻から今現在まで踊りっぱなしなのだ!

 体力だけはありあまってるらしい。

 だったらとっととウイッカを見つけにいけ!


「オーランさま。ウイッカの行方はわからないんですか?」

「はい。なんらかの形で王太子に接触してくるのではないかと見張っているのですが、いまのところ怪しい女は近づいてきていません」

「そうですか……」


 王太子はずっといろんな女と踊りまくっていた。

 金髪碧眼で背の高い美男子だから女が放っておかないタイプだが、本人も相当なスキモノらしい。

 いつか女で身を滅ぼすだろう。


『王太子! 女と一緒!』

「ん? どうした? ピコ太郎!」

「え? その鳥は生きているのですか? あっ! ピコ太郎じゃないか! いつの間に!」

『いまごろ気がついたか! バーカ!』

「おや? 王太子がいない! 今そこで踊っていたのに! あっ! あんなところに!」


 オーランの指差す方向を見ると王太子がピンク色のドレス姿の女と庭へ出ていくところだった!


「オーランさま! すぐに参りましょう!」

「はい!」


 わたしたちは王太子たちのあとをいそいで追いかけた。


「もういない……おかしいわね?」

『草むら!』

「あっ! オーランさま! あそこの草むらでガサゴソと音が!」

「ほんとうだ! 皆の者あつまれ! 王太子が襲われているぞ! ピーッ!」


――ザッザッザッザッ、ザッザッザッザッ!


 オーランが笛を吹くと衛兵が一斉に集まり草むらを包囲した!


「一気にいくぞー! そーれっ!」

「「ヤーアアアアーッ!」」


――ドシン! バタンッ!


 みんなで一気に草むらへ飛び掛った!


「きゃああーっ!」

「わああーっ! なんだ! おまえたちー!」

「王太子! ご無事ですか?」

「なんで邪魔するー!」

「え……っ?」


 なんと王太子は、草むらのなかでどこかの令嬢と抱き合いキスをしていた!

 暗闇でイチャイチャしていただけだ。


「シャーロット殿! 見てはいけません! 下がって!」

「いや、あの……」

『目の毒! 目の毒!』

「シャーロット殿……わたしは王太子を部屋まで送ってきます! そこで少し大人しくしていてもらいます! シャーロット殿はしばらく会場でお待ちください! くれぐれも他の男なんぞとは踊らないでくださいね!」

「は、はっ、はい!」


 オーランの勢いに押され思わずあとずさった。

 彼の瞳がギラリと恐ろしい光を放った。

 なんなんだ?


『男の嫉妬は見苦しい!』

「まったく……とんだ無駄足だったな……。では、ピコ太郎、舞踏会に戻ろうか……うん?」


 足元に黄色い羽が落ちている。


「これは……ピコ太郎のか?」

『ちがう! カナリア!』

「カナリアだと? では、ウイッカはこの庭に来たということか? おや?」


 足元の地面が硬い!

 もしかして地下通路があるのかもしれない!

 皆の目を避けながら、羽の落ちていた草むらの奥へ踏み込んでいった。


――カサカサ、カサカサッ……。


『ここ! 木の根元!』

「ピコ太郎……鳥目じゃ?」


 ピコ太郎の飛んでいる木の真下にいってみた。

 

「むむっ! これは……!」


 木の根元に人ひとりはいれそうなぐらい大きな穴が空いていた!

 しゃがんで手を翳してみる。

 

「風がくる……。どこかに繋がっているようだ。よし、ピコ太郎! 中を偵察してきてくれ!」

『夜間鳥目につき閉店中』

「おまえは都合のいいときだけ鳥目になりおって! よい! わたしがいく!」


 長いスカートをたくしあげ穴の中へと入っていった。


「どこからか月明かりが入ってくる……おお! 階段があるではないか!」

 

 1階分ほどの階段を下りると横穴が続いていた。


――カツーン、カツーン、カツーン……。


 5分ほど歩くと先に灯かりが見えはじめた。

 突き当たりに小さな部屋があり誰かいるらしい。

 壁に張り付き用心しながら奥へと進んだ。

 

『王太子の誘拐に失敗しおって! どうするのだ! さらに厳重態勢が敷かれてしまったではないか!』

「ですが……必ずや、つけいる隙はあります! いまいちどチャンスを!」

『チャンスは1度だけだぞ! 代わりは大勢いるのだからな!』

「はい……」


 話し声がする。

 部屋に近づき入り口からそっと中を覗いた。


 ピエロだ!

 中央に大きなピエロの顔が浮かんでいる!

 その前にもピエロがいて、カナリアを肩に乗せている。


「…………!」


 恐ろしい光景に息を飲む。

 その雰囲気を察したのか、ピエロがうしろを振り向いた!


「誰だ!」


 顔にピエロのペイントをした女だった。

 普通の女性ならここで逃げ出すところだが、わたしは忍びだ!

 チャンスをのがすものか!


「くせもの! 覚悟しろ! ヤーッ!」

 

 ドレスに隠し持っていたナイフを片手に、ピエロに飛び掛っていった!


――ドンッ!


 馬乗りになり女を取り押さえた!


「きゃああーっ! いつの間にー!」

「大人しくしろ!」


 ――フッ!


「あっ!」


 松明の灯かりがとつぜん消えた!

 あたりは真っ暗闇だ。

 女に乗り上げたままピエロの衣装の袖を引き伸ばし相手の腕を縛り上げた。

 こうしておけば逃げられないだろう。


「ふーぅ……意外と簡単に捕まえられたな……」


――バタバタバタバターッ!


「シャーロット殿ー! ご無事ですかー!」


 松明を手にオーランと衛兵たちがやってきた!


「オーランさま!」

「よかったー! シャーロット殿! こんなところで何を? おや? それは……!」

「オーランさま! ウイッカらしき女を捕らえました! この下敷きにしている……あれ?」


 いつの間にか、自分の下にいたはずの女がいなくなっていた!

 あるのはピエロの衣装だけだ。

 顔だけで浮かんでいたピエロの姿も掻き消えていた。


「さきほど衛兵から、シャーロット殿が草むらの奥に入っていったとの報告を受け探しにまいりました! 行ってみると木に大きな穴が空いていたので入ってまいったのですが……。ここはいったいなんなのですか? シャーロット殿は以前からここに出入りしていらしたのですか?」

「いえいえ! ちがいます! わたしもここへ入るのは初めてで……!」

「オーランさま! この状況ではシャーロットさまが怪しいとしか判断できません! 疑いが晴れるまで拘束を!」


 ひとりの衛兵が進み出てオーランに進言した。

 ええっ!

 わたしが犯人だと?

 そんなわけないだろーがっ!


「シャーロット殿が? そんなバカなことが……! おまえ! 何を根拠にそんなことを!」


 オーランが衛兵に詰め寄った!

 衛兵は動じず銀色の兜の隙間から鋭い目付きでわたしを見た。


「令嬢がなぜひとりでこの部屋にいたのですか? 腕っ節も強いですし怪しいです!」

「た、たしかにそれはそうだが……でも! 劇場で歌姫が刺されたときはわたしと一緒にいたぞ! わたしが証人だ!」

「だったら、彼女は共犯者なのです!」

「本当に……? たしかに怪しい言動は多いが……だが、シャーロット殿がそんな悪いことをする人とは思えない!」

「本当にそうですか? 最近、彼女の近辺で怪しいことはありませんでしたか?」

「た、たしかに男と逢引きしていたが……」

「それです! その男が犯人です!」

「だ、だが! 犯人は女で……」

「オーランさま! とりあえずここを出ましょう!」


 他の衛兵の提案により、ひとまず穴の外へ出ることにした。

 どうしよう!

 状況はひどくわたしに不利だ。

 これでは、誰だってわたしが犯人だと思いこむことだろう。

 まんまとピエロにしてやられた!

 とりあえず大人しく王宮へ連れていかれた。


「シャーロット殿! わたしは断じてあなたが犯人だなどと思ってはおりません!」

「ですがオーランさま! たしかにシャーロットさまは王太子にとても興味をお持ちでした。この国にも来たばかりですし。疑わしくなくはないのでは……」

「なにを言うか! こんなにか弱くやさしい乙女があんな恐ろしいことを企てるわけないであろうが!」

「はは、はいっ!」

「シャーロット殿、自室にて監禁させていただきます。決してあなたが疑わしいからではありません! むしろその反対です! あなたを魔の手より守るためです! 必ずやあなたの容疑を晴らしてみせます!」

「オーランさま……!」


 オーランだけが頼みの綱だ。

 いまは何を言っても疑われるだけだし、墓穴を掘って忍びだとバレるのも恐いので終始だまっていた。

 

 翌朝になった。

 

――トトン、トン!


「おっ! 合図だ! ここは3階なのに……ピコ太郎!」


――ヒュンッ!


 窓を開けるとピコ太郎が中へ入ってきた。


『たいへんなことになったな! どうするんだ?』

「変装を解いて抜け出す! あの様子だともう1度、王太子を襲うはずだ!」

『敵は幻術を使うようだ。親方さまからこれをいただきました!』

「父上から?」


 ピコ太郎のクチバシに白い花がくわえられている。

 

『魔よけのハーブです。いざというときに使わせていただきます』

「ごくろうであった」


――ピーッ! バタバタッ!


 ピコ太郎は空の彼方へ飛んでいった。

 今日のピコ太郎はマジだった。


「それにしても……ここからどうやって出よう……そうだ!」


――ドンドンッ! ドンドンッ!

――カチャッ!


「なんだ? どうした?」

「頭が痛いの! 横になるから看護の者を寄こしてちょうだい!」

「顔色は良さそうだが? むげにするとオーランさまがうるさいからな……わかった、ちょっと待ってろ」


――パタンッ!


「よし!」


 すぐにソファに横になり侍女が来るのを待った。


――カチャッ!


「シャーロット殿! 大丈夫ですか!」


 予想に反しオーランも一緒にやってきた!


「ゴホゴホッ……少し風邪気味みたいで……」

「それはたいへんだ! 侍女よ、シャーロット殿をよろしく頼む!」

「はい!」

「オーランさま、ゆうべの地下部屋はなんだったのでしょうか?」

「おお、あれは、むかし使われていた地下貯蔵庫だそうです。王太子は前からあの場所を知っていて、ウイッカに教えてあったそうですよ。それと、昨夜から部下がひとり行方不明で探しております」


 クッソー!

 またあのバカ王太子のせいかよー!


「ゴホゴホッ……」

「シャーロット殿、大丈夫ですか? 寝ていてください! わたしはこれより舞踏会2日目の警備に当たります!」

「オーランさま……どうもありがとうございます……。しばらくゆっくりしたいので、この部屋に人は入れないでくださいませ」

「おお、そうですね! わかりました! 侍女よ、あとはよろしく頼む! それではシャーロット殿、失礼いたします!」

「はい!」


――パタンッ!


 しめしめ。

 何も知らずに佇む侍女の背中を見つめながら、わたしは目を光らせていた。



――カチャッ!


「侍女か? どうした?」

「はい……シャーロット殿がしばらく奥の寝室でひとりで寝かせてくれと……。わたくしも夕食を取りに行かせていただきます」

「そうか? では、行ってこい!」

「はい」


 ヤッター!

 メイド姿の侍女はわたしだ!

 本当の侍女は当て身をくらわせて寝かせてきた。

 いまのうちに舞踏会場へまいろう!



――ズンチャッチャ、ブンチャッチャ……。


「ふー、相変わらずの盛況ぶり! おっ! 王太子は相変わらず鼻の下伸ばして美女と踊ってやがる。怪しい女は……いまのところいなそうだな? 先に昨日の穴へいってみよう!」


――ガサガサガサガサッ!

 

 庭の奥へ向かい草むらをかき分け、例の木の根元へやってきた。

 穴は空いたままだった。

 月明かりが床を照らし出す。

 中へ入り奥の部屋まで進んだ。

 松明が落ちていた。

 そばの火打石で火を点けた。


「うっ……うう……」

「だれだ!」

「た、たすけて……っ……」

「あっ! あれは!」


 隅の暗がりに衛兵が1人縛られ倒れていた!

 甲冑は奪われている!

 では、ゆうべこの部屋でわたしを糾弾した人物が衛兵に変装したウイッカだったのだ!

 してやられた!


 衛兵の拘束を解いてやった。

 ケガはなさそうだが、すぐに動くのは無理そうだ。

 部屋の隅に食料や毛布が置いてある。

 ここでウイッカは寝泊りしていたようだ。


 そうだ!

 ウイッカが衛兵になりすましているなら、再び王太子が危ない!

 すぐに駆け出し木の穴から外に出ると、草むらを掻き分け庭を横切り舞踏会場へと駆け込んだ!


――ドシンッ!


「わっ!」

「きゃっ!」


 誰かにぶつかった!

 その誰かが、すかさずわたしの腰を持ち支えた。

 おみごと!


「ぎゃー! オーランさま!」

「んっ? 君は……あたらしい侍女か?」


 はっ!

 そうだった!

 いまのわたしは本来のちょい美女姿に戻っている。

 髪は元の金髪。

 そばかすを消して眼鏡をはずしている。

 

「誰かに似ているな……誰だっけ?」

「あっ! あの! 地下の貯蔵庫に衛兵が1人倒れていました! 誰か他の人物が衛兵になりすましている模様です!」

「なんだって! たいへんだ! 衛兵! 至急、全員の点呼を! 顔もきちんと照らし合わせろ!」

「「「はい!」」」

「それで侍女殿はなぜそのことを……あれ? 侍女殿? どこへ行った?」


――タタタタタタッ!


「ハアハア……やっかいな男に捕まってしまった! おっ! あれは……!」


 舞踏会場の隅に怪しげな衛兵が立っている!

 

「…………!」


 おもむろに横笛のような物を出し口に当てた!

 吹き矢だ!

 その先には――玉座に座る王太子が!

 

「あぶなーい!」


――バタバタバタバタッ!


 メイド服のポケットからナイフを取り出し、そのまま衛兵に突進していった!

 衛兵の吹き矢がこちらを向く!


――ヒュッ!

――バッ!


 矢が放たれた!

 横へ跳んで素早く避ける!


――バターンッ!


「わああっ!」

「きゃああっ! あなたー!」

「たいへんだー! 人が倒れたぞー!」


 誰かうしろで当たったみたいだが、知ったことか。

 王太子さえ無事ならそれでいいのだ。


「貴様! 許さん!」


――バッ!


 衛兵に化けたウイッカに飛び掛っていく!


――ヒラリ!


 寸でのところで身をかわし逃げられてしまった!


「ちっ!」


――バタバタバタバタッ!


「待てー!」

「侍女殿! あぶないから下がっておれ!」

「へっ?」


 そのとき、わたしの肩を押さえて阻止する奴がいた!

 とっさにうしろを振り返る!


「オーラン! おまえかよー!」

「侍女殿、下がって! わたくしが参ります! おまえたち侍女殿を守れ! 待てー!」


――バタバタバタバタッ!


「ええっ! いいよ! これからってときに……!」

「あれ? この侍女、シャーロットさまのところにいた女じゃないか?」

「えっ? ホホホホッ! シャーロットさまに何かごちそうを持って帰ろうかと思って! では、わたしはそろそろ戻りますわね? ごきげんよう! ホーホッホッホッホッ!」

「おれが送ってくよ!」

「はあっ? よけいなこと……! いえ……おねがいします」


 抵抗したら怪しまれるので大人しく部屋まで送ってもらった。


――キイッ!


「へへへへ……あんた美人だなあ。今度デートしようぜ! 看護部にいんだな? 今度、用が無くてもいくよ!」

「ホホッハハッ……」


――パタンッ。


「ふええー! またまたオーランに邪魔されたよ! クッソー! 明日はどうやって抜け出そう!」

「う……ん……」

「しまった! 侍女を失神させて眠らせてたんだっけ……そうだ! 侍女はこのまま薬でもかがせて眠らせておいて、あしたの晩はドレスを着て堂々と舞踏会に出ればいいんだ! このままの姿なら誰もシャーロットだってわからないはずだわ! わたしってあったまいい!」


 そして翌日の夜。

 性懲りもなくまたオーランが訪ねてきた。 

 

「そうですか……シャーロット殿はまだ寝込んでいるのですね……」

「はい。ただの風邪ですので、どうぞご心配なさらずに!」

「ところで、侍女殿はどうしてあの地下部屋を知っていたのですか?」

「は? あの……いえ、庭で迷ってしまって……そしたら見知らぬ女の人に地下部屋に衛兵が倒れているから誰かに知らせるようにと頼まれたのです」

「見知らぬ女? どんな女でしたか?」

「それは……茶色い髪に茶色い瞳の……平凡な女です!」

「茶色の髪と瞳ですか……。そうだ! 侍女殿はどうしてわたしのことをご存知だったのですか?」

「それは……! オーランさまのお姿やお名前を知らない女などこの城内には1人もおりませんわ! それぐらい、常識よ!」

「はあ……そうですか? では、引き続きシャーロット殿の看病をお願い致します! そういえば……」

「へ? まだ、なにか?」

「侍女殿の声はシャーロット殿と似ていますな? 背の高さや年齢が同じぐらいだからでしょうか?」

「ゴホゴホゴホゴホ……普段はこんな声ではございませんのよ! シャーロットさまの風邪がうつったみたいで……」

「そうなんですか? あなたまで風邪をひいたら大変だ! シャーロット殿の病状が悪化してしまう! 早めに他の人と交代してくださいよ! それでは! 今日は舞踏会最終日だ! 気を引き締めていかねば!」


――パタンッ。


「あんのぅシャーロット馬鹿め! あたしもシャーロットだってえの!」


――ココン、コンコン!


「おっ? 合図だ……ピコ太郎!」


 あたりはすっかり暗闇に包まれている。

 窓の外にピコ太郎がいた。


――ツカツカッ、バンッ。

――パタパタパタパタッ!


 窓を開けピコ太郎を招き入れた。


「ピコ太郎、鳥目はどうした……」

『おれも舞踏会に連れてけ!』

「わかっておる。また頭の飾りになれ。さあ! ドレスアップして行くぞ! 打倒ウイッカ! オー!」

『ピー!』


 寝室で眠る侍女を確認すると真っ白いドレスに着替えた。

 堂々と目立つほうが返って人目をくらますことができるだろう。

 カーテンやシーツを縛り1本のロープにすると、柱に繋いで窓から垂らしよいせよいせと降りていった。

 運良く誰にも見つからず、無事に舞踏会場へ行くことができた!


「ハアハア……王太子だ!」


 今日もデレデレしながら豊満なからだを黒いセクシードレスに包んだ美女と踊っている。

 んっ?

 あの女?

 目付きが異様に鋭い!

 まさかのまさか!


「あの女! ウイッカにちがいない!」


 ツカツカと近づこうとするわたしの手を、誰かに取られた!


「オーラン、またか! 何度も邪魔立て……!」


 だが、振り返るとオーランではなかった!

 見知らぬ男たちが手を差し伸べている!


「美しいお嬢さま! 今夜の曲のお相手を願いますか?」

「ぜひわたくしと!」

「いいえ! このぼくと!」

「……素のわたしってこーんなにモテちゃうのよねー! ピコ太郎! 見た見た?」

「こらこら! ご婦人が困っているだろう!」


 そのとき、オーランがやってきた!

 まずい!

 彼は侍女のわたしを知っている!

 いそいで王太子のいる方向へ駆け出した!


「きゃあー! 怪しい女がいるわ!」

「えっ?」


 見ると、王太子と踊っている黒いドレスの女がこちらを指差し叫んでいる!

 おい!

 怪しいのはおまえだろうが!


――なんだ、なんだ!

――誰が怪しいって?

――あの白いドレスの女か? あれは誰だ? 見たことのない令嬢だぞ?


「おい! なんだ! なんの騒ぎだ!」


 人垣を掻き分けまたオーランがやってきた!


「クッソー! どうしたら……」

『おれにまかせろ! ピー!』

「ピコ太郎!」


――サアアーッ! バッ!


「きゃっ! なに!」


 ピコ太郎が黒いドレスの女の上に飛んでいくと白い花、魔よけのハーブを落とした!

 見る間に女の顔立ちが変わっていく!


「あれ……あなたは……!」


 すぐに王太子が反応した!

 夢から覚めたような顔をして黒いドレスの女を見ている。


「ノラ! いや、ウイッカじゃないか! どうしてここに……?」

「王太子! ウイッカですって? 本当ですか? みんな、ウイッカがいたぞ! 歌姫殺しの犯人だ! すぐにその黒ドレスの女を捕らえよー!」


――ワアアアアーッ!

――黒いドレスの女を捕まえろー!

――たいへんだー! 女が逃げたぞー!

――追っかけろー!


 上へ下への大騒ぎとなってしまった!

 

『シャーロット! 向こうでカナリアが鳴いてるぞ!』

「ほんとか? ウイッカは衛兵に任せ、そっちに行ってみよう!」


――タタタタ、タタッ!


「ピーピー、ピロロロロー!」


 王広間の外廊下の奥に置いてある鳥籠のカナリアが鳴いている!

 ピコ太郎とそばに寄ってみた。

 

「この鳥が鳴いているということは、この近くにメスのカナリアがいるな? まさかまた王太子の鳥じゃないだろうな?」

「王太子のカナリアは動物園に返却させました。奥の部屋からも鳥の声が聞こえてきますね?」

「では、行って……わあっ! オーランさま!」


 いつの間にかうしろにオーランが立っていた!

 

「おや? あなたは……?」


 まずい!

 いよいよわたしが、絶世の美女だということがオーランにバレる瞬間がきた!


「オーランさま、いままで騙していて本当にどうもすみませんでした! だからといってこの胸は決して上げ底ではございません! 元からこんなに大きいんです! 瞳の色も元の緑色に……」

「昨日の侍女殿ですね! なぜここに?」

「はっ? ええ、まあ……。そんなことよりも! 先にカナリアを探しましょう!」

「ああ、そうでしたね! では、わたしが先に部屋の中を……」


――バンッ!


 ぐずぐずしているオーランを押し退けドアを開けた!


「ピーピー、ピロロロロー!」


 部屋の中でカナリアが鳴いていた。

 黒いドレスの女の肩の上で!


「ウイッカだな! いつの間にこんなところに! 今度こそは覚悟しろよー!」

「くそう! またおまえか!」


――バンッ! バッ!


 女は窓を開けるとヒラリと飛び降りた!


「待てー!」

「あぶない!」

「あ、ちょっと!」


 オーランがうしろから抱きついてわたしを抱きとめた!

 ウイッカは地面に飛び降り、庭を走って逃げていく!

 2階ぐらいからなら、わたしも簡単に飛び降りられるのにー!

 オーランの腕の中で足をバタバタさせているわたしを尻目に、ウイッカは夜のしじまへ姿をくらましていった。


「クッソーまた逃げられた! それもこれも……オーランのせいじゃー!」

『アッポー!』

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