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スカイシティ

作者: 耕路

久しぶりに投稿します。

 停戦のニュースが流れた一週間後、私はスカイシティの居住棟のバルコニーで安物のワインを呑みながら、ぼんやりと遠方の丘陵を眺めていた。そこは以前は集落のあった斜面だったが、いまは崩れた建物の形骸だけが残る場所だった。爆音が聴こえる。国連軍のツインローターの大型ヘリコプターが上空を通過した。

 国連軍は、停戦の順守を注意深く監視している。散発的な衝突はあったものの、今のところ政府軍と革命派の双方の努力によって停戦は維持されていた。

 スカイシティの住民は、ほとんど退去していたから、私は口をきく相手もなく、契約していた通信社に週にいちにど記事を書いて送るだけの生活だった。 

 昼になって、冷蔵庫のチキンで簡単に食事を済ませると、私は、スカイシティのデッキへ出てみた。支柱に支えられた空中に浮かぶ広いスペースだった。地表からの高さは五十メートルになる。

 機械は、そこに据え付けられていた。

 表面に見えるものといえば変圧器の碍子だけで本体は扉のついたコンテナの中に収まっている。

――時間転移機、機械はそう呼ばれていたが、誰がどんな意図でここに据え付けたのかは不明だった。この国の政府の国家プロジェクトと噂されていたが詳細はわからない。

 ただ、はっきりしているのは、この機械はいま現在、稼働しているということだった。過去の時間が現在を干渉していた。

 

 私は、部屋に戻った。小型の双眼鏡を手にすると、バルコニーに出て丘陵のあたりを双眼鏡で覗いた。複数の人影が認められた。

 政府の言う、革命派の兵士だった。よく観察してみれば彼らが青銅の鎧兜で武装した、剣を手にした古代ギリシャ兵であることがわかる。兵士は散発的に現れては国連軍のキャンプを攻撃していた。

 政府の公式発表するニュースは事実とは大きく隔たっている。言ってみれば、これはもっともプリミティブな戦いなのだ。私は、部屋に戻ると、この事実を公表すべく、キーボードに向かった。


 と、その時、バルコニーに面したガラス窓が大きな音を立てて砕け散った。部屋の真ん中にサッカーボールほどの石が転がりこんできた。古代の兵士は投石機を使っている。

 彼らに報道の自由を訴えても、つうじまい。私は、ひとり呟いた。これは、時間戦争なのだ、と。

読んでいただいてありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 耕路様の久しぶりの新作楽しませて頂きました。 丁寧な情景描写から少しずつSFに展開していくのが面白かったです。原因を全て説明しないことで想像の余地を持たせるのが作品に深みを与えていると感じ…
[一言] お久しぶりです。拝読させていただきました。 無駄のない精巧な文章とくすっとできるオチはいつもながら素晴らしいなと思ってしまいます。 時間ができれば、他の作品も読ませていただきますのでよろしく…
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