unluck see through
窓に貼り着きながら、こう考えた。
智に働くのは腹がたつ、嬢にサオ挿せば怒られる。
side 新川 玲鈴※親友依存症
皆様こんにちは、新川玲鈴と申します。
本来でしたらもっとしっかりとした自己紹介をするつもりだったのですが、何分わたくしはいま、校舎の二階にある窓縁にしがみつくのに必死にございますゆえ、このくらいで勘弁願います。
さて、何ゆえわたくしが、このような曲技を皆様にお見せしているのか。
それはわたくしが姫君、今田空緒ちゃんのストーキング中だからに他なりません!あおちゃん。あぁ、なんと麗しき名前でしょうか。
あおちゃん、我が肉、我が魂。ぐへへ
彼女が廊下を歩くのにあわせて、私はサスケのごとく、校舎の壁をつたって行きます。うんしょ、うんしょ、
え?何故わたくしが廊下を歩かずわざわざ壁を伝って窓越しにあおちゃんを眺めているのか。ですって?ふふ、実は最近、訳あってわたくし、”あおちゃん離れ”に励んでいるのです。
お医者さま曰くわたくしのあおちゃんに対する執着は異常だそうで、親離れならず友離れに励むよう言われてしまったのです。そのためわたくし1日1時間こうしてあおちゃん離れをしているのです。努力の甲斐あってか、最近はあおちゃん以外の人とも少しずつ、話すことができるようになれました。
それにしても、ご飯を食べさせて貰ったり(無理やり)、着替えを手伝って貰ったり(無理やり)、お風呂に一緒にはいったり(無理やり)することまで我慢しなければならないとは、お医者さまもなんと無茶なことを要求するものです。そんなにわたくしのあおちゃん依存は深刻なものなのでございましょうか?
あおちゃんを遠くからぼんやりと眺めていると、クラスの男の子2人があおちゃんを追い抜きました。楠木君と古畑君です。楠木くんは何やら危なっかしくダンスを踊っていらっしゃいました。
素敵なステップですが、あおちゃんにぶつかったら殺しますよ?
あおちゃんがなにやら悲しそうに遠くを見つめています。前髪にに隠れがちな綺麗な瞳、控えめな歩き方、すらっと伸びた足、すべてがまるで芸術品のようです。あぁ、あおちゃん、喋りたいよ。近くにいたいよ。あおちゃんの瞳に吸い寄せられるように、私はあおちゃんを凝視します。私の体が不安定に揺れ始めました。驚いて手元を見ます。両手が震えているのがわかりました。禁断症状です。ヤバイ、止まれ、止まれ、しかし、気づいてしまったら最後、震えはどんどん激しくなっていきます。
待って待って待って待ってマッテマッテマッテ
あおちゃんあおちゃんあおちゃんあおちゃんあおちゃんあおちゃんあおちゃんあおちゃんあおちゃ
助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けてタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテタスケテ
…あおちゃん
握力の失った手は、わたくしの重みを抑えきることができませんでした。落ちる、死ぬ、そう思った瞬間わたしくしは必死でガラス窓を叩きます。ガラガラガラ!助けて、誰か…無理です。きっと今窓の内側にはわたくしの小さな指先しか映っていません。落ちる。そう思った瞬間。窓の内側からわたくしを見る目がありました。
「古畑君…助け…」
一瞬時が止まったかと思うと、私の体は地の底に強く引き寄せられていきます。っ!体を縮めます。バキバキバキ!枝の折れる音。…どうやら運良く垣根の上に落ちたようです。しかし落ち着く間はありません。私はすぐさまあおちゃんからもらったハンカチで口と鼻を抑えます。こうするとあおちゃんに包んでくれている気がするのです。
ーーーッ!ハァ…ハァ、ハァ
体の震えが徐々に消えてゆきます。わたくしはぐったりと垣根によりかかりました。やっぱりわたくしはあおちゃんなしでは生きて行けません。あおちゃんに迷惑をかけなければ生きていけないのかもしれません。
「あおちゃん離れ…わたくしにはまだまだ早いみたいです。」
涙で滲んだ夕焼けを仰ぎながら、わたくしはあおちゃんハンカチをクシャっと握りました。
あおちゃんが人を殺した。そんなニュースがわたくしの耳に飛び込んできたのはそれから3日後の事でした
unluck see through〜窓の向こう側の不幸〜
もしくは〜アンラクシスル?〜 完