転生したのはいいけど、うちの許嫁が無自覚すぎて困る。
新作<モブ高校生、妖怪退治に強制参加の模様>の連載を始めました!
よろしければそちらも合わせて読んでいただけると幸いです。
幾何学的な模様で描かれた、眩く光り輝く魔法陣を横目で見つつ、一秒もしないうちに飛んでいくであろう魔法に、さらに付加魔法を重ねがけしている時、どうしてこうなったかを俺は改めて考えていた。
せめて、あいつが『自分は美少女だ』と自覚があればこんな事にならなかったのに…
少年回想中…
突然だが俺は剣と魔法の世界に転生した中学三年生だ。
当時、まだ中二病が抜けきってなかった俺は死んだなんて事実を忘れちまうほど喜んだものだ。
俺が転生したのは中世ヨーロッパみたいな世界、まぁテンプレだな。
そんな世界に転生して一番喜んだのは魔法があることだった。
それなりに地位のある家に転生したことで割と貴重な魔道書やら何やらを読み漁り、5歳を過ぎる頃には魔法使い中級者が使うような魔法を片手間に撃てるようになっていた。
初めて魔法を見せた時の親父とお袋(すごい美男美女。初めて見た時に爆発しろと心から思った。)の顔ったら、なんかさとちの区別がつかなそうな顔をしてたよ、ってこのネタはちょっと危ないな…要するにすごく面白かった。
すくすくと育っていった俺だが、12歳になる頃、国立の魔法学校がある事を知った。
凄く興味が湧いたので親に頼み込んで受験させてもらえる事になった。
受験料、授業料が割りとかかってしまって後で返すのが少し大変になるとブルーになったのは内緒。
中学生の時は勉強なんてクソ喰らえと思っていたが、精神年齢が20歳を超えたくせに中二病気味な俺は魔法を極めたいと心の底から思ってたんだ。そんな事考えてなかったらこんな面倒な自体にならなかったのになぁ…
15歳で受験資格を得られると知った俺はゆっくりだが受験勉強を始めた。
実際勉強は楽勝だった。
中1レベルの数学、地理やある程度までの歴史、そして魔法技術とそれについての知識。
数学は昔からそれなりに出来てたし、魔法に関しては受験レベルとっくのとうに達してた。
だからしっかりと覚えるのは地理と歴史だけだった。
翌年、俺に許嫁がいる事と、花嫁修業を兼ねてこっちに来ることが親から伝えられた。
テンプレキター!!と親が引くほど大喜びしたなぁ……思えばそれが俺のハードモードな人生の始まりな訳だが…
すぐに許嫁はやってきた。。艶のある肌、仄かにピンクがかった頬、錦糸のように滑らかなブロンドヘアーにクリっとしたタレ目気味で、黒真珠のような瞳、その上家柄もいいときた。身長は低めで俺の肩くらいしか無かった。
おまけに礼儀作法、勉強は完璧。ただ、運動は…まぁ、うん。
どストライクだった。
正直俺の嫁にしちゃっていいの?って思ってしまう位の超超美少女。
…しかしだ。
世の中そんなに甘くは無かった。
うちの許嫁様は他人の悪意に全くといって気付かない、というか知らなかった。
受験勉強の休憩に2人で街に遊びに行った時、目を離したら速攻誘拐された。
俺が探索魔法を使えなかったら裏取引でどっかの変態貴族様にでも売られちまってたんじゃないかな。
そして助け出したあと、怪しい人について行っちゃダメと少し注意し、喉が渇いたと言われたので飲み物を買いに行く為に目をほんのちょっと、それこそ1、2分逸らしたうちにまた誘拐された。
流石に、これ、コントじゃないよなと思ってしまった俺は絶対に悪くない。
そんなにポンポン誘拐されるもんなのかな…たしかあの街治安よかった筈なんだが…
そんな事が受験までの間に何十回とあった。
それについて何回許嫁を注意しても怖い目に合う前に俺が助けているからか、単純に何かのイベントだと思っているのか毎回攫われる。
一番びっくりしたのは許嫁がお手洗いに行くというので外で待っていたらいつの間にか誘拐されてた件だな。
あれについてはどうやって誘拐したのか全くわからん。
そして、受験の日がやってきた。
受験まで残り大体一年の時に、許嫁も学校に行きたいと俺に言ってきたので、誘拐される機会も無くなると考えた俺はニコニコしながら二つ返事でそれを許可していた。なので許嫁も一緒に隣の国にある魔法学校に向かった。
合格間違いなしだったが、初めての受験は物凄くドキドキした。
中3だったと言っても受験前に死んじまったから受験は受けてなかった。
結果は、二人揃っての合格だった。
合格したっていう達成感が半端なかった。
しかし、本当の地獄はこれからだった。
二人揃って合格したのはいいが、魔法を使えるのはそれなりに財力がある家がほとんどだ。理由は、魔法を扱えるようになるまで、それなりの魔法使いに魔法を教えてもらうのが当たり前だからだ。
俺の場合、魔道書を読み漁ってるうちにいつの間にか使えるようになってたから、そんな事全く知らなかった。
結果、容姿の優れた許嫁は毎日のように求婚された。
当然、俺という未来の花婿がいるので、許嫁はそれを断り続けた。
…結果、俺は友達ができるどころか求婚に失敗した男共に毎日のように闇討ちされるという地獄のような日々を味わった。
リアルで100斬り…いや、斬ってないけど、なんてやるとは思ってなかった。
いや、それだけだったら別に問題じゃ無かった。
俺は15歳までに大魔法使いに片足突っ込んだ程度には強くなっていた。
大体のやつは正当防衛を振りかざして撃退した。
しかしだ。相手が圧倒的なお偉いさんだったらどうする?
今からほんの少し前、この国の第3王子が許嫁に求婚した。
突然だが国が違えば文化が違う。それは分かるよな?
俺の国では求婚の際、指輪を渡すのが常識だった。
だけどここは他国、求婚の際の文化が全く違った。こっちでは求婚の際はハンカチと1輪の花を差し出し、それを受け取ったら求婚成功って流れだった。
それを知らなかった許嫁は…うん、受け取っちゃったんだよね。
そして第3王子はその前許嫁を連れて王城にレッツゴー!しようとしやがった。
それを阻止しようとした結果、今二至るってワケ。
回想終了
「王子様、今回の件はお互いに誤解があったって事で白紙に戻して、って危ねッ!」
かなりの数、スピードで飛んでくるバスケットボール大の火球を紙一重で回避しつつ、俺は第3王子に提案した。
てか王子様、殺す気満々じゃね?寸止めしてくれるよね?もし危なくなったら寸止めしてくれるよね?
「その女は吾の求婚を承った。つまり、お前はもう既にその女の許嫁ではない。」
デスヨネー、畜生どうにかしてこの状況を打破できねえかな…
そんな事を考えつつ魔法を構築する。
殺傷能力が低い水の魔法、その中でも扱いやすい初歩の魔法、水球を構築、発射までの工程を自動化、サファイア色に輝く魔法陣を数個展開、そこから水球が連続で発射される。
飛んできた何百という水球を見て流石に相性が悪いと考えたのか王子は即座に炎の射出を中断、エメラルドに輝く魔法陣を展開し、風の魔法に切り替えた。
台風レベルの強風を起こし、水球を全て撃ち落とされた。
…ジリ貧か……本当は人をこんなふうに扱いたくなかったけど仕方ねぇか。
「王子様、このままやりあった所で双方の誤解は解決されません。ここは1つこの国の伝統である決闘でどちらが婚約者として相応しいか決めませんか?」
「……いいだろう。決闘ならば正式に貴様の許嫁を奪えるからな。」
オイコラお前、正式にって事はこうなるってわかっててやりやがったのか!
第3王子の野郎は許嫁の身体、特に胸元を舐め回すように見たあと、決闘の日時を指定して立ち去っていった。
まぁ…ね?男なら許嫁の15歳とは思えないようなサイズの果実を貪りたいと思いたいって思うのは男として普通だとは思うが、そこまで露骨だと気持ち悪いな。
最後にボソッと「会場に仕組みを…」とか言ってんじゃねえよ。
正々堂々とやれよ!
王子様が指定したのは3日後に学園内の闘技場的な所。
この学園は国立なのでそれなりの設備が整っている。それに、王族も様々な行事を拝見しに来るので、各施設には特別席等もある。
俺の推測だが、王子様は残りの日にちを使って様々な人を呼んで、圧倒的な勝利と許嫁を手に入れるつもりだろう。
そうする事で、俺は言い逃れできず、絶望的状況に立たされ、泣く泣く許嫁を諦めるっていうとっても楽しいNTRが出来るわけだ。
ま、それは俺が弱い事が前提だが。
それに俺がこんなに可愛い許嫁を諦めるわけないだろ?
ん?それを許嫁に言ってくれって?
やだよ恥ずかしい。
それからあっという間に3日間が過ぎた。
到着した俺はすぐに控え室に通され、許嫁は別室に案内された。
その後すぐにとルールの説明があった。
肉体的ダメージを精神的ダメージに自動変換するというテンプレ結界が張ってあるそうで、ルールは武器の使用の禁止くらいだった。
そして今。
決闘場の中心で俺と第3王子の魔法戦が始まろうとしている。
会場は独特の熱気に包まれていて、雰囲気が似ていたのか、前世でいった野球の試合をふと思い出した。
「あの女は我が貰ってやる。安心して勉学に励むが良い。」
目の前でニヤつく第3王子が言った。……むかつく。
「大丈夫です。あの娘は私が守りますので、頭の弱そうな貴方こそ勉学に励まれてみては?」
やはりむかつくので軽く挑発をかます。
まぁ、この位じゃコイツは動じなさそうだが。
「言わせておけば…まぁいい。すぐにその生意気な口を我の炎で溶接してやるわ。」
…あれ?やっぱりコイツ、俺を殺る気マンマンじゃね?
「そこまで。」
俺達が牽制合戦をしていると、20歳過ぎくらいの男が仲裁に入ってきた。
こいつが多分審判なんだろう。
「両者、決闘をもってどちらが婚約者かを決定する!
試合開始はこの銀貨が地面に落ちた瞬間とする!」
と言った後、審判がコインを放り投げる。
妙に時間をスローに感じる。
俺はいつでも魔法を発動できる様に魔法陣を8割まで構築しストック、それを繰り返す。
そして…コインが落ちた瞬間、全てを発動するッ!!
………今だ!!!!!!!!!!!
コインが落ちたその数瞬後、第3王子の周りにデコイの魔方陣を展開、本命の魔方陣を隠すため、常時数を増やすように自動化してある。
あまりの速さに第3王子は数秒間フリーズする事だろう。
実際、魔法陣の展開式の途中なのに目を見開いて固まってるし。
その時間が命取りなんだよッ!
そして本命、白銀色の魔法陣を大量展開、属性は光、効果は超高熱の熱線の発射+色々なデバフ効果。
因みにデコイの魔法陣はただ単に発光するだけの魔法陣だ。
その魔法陣が王子を中心に180度展開する。
ここまで大体2.3秒。
「死なないらしいし、ちょっと実験台になってね♪」
王子様の顔が真っ青を超えて真っ白になった。
指を弾く。それを合図にすべての魔法陣が効果を発動、輝きだす。
デコイで展開した魔法陣が様々な色に光だし、神々しく輝く光の魔法陣が一斉に効果を発動!!!!
動かない第3王子様を大量の熱線で串刺し状態にする。
きっと王子様は何をされたのかもわからずに、高熱に焼かれる苦しみを味わっているんだろう。精神的に。
あとついでに口の所に熱線をかすらせといた。
肉体的ダメージになってたらあいつの口はしっかりと溶接されている事だろう。
あ、ここまで大体5秒くらいね。
「「「「「「……へっ?」」」」」」
会場中から聞こえてくる声が揃いすぎてて、笑いを堪えるのがめんどくさい。
てか、今ジンクスって言えば全くしゃべれなくなるんだろうなぁ…
まぁ、異世界にそんなルールはないだろうけど。
「………け、けっ、決闘終了……まさか第3王子様を破るとは…王子様は王族の中でも魔法の才能に恵まれていたのですが、いやはや…」
「うん!じゃあ、このあと予定詰まってるんで、お疲れ様でした!」
「アッハイ」
…やはり一度真面目に許嫁とオハナシする必要がありそうだ。
『キャラ設定』
主人公
元中3の厨二病患者。
本人は気付いていないが実は世界最強クラスの魔法使いになっている。
許嫁の事がなんだかんだで好き。
容姿は黒目黒髪の美少年。
許嫁
無自覚系美少女。
主人公の事が大好き。
毎回誘拐される理由は主人公が助けに来てくれるから、ただ、それだけ。
今作で台詞はないが、いつか許嫁視点で物語
を書いてみたい。
第3王子
巨乳好きのむっつりスケベ。
魔法の才能があり、チヤホヤされていたが、主人公に秒殺(死んでない)される。
容姿は金髪で緑眼、結構なイケメン。