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東方紅魔恋話  作者: 九重九十九
――――
6/7

 夢を視ていた。

 ベッドひとつがあって、そこ以外が真っ暗な世界。

 ベッドにはシーツに包まったおそらく裸であろうフランが眠っていた。俺も存外分かりやすい夢を視るものだ。夢の中で俺は後頭をガシガシと掻く。

 夢の中で寝るなんて不思議体験をするつもりはないのでベッドに入る気はないが、

「こんな夢を視るのも吸血されたからなのか」

「あらあら、あなたも分かりやすい夢を視るのねぇ」

「え?」

 声は真横から聞こえた。

 それはなんというのか、空間自体が歪んで目の形になったというのが俺の持ちうる表現で一番正解に近いと思う。

「なんですその顔は、ああ、もしかして夢との同調がまだ完全ではないのかしら。まあ、適当に繋げましたし、多少不具合があってもおかしくは無いのだけど」

 依然、目から声が聞こえる。

「まあいいわ。さて今日あなたにコンタクトした理由は分かるかしら?」

「何を言っているのか分からないし、夢に意味なんてない。だから俺はもう起きることにする」

「え、ちょっと待って!」

「じゃあな、目のバケモノ」




 目が覚めると、自分の部屋だった。徐々に昨日の記憶が思い出せてくる。

「そうか、着替えないで寝たんだったな」

 背広には多少しわが寄ってしまっていた。昨日咲夜さんはそのまま寝てもいいと言ってくれたけど、なんだか申し訳ない。

 とりあえずベッドから出てクローゼットを開く、中から新しいシャツと背広、ズボンを出す。次にタンスから下着類を取り出す。

(昨日は一日中寝てたのか)

 朝食食べてその後で図書館に寄って吸血されて、それからずっと半日以上眠っていた。その事実にやっちまった感が溢れてくる。

(割と寝汗かいちまったな、気持ち悪いけど夜まで風呂は開かないし仕方がないか)

 今は着替えだけでよしとしよう。

 ガチャりと唐突に部屋の扉が開かれる。

「同僚さん、生きてますかー?」

「キャ――――!!」

「よかった、まだ生きてるみたいですね」

「こぁちょっと待って! 今ちょっとアレだから割と部屋から出ていて早く!」

「? はぁ、いいですけど」


 というような騒動もあったが、なんとか着替え終わりこぁを部屋に迎える。


「はいはい、同僚さん昨日ぶりですね。ところでこの部屋イスは無いんですか?」

「のっけから遠慮がないなお前」

「それが小悪魔クオリティー、いやですね、普段はパチュリー様やレミリア様なんかにへこへこして、咲夜さんや美鈴さんなんかにも頭が上がらなくて、偉ぶれそうな妖精メイドも普段は図書館には寄らないじゃないですかー」

「なるほど読めてきたぞ、新人で人間な俺になら多少態度がアレでも問題がないとでも思ってるんだろう!?」

「ええ、その通りです! ふふ、なかなかいい考察をするじゃないですか同僚さん」

「いやいや、それほどでもない」

「さて、そろそろ食事にでも行きましょうか」

「え、あ、うん……」

 相変らずこぁは自分のペースだと思った。というか、こいつ、何しに来たんだろう。




 こぁと一緒に広間の食事処に行く。そういえば昨日もこぁと一緒だったな。

 広間について、昨日と同じようにお盆を持ってバイキングから食べたいものを見て回る。

「んー、なあこぁ」

「んー? なんですか同僚さん」

「造血作用のある食べ物ってなんだっけ」

「知らないですねー、そもそも種族が違うから同じものを摂取しても体に与える影響も変わってくると思いますし」

 そう言いながらこぁはトンクをパチパチ開閉させる。

「とりあえず肉食べておけばいいんじゃないですかね」

「とか言いながらナチュラルに俺のお盆に生肉入れようとするのをやめろよ!」

 こぁとはどうやら腕力は同レベルなようで、しょうもない攻防が成立する。

「こらそこ、何をしてるんですか!」

 騒いでいたら案の定誰かに怒られた。

「――って小悪魔さんと停止さん? 何をしているんですか」

 声の主を見ると、昨日の人だった。

 赤がかった髪、緑の中華服、龍の字が入っている帽子、長身の美人な人(?)。

「げっ、美鈴さん、おはようございます」

「美鈴――ああ、確かにそう呼ばれてたな」

 というかこぁお前、自然に『げっ』とか言うなよ。

「あれ、そういえば私停止さんに名乗ってませんでしたね。私は紅美鈴と言います、この紅魔館で門番をやってるんですよ」

「その割にはよく本が盗まれるってパチュリー様が言ってましたよ」

「うぐ、だって魔理沙さん強いんですよ!? 仕方がないじゃないですかー!」

「はいはい、負けた人はみんなそういうんですよ(私も勝ったことないけど)」

 ボソッとこぁが言った一言を俺は聞き逃さなかった。

「と、とにかく! お二人とも今から食事ですか?」

「ああ、そうだけど」

 俺がそう答えると美鈴さんは嬉しそうに笑った。なんとなくこの人は気軽に話せる気がする。

「そうですか! よろしければ一緒に食べても?」

「俺は構わないけど、こぁは?」

「断る理由はないですよ」

「だそうだ」

「ありがとうございます、あ、丁度あそこ席が空いてますよ」

「開いてるけどまずはお盆を取ってきてはどうでしょう」

「あっ、そ、そうですね、あはは~」

 こぁの一言に美鈴は自分がお盆も持たないで場所だけ確保しようとしていた事に気が付く。

「私はもうこれでいいので、席とっておきますよ」

 こぁはトンクに挟んでいた生肉をお盆に乗せて、美鈴さんが見つけた席に先に向かうこぁ。なんだかんだ言ってたが、美鈴さんにははやり気を使うらしい。

「あ、そういえば美鈴さん」

「はい? なんでしょうか」

「人間にとって造血作用のある食べ物って何があるか知りませんか?」

 聞かれた美鈴さんは一瞬ポカンとしたが、ややあってああなるほどみたいな顔つきになる。この反応で俺は美鈴さんも俺とフランの関係を知っていると確信した。

「そうですね、たまごとかはタンパク質に鉄分、その他いろいろなものが含まれて栄養補給面を考えると最高の食べ物だと思います。他にはほうれん草とか造血作用がありますね。しじみとかもいいんですけど、ここにはないみたいですね。他には単純に牛肉とかもいいですね。そうそう、肉と言えば豚レバーが鉄分ミネラルビタミン類などがかなり含まれておりお勧めですね」

 そう言いながら美鈴さんはトンクを取って俺のお盆に次々と乗せていく。

「はい、これで健康的な食事になったと思います」

「あ、ありがとうございます」

 美鈴さんはチラリと周りを見てから俺の耳元に口を寄せる。

「これからあなたの食事は妹様にも関係してきます、くれぐれも健康に気を付けてください」

 不意な動きに吃驚してしまう。

「さて、私も自分のお盆を取ってきます、停止さんは小悪魔さんのところで待っててください」

 美鈴さんは足早にお盆を取りに行った。

「……そうだよな、これからはしっかりしなきゃ。とりあえず、こぁの所に行こう」



 それから五分後、山盛りのご飯と大量のおかずをありったけ乗せたお盆を持って美鈴さんが俺とこぁがいるテーブルに着いた。

「美鈴さん、朝からよく食べられますね」

「小悪魔さんこそ、生肉だけってきつくありませんか?」

「人間の意見を言うと、朝からそんな量食べるのも、生肉を齧るのもあり得ないんですけどね」

 このテーブルは他と比べると割と異質だと思う。人間と悪魔と(多分)妖怪と三種族が一堂に会している光景は、人里ではなかなか見られるものではなかったし。

「だいたい、私は思うんですけど人間はそもそも食べる量が少ないと思うんですよね、でもその割には霊夢さんや魔理沙さんは人間にあるまじき強さを持っているじゃないですか、あれ絶対おかしいと思うんですよ」

「あとウチのメイド長も頭おかしいくらい強いですよね。ああ、そうそう、咲夜さんと言えば、私同僚さんに伝言頼まれてたんでした」

 こぁがうっかりといった表情をする。

「え、なんだよ伝言って」

「同僚さんを起こしたら、レミリア様の部屋にくるようにって…………」

「おい、こっちを見ろこぁ」

「い、いや、きっとレミリア様は我々下々の者にきっとお慈悲をくれるに決まっています。だからきっと大丈夫です。とりあえず食事を続けましょう」

 上司の命令忘れてたくせにこの神経の図太さは並じゃないと思った。見習いたいとは思わないけど。

 なんてげんなりしてたら、こぁの目の前に無数のナイフが突き刺さった。

 ツカカカカンッ! 木製の机にナイフが突き刺さる。

「小悪魔、お嬢様はお怒りよ?」

「――ひぃ!」

 いつの間にか、咲夜さんが座っているこぁの後ろに立っていた。

 そしてすぐ近くには、ああ、不機嫌そうなレミリア様までいらっしゃった。

「お前がパチェの物じゃなければ首を落とそうと思ったわ。停止、今回お前は全く悪くないが、私は虫の居所が悪い。何も言わずについてこい」

 レミリア様はそう言った。

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