5.近い
「なにか・・・出てくる?」
ギィィィィ・・・・
そして、開いたドアから、俺たちが今まで心の中に持っていた希望というものを失いぐらいのものが、目に飛び込んできた。
「うわぁぁぁぁぁっっ!!」
「宗太、逃げっぞ!」
「ったりめぇ!それ以外に何がある!」
すぐに走り出す。
「うしろ、追っかけて来てっか?」
「バカ、そんなン見れるかよ!」
でも、確かにわかる。
奴の、足音が。
ダッ、ダッ、ダッ。
明らかにいる。
すぐ後ろに。すぐそこに。
(本気デ走レ、デナイト死ヌ)
「ッハァ、ハァ、疲れた・・・宗太っ・・・?」
居ない。
宗太がいなくなったのだ。
そしてあの化け物も。
またあの、入った時のように。
「おい、いるんだろ、宗太、宗太!」
『バンッ、バンバンバンバババババ・・・』
左側のドアが、少しずつしまっていく。
(あそこか!)
すぐに走り出す。
どこにいる、宗太、あいつ、まさか化け物の・・・
ギィ…
「おい、宗太、いんのか?」
・・・
返事はない。
もちろん、宗太の影一つ見当たらない。
さっきまで、一緒に走っていたはずなのに。
「ったく、どこにいっ・・・」
『ガランゴロン』
「宗太!?」
音のするほうへ走り出した。
下手したら奴かもしれない、そんな考えなど、頭の隅にも無く。
「そっ・・・宗太!!」
そこには宗太がいた。
倒れて、震えながらこっちを見ている。
「バッ・・・化け物はどこに!?」
「あいつ、いなくなったんだよ。」
この顔を見ると、冷静さを失っている。
何があったかは知らないが。
「なにがあった、宗太、説明してくれ。」
「奴は!どこだ!ここに来る前に見えなかったか?」
「いなかったよ。」
「今はっ!細かいことなんて話してる暇ない!逃げよう!出口を見つけて・・・」
「わかった、とりあえずそうしよう。どっか隠れる場所を見つけなくちゃ。」
「なんなんだよ、さっきの、すげぇ顔してて、足はぇぇの。」
「だな。」
けど、健二の眼には、今の言葉とは明らかに反対のものが見えた。
「でも、さ、宗太。」
「?なんだよ。」
「あいつ、足、無かったぞ。」
「!!・・・あ、足が?」
「うん、無かったぞって・・・」
「どうやって走ってんだよ。」
「何でここにいんだろな。」
『ドンドンドンドン!』
「っ!」
「来たか!」
入り口から入ってすぐの、ホールから、こちらの部屋に向かってノックの音。
確実に奴だ。
「どうする、いずれドア、開けられんぞ。」
「だな、けど・・・」
「どっかにほかの通り道、無いか?」
「どこだろう。」
「もう無理だよ、どこにもない、出口が。終わりだ。」
この部屋は、なんて言ったらいいんだろう。
職場――――――――――
そんな感じがする。
仕事机が一つと・・・本棚がある。
この建物は会社だったのかもしれない。
懐中電灯をそちらにまともに向けている暇はない、非常事態だから。
「じゃあ!そこの机の下に!」
思い切って言ってみた。
「なっ、机の下!?見つかるよ!健二!!」
「ダイジョブだ、息殺して、音立てなければ!」
「そういう問題じゃ・・」
「今は考えてる暇ねぇって!!」
「・・・」
『ダンダンダン!!』
ノックの音は大きくなっていく。そろそろだ。
「大丈夫か?健二。」
「ああ、音、ぜってーたてんなよ。」
「おう。」
『ダダダダダダダ!!』
「・・・・っ!」
『ダダダンダダダン』
(頼む!)
『ダァァァン!!』
開いた、壊れた。
とうとう来た。
このまま見つかれば、なんて言うか・・・
死ぬ確率は大だ。
(きづかないでくれっ!)
『・・・・・』
この時間は、今までの怖かった経験を吹き飛ばすほどの恐怖だった。
けど、奴の足音は、さっきはあったはずだ。
なら、今はなぜ?
宗太が動いた。
そのとき。
そのときだった。
『ピリリリリリリリリリリリリリリリ』
「っっ!!!?」
宗太の携帯の、着信音だった。
母が宗太の帰りが遅いので、心配で電話を掛けたのだ。
『リリリリリリリリリリリリリリリ』
(早くッ、止めろ!!)
そう願っても無駄だ。
奴の耳には、その音が鳴ってる場所、音量、近くのもの、いる名が人間かどうかなどの音が入り、確実にこちらに向かってくるだろう。
(死ヌ!コノママジャ、見ツカッチャウヨ)
願ったって。
どんなに祈ったって。
このことはしょうがない。
逃げるなんて、不可能・・・か?
どうなんだ?
死なないで済む方法は…無いのか?
何も残せなかった!
何の成果もなかった!
(クッソォォォォォォ!!!)
ギィ…
机の・・・。
椅子が動いた。