3.覚悟
宮木家。
「いつだっけ。」
「10月12日。」
「おい、マジで行くのかよ。」
「行くに決まってんだろ。」
一枚の地図を眺めながら宗太が呟いた。確かに、普通は行かないな。
「死んだやつ何人もいんだぞ、それでもお前…」
「行けばわかる。そんなの嘘だし、そん中に奴がいんのは事実だから。」
信じられねぇ、何で行くんだなどとぶつぶつ言いながら、宗太はやっと一つだけ意見を出した。
「なぁ、死んでるってのがデマなら、奴がいるってのもデマじゃあないのか?」
そうかも。と思ってしまった。
が、ここで引き下がんのもどうかと思った。
「だから、俺らが証明しに行くんだろ。」
「・・・なるほどなぁ」
ここは宗太の家。
ここで宗太と一緒に、あの計画を練っていた。
すべてが謎に包まれたあの廃墟へと足を踏み入れる。
その第一歩を踏み出していたのだ。
そして今日は『10月の11日』。
そう、明日である。
どんなに恐怖があったって、どんなに覚悟があったって、明日はやってくる。
容赦の一つもなく――――
「じゃあさ健二、廃墟の中で化け物に会ったとする。どうする?」
今度は真剣な顔で質問を仕掛けた。
「どうするって・・・逃げるじゃあダメか?」
「ダメなんてない、逃げるんならそれでいい。」
「そうかよ。」
「・・・」
そのとき、5時のチャイムが鳴った。
二人が住んでる町では、季節によって、チャイムが鳴る時間が変わる。
春と夏だと6時に。
秋から冬にかけては、5時になる。
それぞれ日の長さによって、時間を変えているということだ。
そこら辺の家族は、このチャイムで家に帰るよう指導することが多い。
島田家も、その一つだ。
「んじゃ、オレ、そろそろ帰る。」
「お、おう。じゃ、明日な。」
「物とか・・・その、忘れんなよ。」
「うん。」
そんじゃ。と言って家を出た。
もう暗い空をぼーっと見ながら、ぶらぶらと歩いていた。
(勇太・・・)
帰る途中でそんなことを何度も考えてしまった。
あんなことがあった直後だ、それもそのはずだろう。
家に帰ると、母がいなく、置手紙があった。
『仕事が長引き、6時までになりました。夕飯は帰ってから作るから、待っててね』
わざわざ置手紙までするのだが、こんなことはしょっちゅうあり、父も帰りが遅いので、一人には慣れている。
次の日の準備をしている途中、電話が鳴った。
番号を見ると・・・
(勇・・・太?)
なぜか清水の家から電話がかかってきた。
親が何か話を持ち掛けてきたか。と思い、出てみた。
「はい、島田です。」
{あ、もしもし、健二?}
(!?)
その声は紛れもない。
勇太の声だった。
「え・・・?勇太か?」
{健二、死ぬぞ。}
「・・・は?」
『プツッ』
「・・・?」
そのまま電話は切れてしまった。
(死ぬ?何のことだ??)
「っっ!?」
頭の中に、一つだけ、あれが過った。
『西堂館。』
勇太の事件もあり、電話での忠告もあった。
これは、相当の覚悟が必要になるか。
そして、母が帰宅した。
「あら、やっぱり帰ってたのね。お帰り!明日は、予定、あるの?」
「・・・」
黙ってしまった。
なんだろう、すごい意味に残る。
『死ぬ』って言葉が。
「あるよ、ちょっと、宮木君と出かけてくる。」
「そうなの、昼、そっちで食べる?なら、お金、渡すけど。」
「あの・・・夜、なんだ。それ。」
「夜?遅くまではいないでね。お金はいらない?」
「うん、大丈夫。」
「あ、そう。じゃ、夕飯作るわね。」
そして夜は、ちゃんと寝れなかった。
理由は、言うまでもない、気になって仕方がないのだ。
相当な覚悟がいる、けど、行くのをやめない。
なんなんだよ、これ。
寝れない自分と闘いながら、やっとのこと夜が明け、『10月の12日』が来た。
午前中と昼間は、のんびりとしたかったところだが、学生としての義務を果たさなければならない。
塾の補修があり、それに4時間も持っていかれた。
弁当まで持たされて。
そして帰ってきて、準備の確認をし、身支度と夕飯を済ませた。
もちろんこの時も、冷静且つ落ち着いてはいられなかった。
そして、予定表に書かれている、8:30の文字をもとに、8時に家を出た。
自転車のカギをさし、漕ぎ始める。
スピードは出ているが、足が震える。
そして、待ち合わせのコンビニに、目を通した。
そこにもう宗太はいた。
健二がそこについたことに気付いた宗太は、近くに来てから、普段は聞いたこともないような、震えた声でこう言った。
「おぉ、来たか。まずあれだ、気をつけろよ、でないと・・」
「?」
「死ぬぞ。」
秋の夜。
この日はいつも以上に、寒い気がする。