◆プロローグ◆最低な出会い・・・
うっそうと樹木や草花が生茂る森の中。
輝く月が照らす、湖の畔と湖の中で一組の青年と少女が見詰め合っていた。
はたから見たら、恋人達が見詰め合っているかの様にも見て取れるこの状況。
しかし、この状況を見た者にいくつかの条件を教えれば、見る目が変わるだろう。
一つ目の条件は、青年と少女は恋人同士ではなく、この場が初対面だと言うこと。
そして二つ目は、一つ目の条件をふまえて考えてみてほしい。それは、彼らの服装である。
青年の方は、黒のパーカーに青のジーンズ。靴は、白と黒のスニーカー。左右の手には、オープンフィンガーグローブ。まぁ、はっきり言って普通の服装だった。
一方の少女はと言うと・・・なんと言うか、水浴びの真っ最中だったのだろう。肌の色が少し多めだった・・・いや、その言い方は語弊があるかもしれない。なぜなら、少女はその身に一切の服を纏っていなかった為に・・・『裸』なのである!!
どうだろう、はたから見れば恋人達が見詰め合っているようにも見えたこの二人。
こうして、二つの条件を加えると見え方がだいぶ変わってくる。賢い読者さん達なら、もうお気付きになっただろう?
そう、あえてこの状況を説明するならば!『少女の水浴びを――覗いた?見た?まぁ、この際どちらでもいい――加害者』と『水浴びを覗き見されたどころか、思いっきり裸を見られた被害者』がお互い固まって、見詰め合っていると説明できるのである!!
そんな長い沈黙の中、青年は必死に頭を回転させていた。
(やばい、やばい!何がどうなってる!?俺はただ、今日野宿する為に湖を探していただけなのに!運よく見つけた湖で、俺より身長も年齢も低そうな少女が水浴びの途中!マジかよ・・・でも、このまま黙っているのは気まずい。なにか、何かを言わなければ・・・でも、何を!なんて言えばいい?と、とりあえず謝ろう!それしかない!!謝ったら、素早く逃げよう。)青年が、このことを考えるのに費やした時間は僅か、三秒。
そして、青年は考えたことを行動に移す!
「ご、ご・・・ご馳走様でした!」っと。
瞬間、青年は己自身を呪った。謝ろうとして、口から出た言葉がまさかの「ご馳走様でした!」である。謝って逃げればうむやむにできたかもしれないのに、まさかの感謝の言葉である。これでは、自分は、自分よりも年齢が低いであろう少女の水浴びを見て、喜んでいるただのロリコンではないか!
青年がそんなことを考えているさなか。少女の方にも変化があった。顔が一瞬にして真っ青になったかと思えば次は、真っ白になり最後には真っ赤に染まった。
そして、何か言いたそうに口を開けたり閉めたりを繰り返す。
その動作に、硬直していた青年の動きが戻り・・・少女が何かを言う前に、今一度、謝罪の言葉を口にする!
「お前の肌・・・けっこう綺麗だな」
またしても、青年は自分を呪った。今度こそ、今度こそ!「ごめんなさい!」と言うはずだったのに!なんで、自分は相手を褒めているんだ!?
そんな内心パニックになっている青年のことなど、露知らず。少女は、少し高い声色で・・・
「へ」と言った。
そして青年は、つい。本当につい、「へ?」と聞き返してしまった。
そして少女は、大きく口をあけて「へ、へ、変態ぃぃぃぃぃぃぃ!?覗き魔ぁぁあぁ!」と青年を指さし叫んだ。
「ご、誤解だ!俺は、変態でも覗き魔でもない!断じて違う!!」青年は全力でそれを否定する。
だが少女は、聞く耳を持たず・・・
「うるさい!この変態!覗き魔!あんたなんか、死んじゃえぇぇえぇぇ!!というか、私が殺すぅぅぅぅぅ!」と、とんでもなく物騒なことを血走った眼で青年を睨みながら言い、少女は自身の左手で大事な部分を隠しながら湖の中に座り込み、右手を掲げて、『呪詛』を口にする。
「我の右腕に宿りし、双炎の炎を持つ者よ!今こそ馳せ参じ我に力を貸せ!!呪刻召喚『エル』!」
それを呆然と見ていた青年は、驚愕した。
「まさか、『契約者』!?」
『契約者』とは、限られた人にしかなれないものなのだ!
『契約者』の説明をなぜか脳内で、行っていた青年の前――少女の前でもある――に炎で大きな蛇が描かれた『紋様』が出現した。
そして、その紋様からまさに『紋様』に描かれていたナーガが姿を現した。
「お呼びですか?主よ」
そのナーガは、女性だった。身長は、青年と同じくらい。髪型は、後ろに伸ばしており腰くらいまである。そして、ところどころが刎ねていた。そして、上半身を隠す赤い布の下からのぞくのは、これまた赤い蛇の鱗。ここまで見れば、俺たち『人類族』と違うのは鱗があるかないかだろう。だが、殺気や存在感などがリラリティではないと告げている。
「エル、こんな時間にゴメンね?実は私、そこに突っ立っている青年に裸をまじまじとたっぷり見られたの!しかもあいつは、謝るどころか『ご馳走様でした』とか抜かすのよ?というわけで、あいつを殺すの手伝ってくれる?」
「了解しました。女性の裸を見ておきながら、謝罪の一言も言えないような変態さんにはお仕置きが、必要のようですね?私も女なので、こう思います。彼は、全ての女性の敵であると!」
そこまでの会話をただ茫然と聞いていた青年は、焦りながら弁解した。
「おい!ちょっと待ってくれよ!これは、完璧な誤解なんだって!落ち着いて話し合えば、分かり合えるから!!」
「うっさい、黙れ!この変態!!エル、『契約武装』!」
「了解いたしました」
さっきのナーガ――エルと言う名前らしい――が少女の掛け声とともに、一本の剣に変わった。
これは、『契約武装』と言って、テイマ―専用の呪文。
『契約種』となった他種族を自分にあった武器に、変身させる呪文だ。
だが、この呪文は『契約種』との信頼関係がなければ、失敗する。
また、信頼関係があっても両者の実力がないとちゃんとした、武器の形にならない。
例えば、契約武装が剣だとする。だが、使用者の実力が不足していたため呪文は失敗。そうすると剣の形をした残像のような物ができる。
その点、少女の契約武装はしっかりとした物だった。
「ふふん。驚いたかしら、変態さん?私の剣『双炎の蛇剣』よ。さぁ、大人しくこの剣の餌食になるの、よっ!」
少女は、剣を鞭のように振るってきた。すると、剣の刀身が鞭のごとく伸びてこちらに向かってくるではないか!!
「ちょ!マジかよ!?」
青年は、それを紙一重で躱す。
「ちょっと!避けんじゃないわよ!」
「無茶、言うな!あんなのくらったら、死ぬわ!」
「何言ってんの!?あんたを殺す為に、やってるんだから!大人しく、くらいなさい!」
そう言い、なおも剣を振り回す少女に対して、青年はずっと気にかかっていたことを言う・・・もちろん攻撃を躱しながら。
「お前、さっきからちゃんと隠しきれてないぞ!」
「何を、よっ!」
「大事な部分をだよっ!」
青年は、少女の体を指さす。
「へっ?」
少女は、間抜けな声と共に下に視線を下す。
すると、どうだろう。さっきまでは、しっかりと隠れていた色々なものが攻撃の激しさが増した今、しっかりと隠しきれていなかったのである!
少女は、顔面を再び真っ赤に染めると、「きゃぁあっぁああああぁぁ!!」と叫び、契約武装を手放した。
だが、その手放し方が悪かった。
少女の手から離れた、剣は回りの樹を草を見事に切り刻みながら真っ直ぐと、少女に落ちていく。
しかし、少女はそれに気が付いていない。
「あんの、バカ!」
青年は、そんな少女に向かって跳躍し、少女の体を押し倒した。
「ちょっ、ちょっと。いきなりなんなのよ!?」
だが、少女の質問に答える前に青年は背中から襲ってきた、痛みに意識を刈り取られ闇に落ちていった・・・