お誘い
そんな風に話しながらでも仕事を続けていると、いつの間にか予定以上の量を作っていて、気づいた時には二人して笑ってしまった。
「アーサー、お腹はすいていない? 力仕事任せちゃったし、よかったら何か作るわ」
「あれくらい何ということでもないさ。…………ああ、せっかく二人なのだから、酒でも飲まないか?」
「お酒?」
思わずおうむ返しした瑞希にこくりと頷く。
話を聞くと、少し前に買ったものがあるらしい。珍しい果実を使った酒らしいと言われて、瑞希も興味をそそられた。
件の酒はアーサーの部屋にあるらしく、それを取りに行くと、子供達が来てからは使っていないはずだというのに不思議と清潔さがあった。空気も、埃っぽさがない。
不思議がっている瑞希に気づいたアーサーが「掃除くらいするさ」と冗談めかして笑った。そうして棚に置いてあった瓶を掴み、リビングでいいかと問う声に、瑞希はひとつ提案してみた。
「ここじゃ、だめ?」
伺うように見上げた瑞希に、アーサーは驚いたように目を見開き、動きを止めた。は、と開きかけた口から空気だけが溢れ出る。
固まったアーサーに、瑞希は恥ずかしそうに言葉を続ける。
「その……私、あまりお酒に強くはないから。階段、上がれなくなっちゃうかもしれなくて……」
「あ……ああ、そういうことか」
そう言われれば、確かにそうだったとアーサーも少し前のことを思い出した。
初めて妖精達の集落に連れて行かれた日。祝宴だと盛り上がる雰囲気のせいもあったのだろうが、瑞希はワインを数口飲んだだけで酔っ払っていた。
果実酒だからそこまで強くはないだろうが、念には念を入れた方がいいだろう。アーサーは二つ返事で了承した。
「じゃあ、ここで飲もうか。グラスを持ってくるよ」
「あ、私持ってくるわ。スモークチーズがあったはずだから、それをおつまみにしましょう」
言うが早いか、瑞希がひらりと身を翻してリビングへと向かった。
ぱたぱたとスリッパが廊下を叩く音が階段を下りる音に変わる。その足音さえ聞こえなくなったところで、アーサーはゆっくりと息を吐き出した。
冷静さを欠いていた。失敗したかもしれないと、そう思ってももう遅い。
さっさと諦めた方が身のためだと自分に言い聞かせてゆっくりと部屋を見渡すと、アーサーは眉間に皺を寄せた。
この部屋には椅子もクッションも置いていない。自分一人なら床に座ってもよかったが、瑞希も一緒なら話は別だ。冷え性なのか自分より体温の低い彼女には、床の冷たさは厳しいだろう。深夜ならなおさらだ。
自分の部屋のついでに子供部屋も掃除していたが、ぬいぐるみは山のようにあってもクッションを見かけた覚えはない。代用するには形も悪いだろう。
ふむ。思案を巡らせたアーサーはひとり頷いて、階下へと足を向けた。




