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よくわからないもの

 家に帰ってからすぐに瑞希はキッチンに立ち、作っておいた昼食の温め直しに取り掛かった。

 対してアーサー達はモチを風呂場へ連れて行き、砂埃などの汚れを洗い落とした。ずっと外にいたにしては毛並の良さを保っていたが、洗った後はいっそうもふもふ感が増した。

 子供達はとにかくモチに夢中で、昼食を食べ終わってからもずっとモチを構って戯れている。

 それを微笑ましいと見守りながら、瑞希は使い終わった食器を片づけていた。

 しかし、瑞希の小柄な体格ではどうしても思うようには捗らない。瑞希は目の前の棚を睨み上げた。

 何かを高いところにしまう時、いつもはルルに頼んで魔法でしまってもらっていた。しかし今、ルルは双子と楽しそうに遊んでいる。せっかくの時間を邪魔をするのは気が進まない。


 (とりあえず、背伸びで挑戦してみよう)


 片手は皿を持ち、もう片手で棚を支えにして上に伸び上がる。爪先立ちになってもみるが、後ちょっとが届かない。

 不意に、持ち上げていた皿が急にふわりと消えた。


 「何かあるなら呼んでくれ。見ていたこっちが驚いたぞ」

 「あ、アーサー」


 耳元で、アーサーの声がした。

 アーサーはそのまま瑞希の後ろから腕を伸ばし、皿を目的の場所へと収納した。


 「ありがとう、助かったわ」


 くるりと振り向くとアーサーは思っていたよりも近くにいて、彼の胸にぶつかりそうになった。

 驚いて後退(あとずさ)ると、背中が棚にぶつかった。


 「大丈夫か?」

 「ええ。ちょっとびっくりしただけだから」


 だから大丈夫、と答えると、アーサーは何を思ったのかじっと瑞希を見下ろした。瑞希は不思議そうに見上げるが、沈黙の表情から意図は読み取れず、どうしたらいいのかわからない。

 どうしたの、と声をかけようとするより先に、アーサーの手が瑞希に触れた。


 「あ、アーサー……?」


 瑞希の目が戸惑いに揺れる。棚とアーサーとに挟まれた狭い空間で、所在なさげに体が揺れる。

 何だろう。わからない。けれど、今すぐにでも逃げ出したい衝動に駆られていた。

 アーサーは瑞希をじっと見つめた後、(おもむろ)に体を離した。


 「他に、片付けるものはあるか?」

 「ぁ……ううん。大丈夫、ありがとう」


 瑞希が答えると、アーサーはすんなりと頷いて、何事もなかったかのように子供達の所へと戻っていく。

 瑞希はその背中を見送りながら、何だったのだろうかと胸が騒ぐのを感じていた。


 「怖かった、のかな……」


 口に出してはみたが、どうにも違う気がする。恐怖とは違う、何か。

 正体がわからず頭を悩ませる瑞希のもとに、ぱたぱたとルルが飛んできた。


 「ミズキ、少しだけモチとお昼寝してもいい?」

 「勿論よ。タオルケットと……枕は必要?」

 「モチが枕よ!」


 楽しそうにルルが笑う。家族になっても毛玉枕は健在らしいと思わず笑ってしまった。

 子供達の方を見てみると、二人してモチに頭を預けてお昼寝準備は万端のようだ。アーサーはさすがに入れないようで、クッションを枕代わりにしている。


 「おやつは冷蔵庫にあるから、ちゃんと食べさせてね」

 「もっちろん!」


 任せなさいと胸を張って、ルルは双子の元へと帰っていく。

 ルルにとってはモチは毛玉布団らしい。定位置とばかりにモチの背中に横たわった。

 ふわふわの毛並みに埋もれるのはとても気持ちよさそうで羨ましいが、大人の枕役はかわいそうだろう。

 けれど、もしかしたら子供部屋が使われる日が来るかもしれないと、そんなことを思った。

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