手繋ぎの弊害
アーサーがモチを抱え、その肩にルルが座る。瑞希は子供達と手を繋いだ。
モチを歩かせないのは、モチの歩く速度に合わせていては何時間もかかってしまうからだ。
初めは子供達が抱っこすると主張したのだが、大きさの問題で却下された。
それにしても、無愛想なアーサーと見るからにファンシーなモチの取り合わせは中々に笑いを誘われる。ルルが加わればなおさらだ。
そしてそれを自覚しているからこそアーサーはいっそう仏頂面をしていた。
「アーサー、変わりましょうか?」
精神的に疲れただろうと思って声をかけると、アーサーはふるりと首を横に振った。
責任感からか、それとも自暴自棄になっているのか。
じぃっと見つめていると、アーサーはきょろきょろと居心地が悪そうに視線を逸らし、ついには顔を背けてしまった。
「パパ、どうしたの?」
間に挟まれていたライラが無垢な瞳でアーサーを見上げる。
アーサーは何も答えない。相変わらず顔は背けられたままで、表情を伺い見ることはできなかった。
ひょっとして、気を悪くしてしまったのだろうか。マジマジと見すぎたのかもしれない。
「あの、ごめんなさい、アーサー。不躾に見てしまって……」
「いや、ミズキが悪いわけでは……これは、その……ああ、とにかくだな……」
大きな手が顔を覆う。指の合間から見える肌の色は、いつもよりも赤らんでいるように見えた。
「なぁに、アーサーったら。照れてるの?」
くすくすとルルが悪戯に笑う。指の隙間からアーサーが睨みつけても、顔が真っ赤だからか迫力は感じられなかった。
「毎日同じベッドで寝てるっていうのに、なぁに、いまさら」
ねぇ、そう思わない?
ルルは瑞希に同意を求めたが、瑞希も改めて意識させられてしまって答えられず、熱を持った顔を隠すように俯いた。
「わぁ、母さんも顔真っ赤だ」
「言わないでよぉ……!」
瑞希は顔を隠そうとしたが、子供達と手を繋いでいるからそうもいかない。俯いて隠そうにも子供達の視点からでは見やすくなってしまうだけだ。
瑞希は救いを求めてアーサーを見た。
アーサーは驚いていたが、目が合うと首元まで真っ赤にして、困ったように瑞希を見返した。
ルルとカイルが楽しそうに笑う。ライラだけはいまいちよくわかっていないようだったが、二人の様子を見て良いことと判断したらしく、嬉しそうにはにかんだ。
「こら、大人をからかうな」
一足先に落ち着いたらしいアーサーが窘める。こつんと小さく小突くと、「ごめんなさぁい」といかにも反省していない謝罪が返ってきて苦笑した。
「あんまり悪戯ばかりしていると、おやつが無しになるかもしれないぞ」
「ええっ!? やだやだっ、ごめんなさぁい!」
カイルが慌ててもう一度謝る。そのあまりの慌てように、今度は瑞希も堪らず吹き出した。
「ありがとう、アーサー」
こっそりと耳打ちすると、アーサーは否と小さく首を振った。
「嫌な気はしていないからな」
ふ、と。ほんの一瞬にも満たない時間浮かんだ、淡すぎる微笑。
瑞希は思わず足を止めた。
「? ママ?」
「母さん、どうかしたの?」
左右から子供達に覗き込まれて、瑞希ははっと我に返った。
何でもないよ、ともう一度足を動かすが、それは嘘だと自覚していた。
(…………びっくり、した……)
驚いたからだ。心臓が落ち着かないのは。彼が、アーサーが、あまりにも優しい目をしていたから。
美形の微笑は心臓に悪い。行き場のない感情を胸に抱えながら、瑞希はただ先を行くアーサーの背を見つめた。




