そういえばここは……
そんなやり取りの後もしばらく歩き続けていると、ようやく奥の方から何かの声が聞こえてきた。
よく耳をすますと、子供達の笑い声に、何か別のものが混じっている。
「こっそり動物でも飼ってるのかしら?」
「この辺りなら鳥か、犬、猫、……うさぎもあり得るな」
とりあえず危険な動物ではないだろうというアーサーに、それもそうだと胸をなでおろす。
そもそも、ルルが一緒にいて弟妹を危ない目に合わせるはずもないのだ。
しかし、少しだけ、残念に思う気持ちもある。
「飼いたいならそういえばいいのに」
牛や馬だっているのだから、今更小動物が増えたところで何ということはない。もしそう強請られたら快く承諾するつもりでいたのに。
拗ねたように口先をとがらせると、アーサーが困ったように笑った。彼は子供達寄りらしい。
「それなら、直接そうと言ってやればいい」
言われても分からないことがある。言われなければ余計分からない。
反論のしようも無く、瑞希は肩をすくめた。
程なくして、人影が見え始めた。話している内容もよく聞こえる。
「モフモフ……」
「んー……毛玉枕だぁ……」
気持ちいい、と声だけでわかる。しかし草木が邪魔をして、何と戯れているかまでは見えない。
魔が差して、瑞希は足音を忍ばせた。しーっ、と指を唇に押し当てて合図すると、アーサーは苦笑いしながらも頷いた。
こっそり、こっそりと近づいていく。まだ、姿は見えない。やはり小動物のようだ。
覗けばなんとか見えそうなところまて近づいた。木に手をついて、背伸びして覗いてみる。その上からアーサーも覗いた。
小さな頭が二つ、白い何か埋もれている。モフモフ。ふわふわ。毛玉枕。なるほど、確かにそうだ。
「〜〜〜〜〜〜〜っっ!!」
瑞希は声も無く悶絶した。ぎゅうっと力いっぱいアーサーの服を掴んで、そわそわと落ち着き無く子供達とアーサーとを見比べている。
隠れるということが頭からすっかり抜け落ちて、ルルが目ざとく二人を見つけた。
「あら、アーサー? それに、ミズキも」
何してるの? と毛玉からぴょこりと起き上がり、二人の元へ飛んでくる。
アーサーが手のひらを差し出すと、ルルはそこに着地した。
「ルルル、ルル……!どうしよう、どうしようアーサー……!」
子供達が……!と半狂乱に陥った瑞希に、寝そべっていた毛玉がぴょっこりと長い耳を動かした。
ぱっちりとつぶらな目。触れずともわかる美しく柔らかな毛並み。もっちりとした体躯の小型犬----くらいの大きさの、何か。
雪うさぎをそのまま生き物にしたような、ファンタジー系漫画の中に登場しそうな可愛らしくも不思議なフォルムの生き物。
「カイル、ライラ!お迎えが来たわよー」
「ん……あ、母さん。父さんも」
毛玉枕から顔を上げたカイルがひらひらと手を振る。
くあり。子供達に懐かれながら、その丸い生き物は呑気に欠伸した。




