遊び盛りもいいけれど
指輪をもらってから、ちょっとした変化があった。
「カイルー、ライラー、ルルー」
朝ごはんだよー、と少し間延びした声で子供達を呼ぶが、待ってみても返事はない。店や薬草畑を見に行っても目的の小さな姿は見当たらず、またか、と瑞希は困ったように肩を竦めた。
指輪を貰ってから、子供達は三人でいろいろなことをするようになった。
例えば、朝の商品補充は最早完全に子供達の仕事だ。力仕事もあるだろうとアーサーも参加しようとするのだが子供たちに追い返され、憂さ晴らしなのだろうが薪割りに精を出し過ぎるものだから、そろそろ注意しなければならない。
薬草畑の水やりはルルが魔法でしてくれるし、動物達の世話も小さい体を駆使してしっかりやってくれるので動物達は子供達によく懐いている。
ただ、それとは別に、何かをしているようだと瑞希は推測していた。というのも、外に出ることが極端に増えたのだ。
せっかくの自然豊かな環境なのだから、遊びに行くことはもちろん良いことだ。怪我の心配はあるが、それも子供には付き物。楽しく元気にしてくれればそれで良い。
それでも気になってしまうのは、必ず何か食べ物を持っていくからだ。朝ご飯を食べてすぐに出かける時でさえ、果物だったりパンだったりを持っていく。そして、お昼時にお腹をぺこぺこに空かせて帰ってくるのだ。
「アーサー、今いいかしら?」
馬の手入れをしている彼に声をかけると、返事こそないものの彼の目が瑞希に向いた。
愛馬の鼻面をひと撫でしてやって小屋から出てきた彼に子供達のことを知らないかと聞いてみると、彼は暫し悩んだ後首を横に振った。
「森の中に入って行くのを見たきりだ」
「…………それ、知らないとは言わないわよ……」
「何処に行ったのかは知らない」
だから知らない、と言い切るアーサーに言いたいことはあるが、今はやめておく。
とにかく、いつもお昼時には帰ってきていたのに、まだ帰ってこないということは初めてのことだった。
瑞希としては、子供達は隠れて動物を世話しているのではないかと予想している。自分も子供の頃に家族に内緒で子猫を育てていたことがある。
「ちゃんとお世話できるなら、飼っても別にいいのだけど……」
「言い出しづらいのか、三人の秘密を楽しんでいるんじゃないか?」
悩ましげな瑞希に、そう深く考えることはないとアーサーが肩を叩く。まったく彼の言う通りなのだが、話してほしい気持ちが強くて素直に聞き入れられなかった。
「もう昼時だ。迎えに行くついでに確認してみればいい」
「…………それもそうね。ああそうだ、バスケットに詰めてそのままピクニックでもする?」
「いや、家にしよう。今は晴れているが空気が湿っている。一雨くるぞ」
くん、と鼻を鳴らすアーサーに彼こそ動物みたいだと思う。少し大きいが、猫科の何か。
ふふっと溢れるように笑った瑞希に手を差し出して、アーサーはほんの少しだけ口元を緩めた。
「迎えついでに、デートでもどうだ?」
「あら、それは素敵なお誘いね」
是非と答える口振りは軽やかで、芝居掛かった様子で手を差し出せばいよいよ二人して笑いが止まらない。
そんな冗談のような掛け合いを繰り返しながら、二人はゆったりとした足取りで森の中へと入っていった。




