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守護者の目

 宴も(たけなわ)。月が南の空へと傾いた頃、とうとう子供達にも限界の時がやってきた。

 双子の周りを飛び交っていたはずの幼い妖精達はいつの間にか姿を消し、双子も互いに寄り添いうつらうつらとしていた。

 これらのことは大人達も縁がないことではない。特に瑞希は顕著で、こしこしと目を擦ってあくびをかみ殺していた。


 「そろそろお開きにせんとな」


 ふぉっ、ふぉっ、とたっぷりとした髭を撫でつける長老にアーサーが無言で同意を示す。その膝の上ではルルがくうくうと眠っていた。


 「ミズキ、もう少し頑張れるか?」

 「ん………ぅん、大丈夫……」


 そうはいうものの、もう意識がしっかりしておらず、むにゃむにゃとした口調になっている。

 徒歩で来たのは浅慮だったかと頭を悩ませかけた時、また長老が独特の笑い声を響かせた。


 「おねむの子供が愚図るのは世の常じゃな。どれ、ワシが同行しよう」


 よっこいしょ、と言葉にそぐわない軽々とした飛行でアーサーの肩に乗る。それからひょいと小さな指が動くと、ついに寝入ってしまった双子の体がふわりと浮いた。


 「ミズキは、任せてもよかろ?」

 「もちろん」


 間をおかずの返しに、長老が満足げに頷いた。


 「だぃ、じょぶ……だいじょーぶよ」

 「ああ、大丈夫だ。だからもう眠ってしまおう」


 ぐずぐすと眉間にしわを寄せる瑞希に言い聞かせるように囁いた。甘やかす言葉はたいそう心地良いようで、ぽつぽつと繰り返すごとに込められた力が解けていく。


 「………おやすみ」


 良い夢を、と額近くで響かせた小さな音に、「まあ、良かろう」と長老が不遜に許容を示した。


 「聡いくせに鈍いからの。このくらい、親愛程度にしか受け止めんじゃろう。…………が、無理強いはしてくれるでないぞ」


 小柄な体に似合わない威圧感で釘を刺され、耳が痛いと肩を竦めながら首肯する。


 「傷つけるつもりはありません。そもそもそんなことをしたら、ミズキに軽蔑されてしまう。ミズキを泣かせたら子供達にも嫌われる。それは、望むことではないのです」

 「余計なお節介のようじゃな。──お許しあれ」


 唐突に切り替わった口調に、思わず体が強張った。しゃらりと涼やかな音を立てて揺れる耳飾りを眩しそうに長老が目を細める。


 「この意味を、ご存知で?」

 「古いものほど調べやすいものじゃよ」


 森を住処とする妖精達だが、時折、本当に気紛れに人間の街をふらりと訪れることがある。彼らを見る者がいないからこそ、彼らはどこにでも入り込める。

 瑞希と出会ってからは、その機会も激増した。物のついでの興味本位あるいは大切な友人の安全の為に、いっそう人々の話に耳を向けるようになった。

 人の世のことは、妖精達もよく知っている。


 「そなたが側近くにおれば大した問題も起こるまいが……どうか、守ってやっておくれ」


 その代わりではないが、対価として情報を差し出すと言いだせば、それには及ばないと断った。

 妖精は家族を守ることにさえ対価を求めるのかと問えば、なるほどと長老が大きく笑う。


 「偽りはないと誓えるか?」

 「もちろん。この耳飾りにかけて」


 月明かりを受けて煌めく輝石。その奥に眠る紋章を見つめて、頼むぞと誓いは締めくくられた。

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