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小さな冒険家

 家を出て森に入ること、およそ十分。少し前までは足繁く通っていた道だというのに、もう懐かしい気分になる。

 後ろを振り返ると、子供達は慣れない獣道に苦闘していた。

 アーサーは、さすがに長く旅をしてきただけのことはある。危なげない足取りで子供達の手助けもこなしていた。


 「頑張って、あとちょっとだからね」


 そう声をかけるが、子供達の耳には届いていない。転けないようにするので精一杯のようだ。

 実は、森に入る前、ルルが魔法を使おうかと申し出た。いくら近いとはいえ、子供には辛いだろうからと。

 瑞希も、そうかもしれないと頷きかけた。

 だが、それを聞いたアーサーは頑なにそれは駄目だと主張したのだ。


 「魔法は確かに便利だが、本来なら人間には縁のないものだ。ちゃんと子供達に歩かせるべきだ」

 「でも、整備とかがされてるわけじゃないのよ?転んだりしたら……」

 「危険だからと何でもかんでも遠ざけることの方がよっぽど危険だろう」


 子供達の足で、とアーサーは譲らなかった。言いたいことはわかるから反論もできず、不安を抱えたまま徒歩でここまでやってきたが、彼の主張は正しかった。

 子供達は最初こそ転んだり(つまづ)いたりすることも多かったが、進むごとにそれも減った。


 「ミズキ、悔しがってるでしょ」

 「違う……って言ったら嘘になるけど。あんな顔見せられたら、そんなの吹っ飛んじゃうわ」


 あんな顔、と言われて目が向かうのは当然双子だ。そっくりの顔はそれぞれ疲労の色も滲んでいるが、それ以上に楽しそうな表情をして、まっすぐ前を向いている。

 特にカイルが顕著だ。草木の邪魔がなければ今にも駆け出していただろう。

 引っ込み思案で大人しいと思っていたライラも実は意外とお転婆だったようで、カイルの後を元気よく追いかけている。


 「子育てって難しいわ。空回りしてばっかりな気がする」


 ぷくりと頬を膨らませると、ルルがおかしそうにクスクス笑い声を上げた。そんなの当然じゃない、と大きな瞳が訴えてくる。


 「子供でも、ちゃんと生きてるんだから。生き物と生き物が向き合うのに、簡単なわけないわよ」


 そう言うルルは、自分より遥かに幼い見た目なのにひどく大人びていた。普段の無邪気さを拭い去り、理知的な表情と慈愛の目で瑞希を見ている。

 静かなそれに不覚にも狼狽(うろた)えて、所在なく視線を逸らした。

 ふふふ、とルルが笑う。


 「時間なんてあっという間に過ぎていくのよ」


 もっともだけれど、同意するのはなんだかシャクで。

 生意気、なんて悪態を吐いて、小さな額を指で弾いた。


 「いったあい!何するのよっ!」


 怒りを露わにしたルルは、いつもと同じように、子供を丸出しにしていた。

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