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未来への布石

 「……今回のようなことが、今後もまた起こらないとは限らない。そうなる前に、正式にこの国での戸籍を作った方がいいんじゃないか」


 アーサーの提案はもっともなことだった。

 瑞希には現在正式な戸籍がない。それ故に、いくら互いが親子だと思い主張しようとも、書類上ではまだ赤の他人のままだ。

 難民の受け入れもするというこの国では、役所に行けばその場で手続きができるらしい。都の役所なら最短で数日程度で済むが、領内の役所を通しての申請だと数ヶ月はかかるだろう。

 これから先この国で暮らしていくのだから、戸籍登録はしておいた方がいいと瑞希も思っていたことだった。


 「でも、そんなに簡単に作れるものでもないでしょう」

 「俺が口利きする。これでも顔は広いから、多少の融通を頼むことはできる」


 子供たちの養子縁組の手続きも一緒に済ませられるとまで言われては、瑞希には断る理由はない。

 よろしくお願いしますと丁寧に頭を下げた瑞希に、アーサーは少しだけ安心したような表情で頷いた。


 「それなら、書類とかを取りに行かなきゃよね。あと……何か持っていく物ってある?」

 「いや、何も。だが、せっかく街まで行くのだから、子供たちも連れて買い物もいいんじゃないか?」


 アーサーの言葉に、顔を埋めたままだった子供たちがぴくんと反応を示した。心なしか輝いて見える目に、瑞希の選択は決まっていた。


 「なら、明日にでも行きましょうか。こういうのは早い方がいいものね」


 子供たちが途端にやったと声を上げた。

 そういえば、引き取ってからしばらく経ったが街にはまだ出たことがない。ロバートの病院から家までの間も寄り道はしなかったから、子供たちにとっては初めての外出になる。

 遊びたい盛りだろうし、乗り合い馬車もある。これからはもう少し街まで足を運ぼうと心の中で決めた。


 「でもその前に、行かなきゃね」


 窓の外ではもうすぐ日が沈みきろうとしていた。いくら近場とはいえ、これ以上暗くなってから家を出ると危ないだろう。

 なんのことだろうと義母を伺う子供たちに、義父がもう忘れたのかと少しからかう口ぶりで言う。ふわふわと浮かぶ小さなカップを指差せば、二人は揃って声を上げた。


 「まずは妖精の集落に行ってご挨拶しなきゃね。せっかくお弁当まで作ったんだもの」


 ふふ、と柔らかに笑う瑞希に、元気いっぱいのいい返事がかえってくる。着替えておいで、と義母の指示に従ってぱたぱたと軽い足音をさせて部屋を出て行く小さな後ろ姿を三人で見守った。


 「アーサー、本当にありがとう」

 「? あの男のことなら、もう礼は受け取ったが」

 「それもだけど、子供たちのこと」


 戸籍についてはもちろんのこと、黙りきっていたあの子たちが元の元気を取り戻したのは、彼の提案がきっかけだった。彼がいなければ、あの子たちはもっと長く落ち込んでいたことだろう。それを思うと感謝してもしきれない。


 「アーサーがいてくれて良かった」


 ありがとう、と目を細めて微笑む瑞希に、アーサーは面食らった。

 まったく敵わない。

 苦笑いして、どういたしましてと決まり文句を返した。

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