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冗談

 ルルに続いてライラ、カイルにも卵焼きを差し出すと、二人は小さな雛鳥のように口を開けてそれを迎え入れた。はふはふ、とまだ熱かったようだが、二つの表情は驚きと喜びに満ちていた。

 瑞希の焼いた卵焼きは、かつての彼女が普段作っていたものよりも黄色が濃い。子供達が好きそうだと砂糖を加えた、甘い味付けのものだからだ。

 その予想は的中した。むしろ、期待に満ちた目で垣間見てくる3対の目に甘やかしそうになって、自制にこそ苦労した。食欲旺盛なのは大歓迎だが、どうせならもっと色んな味覚を楽しんでほしい。何度も自分に言い聞かせた。

 双子が頑張って剥いてくれたジャガイモに軽くコショウをふり、粗めに潰して、作っておいたマヨネーズと彩りにニンジンも加えて手早く混ぜ合わせる。二人で一つのボウルに向かい合う姿は真剣そのものなのだが、側から見ていると微笑ましくて仕方がなかった。

 完成させたそれはレタス皿に盛り付ける。わざと余らせた分は、また子供達に味見と称して食べさせた。


 「なんか、さっきの黄色いのと一緒に食べても美味しそうだね」

 「あ、カイルよく気づいたね」


 今回は入れなかったが、カイルが気づいた通りゆで卵を入れる人もいる。そちらももちろん美味しいよ、と言うと、カイルは興味をそそられたらしい。何か考える素振りを見せた。


 「また今度、ゆで卵を入れて作ってみようか」

 「………いっしょ?」


 躊躇いがちな声にもちろんと深く頷く。


 「またみんなで。ああ、アーサーも誘ってあげないとね」


 じゃないと、子供達を独り占めしてるって、拗ねられちゃうから。

 戯けると、カイルは想像できたのかおかしそうに笑った。


 それからも、子供達が興味を示した食材を使って色んなものを作っては、弁当箱の空いたスペースを埋めていった。

 一品作る度に行なった『味見』を、三人は次第に楽しみにするようになった。

 食感や味付の違いはもちろん、自分の手で何かを作ることやそれを見ることは、二人にとっては新鮮なことであり未知のことでもあったけれど、三段あった弁当箱をすべて埋めきった時にはそれを惜しむ声を上げていた。


 「二人ともたくさん作ったねぇ」


 ありがとう、お疲れ様、とそれぞれの頭を撫でてやると、カイルは照れ臭そうに、ライラは嬉しそうにはにかんだ。

 窓の外はすっかり暗くなっていた。


 「パパ、もうすぐかなぁ?」


 そわそわとライラが外を覗く。お父さんっ子になった娘に、ちょっとだけ寂しくなる。しかしすぐに、随分と欲張りになってしまったと苦く笑った。


 「もうすぐ帰ってくるわ。きっとすごく驚くわよ、二人がこんなにいっぱい作ってくれたから」


 感動して泣いちゃうかもね、なんて冗談めかしてみれば、「パパ泣いちゃうの?」とライラが泣きそうになった。

 まだ冗談を言い合うには早かったようだ。反省して「すごく嬉しい時にも泣くのよ」と言葉を加えると、ライラは納得いかなそうにしながらも涙を引っ込めた。

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