味見
「さて。二人も来たし、さっそくお弁当作り、始めますか!」
切り替えるように、ぱん!とひとつ拍子を打つ。すると子供達は待ってましたと目を輝かせて、今か今かとお手伝いを待ち侘びた。
期待に満ちた視線を助長させるように、瑞希は重大な事を言うかのように真剣な表情を作り、二人の仕事を発表した。
「二人に作って貰いたいのは、ポテトサラダです」
「ぽてとさらだ?」
たどたどしくカイルが繰り返す。瑞希は二人の前にジャガイモを差し出した。
「ポテトっていうのは、このジャガイモのこと。これを使ってサラダを作るのよ」
ひとつずつ二人の手に持たせてみる。子供の手には余る大きさのそれは、すでに火を通し終えた物だ。ほこほこと温かいそれを大切そうに小さな手が包む。
「まずは、ジャガイモの皮を剥きます」
こんな風に、と実演してやれば、子供達も見様見真似で手元のジャガイモの皮を剥く。中々上手くできずに苦戦する姿にルルは手を出したくて仕方がない様子だったが、先ほどの言葉が効いているのか、もどかしそうにしながらもなんとか堪えていた。
「剥いたらこっちのボウルに入れてね。全部剥き終わったら、次のことを説明するよ」
できそう?と確認すると、できる!と即座に力強い返事が飛んできた。
二人は目の前のジャガイモに夢中で、手元から目を離すこともしない。それに頼もしいと鼓舞して、瑞希は他の料理に取り掛かった。
下拵えしておいた鶏肉を天板に並べてオーブンで焼く。
その間に瑞希が切った食材を、ルルが魔法でパンに挟んでいく。それをさらに切り分けたら、サンドイッチの完成だ。
魔法でバスケットに詰めていく合間に、卵を割って溶きほぐし、熱したフライパンに注いでは菜箸を動かした。
くるくると綺麗に巻かれていくそれに、ルルが不思議そうに声を上げる。
「スクランブルエッグじゃないの?」
「うん。これは玉子焼き」
スクランブルにしても良かったのだが、久しぶりに地球を思い出したからか、懐かしくなってつい巻いてしまった。醤油だとかがあれば味付けもこだわったのだが、洋食が基本のこちらには無いのだから仕方がない。
焼きあがった後も、ルルは物珍しそうに玉子焼きを気にしていた。
「摘み食いはしないでね?」
「わかってるわよっ!」
むっと噛み付くルルに、本当に?とからかってみる。冗談だとわかっているだろうに、意地になって言い返してくるのが子供らしい。
堪え切れずくすりと溢してしまったら、ルルはむっとして小さな手で瑞希の頬を引っ張った。
「あたたっ。ごめん、ごめんなさいっ」
急に謝りだした母に、何事かと双子が手を止めて注視してくる。そうして頬の皮が不自然に引っ張られていることに気がついて、状況を何となく悟った。
ようやく離してもらえた時にはもう感覚が残ってしまっていて、引っ張られてもいないのにひりひりする頬を包み込むように手で押さえる。
それから、焼いたまま放置してしまっていた玉子焼きを切り分けて、その切れ端をルルの前に差し出す。
「味見してくれる?ライラにもカイルにもしてもらうから」
ね?と柔らかく促されれば、抗うなんて選択肢はない。憮然としながらも控え目にかじりつく様子を微笑んで見守った。




