表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
76/478

母と姉と


 アーサーが街へ出かけてしばらく、瑞希は子供達とキッチンに並んでいた。

 ライラもカイルも、母がキッチンに立つ後ろ姿は見たことがあるが、自分が立ったことはない。料理として完成される前の食材を前にして、二人は興味津々でそれを見つめていた。


 「母さん母さん、これ、なあに?」

 「それはキュウリ。ライラが見てるのはジャガイモっていうの」

 「きゅーり……」

 「じゃがいも……」


 珍しくもないそれらにも初めて見たと言いたげな子供達。言葉さえも初めて耳にしたかのような反応をされて、瑞希の顔に僅かな翳りが差した。


 「ーーさぁ、やることはたくさんあるわよ!カイルとライラにも手伝ってほしいんだけど、いい?」


 あくまでも決定権は彼らに委ねるが、彼らの、ここに来てからの反応を思い返せば返答は想像に難くない。

 瑞希の予想通り、顔を輝かせて「やる!」と揃えた双子は、矢継ぎ早に「何するの?何するの?」と待ちきれない様子だ。一方で、ルルは物言いたげな様子で瑞希を見つめていた。


 「今日は、一緒にお料理をします。お口に入れる物だから、まずは手を洗ってきれいにしてきてね」


 ピッと洗面所の方を指差せば、二人は元気よく返事して、ぱたぱたと足音を響かせた。


 「ミズキ……あの、大丈夫、なの?」

 「え?なにが?」


 心底心配そうにするルルに、心当たりも浮かばず問い返す。ルルは迷いながら、だって、とその心を明かす。


 「あの子達、野菜も見たことがないのに、料理なんてさせて大丈夫なの?怪我しちゃうんじゃない?」


 せっかく怪我が治ってきたのだ。もうどんなに小さな怪我だってしてほしくない。

 訴えるルルに、瑞希は優しい目を向けた。大丈夫よ、と安心させるように言い聞かせると、小さな家族がきょとりとする。

 ルルの反応に、瑞希はさも心外だと大袈裟に振る舞った。


 「ルルったら、私があの子達を危ない目に遭わせると思ってるの?」

 「えっ……あっ?ち、違うの!そんなつもりで言ったんじゃ……!」


 ぶんぶんと手も首も振って慌てふためくルルに、冗談よ、と瑞希は小さく噴き出した。そんなこと、言われなくともわかっているのだから。


 「でも、現実的な話、家事は早いうちから覚えて貰わないと。結婚してから困るのはあの子達よ?」

 「けっ結婚!?」


 ミズキったら何言ってるの!?

 ルルは信じられないものを見る目を瑞希に向けた。気が早すぎると騒ぐルルに、瑞希は笑いを堪えきれなかった。

 緩みきった口元を手で覆い隠していると、手を洗い終えた双子が帰ってきた。


 「ママ?どうかした?」


 なんで笑ってるの?と覗き込んでくる双子に、なんでもないと首を振る。

 明らかに嘘だとわかるそれに、双子は揃ってぷっくりと頬を膨らませた。面白がって突いてやれば、ぷすっと空気の抜ける音がした。それがまた、どうしてか楽しくて仕方がなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ