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お父さんは街へ買い出しに

 しばらくの拠点として見慣れた街は、まだ明るいからか人通りも多かった。無用な事故を起こさないようにと馬を降り、手綱を引いて石畳を歩く。


 (まずは、酒と菓子だな)


 瑞稀が言っていた、妖精たちの好物。どのくらい買っていけばいいのか聞き忘れてしまったが、多く買って困ることはないだろう。

 菓子は酒より足が早いことから、まずは酒屋に入ることにした。近くに手綱を掛けておけるところはないが、十分に躾が行き届いているから問題はない。


 「すぐ戻る。待っていてくれ」


 まるで人間に話しかけるように言い置いて、アーサーは酒屋のドアを開けた。

 ガランガランとけたたましくドアベルが鳴る。普通の店はこんなに大きな音のするベルは括りつけないのだが、この店の店主は年老いた老人だからこのくらいの音でないと気付けないのだ。しかし、長年の経験からか酒を選別する目は確かで今もなお衰えず、どれも質が良く、種類も豊富で、少なからず拘りを持つ者は大抵この店を利用する。


 「おや、久しぶりじゃないか」


 店の奥から現れた老体に目礼する。老体はホッホッと好々爺然として笑った。いつものことだ。


 「人への土産を探している。何がいいだろうか」

 さっそく要件を問うアーサーに、老体は気を悪くすることもなくふぅむと唸る。考え事を始める時の彼の癖だ。


 「相手の好みにもよるがのぅ……ああ、最近良いブランデーが入ってきたでな、それならどうじゃ?」


 ちぃと待っておれ、と老体がまた店の奥へと消えていく。仕入れたばかりらしいそれに期待しつつ、アーサーは他に目星い物はないかと店内を散策した。

 アーサーは、どちらかというと酒を好むが、そういえば、瑞稀が酒を飲むという話は聞いていない。下戸とも聞いていないが、実のところはどうなのだろうか。土産の品だけでなく自分の物も買っていく心積もりではあるが、どうせなら瑞稀とも楽しみたいと思う。

 何か良い物はないかと探していると、見慣れない色の酒が飛び込んできた。中には丸い物が入っていて、よく見るとそれは果物のようだった。


 (果実酒か……これなら下戸でも多少は飲めるだろうか?)


 瓶を手に取った時、ちょうど老体が奥から戻ってきた。


 「おお、ここにおったか。ほれ、これじゃ、これ。ロンネルバルト産の30年物じゃぞ」


 自慢気に見せられたそれは言われた通りブランデーで有名な領の刻印が押されていた。加えて、年代物ということで多少値は張るが、対価を考えればむしろ安いだろう。


 「これもいいだろうか?」


 アーサーは先ほど見つけた果実酒を出した。


 「ほう、それに目をつけるとは」


 なるほど、なるほど。老体が一人頷く。

 何か特別な品物なのかと首を傾げていると、偶然手に入れた珍しい一品なのだと告げられた。


 「名前は何じゃったか忘れたが、近隣諸国にもない変わった果実を使った酒での。美味いぞ。お前さんには物足りんかもしれんがな」

 「かえって好都合だ。これも一緒に貰おう」


 言い切るアーサーに、毎度あり、と老体が紙袋にそれらを入れて渡す。瓶の重みもあってズッシリとしたそれを軽々と受け取って、アーサーは酒屋を出て行った。

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