優しさの二面性
「い…いらっしゃいませ!」
「……………ませ」
カイルの陰に隠れるようにして、ぽそぽそとライラが客を出迎える。まだ小さな子供達の懸命な姿に客は目を瞠るが、それもすぐに綻んだ。
「可愛い店員さんね。子供さんかしら?」
「えと……うん。ママは、今日はお休みなの」
雰囲気の柔らかい女性に話しかけられて、恥ずかしがりながらもライラが答える。ちらちらとカイルを伺っているが、それにも女性は優しくはにかむだけだった。
カイルは、自分は男だからとたくさんの商品をカゴに詰めて品物の補充をしている。成長期もまだな体では高いところに手は届かないが、それでも背伸びし仕事を全うしようとする姿は微笑ましい。
それぞれのやり方で一生懸命になっている子供達を見守りながら、アーサーは会計をしていた。スペースの奥から覗いてはらはらしている瑞希に苦笑しながら、大丈夫だからと何度も宥めている。
「ミズキは過保護すぎる。子供達にも冒険させなければ」
「でもアーサー、あの子達はまだ病み上がりなのよ?もしものことがあったら……」
「午前の仕事では何もなかっただろう。それに、そうならないように俺がみまもっているだろう。……俺はそんなに信用ならないか?」
わざと少し気落ちして問いかけるアーサーに、そうとも知らず瑞希は慌てて首を振った。ぎょっとして、本当に驚いているのだろう、ぶんぶんと手まで振り回している。
「違う!違うの、そうじゃなくて。アーサーのことはもちろん信用っていうか信頼してるのよ。優しくて、しっかり者で、子供達にとってすごく素敵なお父さんだと思ってる。でも、それでも気になっちゃって……だから、その、つまり……」
ええと、ええと、と何度も繰り返して言葉を続けようとする瑞希の必死な姿に、からかいがすぎたかと反省する。しかし、好評価だと確信できたことは喜ばしく、顔の筋肉が解れていく。
ゆっくりと出来上がった微笑を受けて、瑞希は誤解は解けたらしいと安堵し、落ち着きを取り戻した。咄嗟の時に冷静でいられないのは自分の悪い癖だ。教師として経験を積んでいくうちに、生徒の前では何とか平静を取り繕えるようになったが、一旦仕事から離れるとどうしても地が出てしまう。
「ごめんなさい、こんな落ち着きのないところを見せちゃって……。いつまでも稚気が抜けなくて、嫌になるでしょう?」
「そんなことはない。それだけ必死だったんだろう、俺には嬉しい限りだ」
落とされた肩に手を添えて、わずかに深まった笑みを向ける。瑞希は、そう、と曖昧に苦笑した。
「ミズキの出番は店が終わってからだ。俺が街に出ている間、子供達と準備を進めていてくれ」
「もちろんよ。任せて、アーサー」
瑞希の表情に凛々しさが加わる。ぴんと伸びた背筋に、彼女の責任感の強さを感じた。
「ミズキは、人助けだとかにやりがいを感じるタイプだろう」
唐突にアーサーが言い切る。
いきなりなぁに?と瑞希は首を傾げたが、否定することでもないし、そうであることを嫌ってもいないから素直に頷いた。
「それがどうかしたの?」
「……いいや。でも、あまり優しくしすぎないようにしてくれよ」
どういうことかわからずまた首を傾げる瑞希に、意識して笑みを向ける。
今はまだ、知らなくてもいいことだ。
アーサーの企みは、本人だけが知っている。




