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 しおしおと項垂れている間にも当然時間は過ぎていく。気がつけば午後の開店まで押し迫っていて、準備しなきゃと立ち上がりかけたところをルルに一喝されてしまった。

 ルルの周りでは補充する商品が自ら陳列棚に収まっていく。これを見てまだ言うつもりかと無言で睨まれて、瑞稀はすごすごと引き下がった。

 濡れタオルで視界を覆っていても、誰かの動く物音は聞こえてくる。自分ひとり何もしない現状が居た堪れない。


 (みんなも、こんな気持ちだったのかしら…)


 手持ち無沙汰というのがどれほど辛いことか、瑞希は初めて知った。良かれと思ってしていたことの結果が、こんなにも裏目に出るとは思ってもみなかった。


 真っ暗な中で、頭に置かれた温かい存在を感知する。撫でるようにゆっくりと動くそれは手だった。


 「あのね、アーサー」

 「なんだ?」


 手を止めず先を促すアーサーに、甘やかしたがりなのかしらと新たな一面を発見した心境になる。少しだけ気が軽くなった。


 「政府のお偉いさんが邪魔って言ってても、やっぱり教育って大事だと思うのよ」


 必要なことができればいい。それは間違いではないかもしれないが、正解でもないと瑞稀には断言できた。


 「なら、ミズキは子供達をどうしたいんだ?」


 そこまで言うからには理想があるのだろう。聞かれて、瑞希は苦笑いした。答えたら、きっと彼は変に思うだろう。その時の彼がどんな顔をするのか見たくなった。


 「たくさん迷ってほしい、かな」


 アーサーの手が止まる。ああ、やっぱり驚くわよね。瑞希は悪戯っぽく口角を上げた。


 「知らないってことは、損してるってことなのよ。それだけ視野が狭まって、選択肢が減っちゃうんだから」


 知っているからこそ出せる選択肢がある。知らなければ、選ぶことさえできないのだ。たった一つだけを見つめて、それだけを目指していくことは凄いことだけれど、もしかしたら楽なことなのかもしれない。

 分かれ道のない道を突き進んで、その先にあるものが必ずしも幸せとは誰も思わないだろう。

 それは瑞希の偏見によるものなのかもしれない。そう思うが、アーサーはそれを否定しなかった。


 「ねえ、もし私が力を貸してってお願いしたら、あなたは嫌がる?」


 聞いた途端、ぺしんと額を弾かれる。

 それが答えだった。


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