ルルの説教
いつまでも腫れた目をそのままにしておけず、思い出したように瑞希が小さく声を漏らした。すると、やっと思い出したわね、とルルが腕組みして現れた。
「お店をお休みにしても私は全然構わないんだけど。でも、そんな顔で帰ってもみんなを心配させちゃうだけだから」
勘違いしないでよね、と濡れたタオルを浮かせて必死に言い繕おうとしているルルは、正しく子供が大人ぶっている様子そのもので微笑ましい。礼を言って気遣いを受け取るが、それでもまだ機嫌が悪そうだった。
「どうしてそんなに怒ってるの?」
瑞希が尋ねて初めて、他の三人もルルの様子を知る。間怠っこしいと思うが今はそれはいい。問題は、鈍感な瑞希にあるのだから。
「ミズキの鈍チン!」
「ええっ?なんでいきなり?」
心底驚いた反応をされて、ますますもどかしさが募る。本当に、どうしてあれやこれやに鈍いのかルルにはさっぱりわからなかった。
何を言われたのかと気にしていたアーサーは、瑞希の答えを聞くと気恥ずかしそうにしながらも納得していた。
もちろんそのこともあるのだが、ルルの不満はそれだけではなかった。
すっかり忘れ去られた気がしてならないが、ルルもしっかり見ていたのだ。瑞希が泣き出したところも、弱音を吐いたところも。だからこそ、一気に不満が募ったのだ。
瑞希がこの世界にやってきてから一番に出会ったのに、一番側にいるのに。
「どうしてミズキはなんでも自分でやろうとするの!」
ルルは言う。
曰く、信頼が足りていない。進んでやろうとするのはいいけれど、もっと周りに頼るべきだ。
曰く、いらない遠慮が多い。控えめと言えば聞こえはいいが、家族相手にまで遠慮するのはおかしいことだ。
連綿と続く言葉に、瑞希はみるみる小さくなる。否定しようとする気が起きないほど、ルルの言葉は胸に刺さった。
「言ってもわからないことがあるのに、言わないでわかるはずがないじゃない!」
「うぅ……仰る通りです……」
かっくり肩を落とす瑞希に、それでもまだ言い足りないとルルは鼻を鳴らす。
見えず、会話も聞こえていない三人はどうすることもできず、ただルルの方に分があるらしいということだけは何となく把握していた。
「この子達に聞かれなくて良かったと思いなさいよ。次なんてあったらもっと酷いんだから!」
わかったわねっ!?と肯定以外の返事など聞く気もない剣幕に急かされて、瑞希ははいと弱々しく頷いた。




