テルミー!!
まさかそんなはずは。
一縷の望みをかけて、瑞希はアーサー達がいるリビングに飛び込んだ。腕にはカイルを抱えて。
どうしてこうなったのかわかっていないカイルはもちろん、突然のことに誰もが唖然として瑞希に注目した。
「ミ、ミズキ?」
どうしたんだと言外に問うアーサーは驚きのせいか声が僅かに震えている。そんな彼を瑞希は凄まじい迫力をもって見た。アーサーの膝の上ではライラが驚きすぎて固まっていた。
「アーサー。正直に答えてちょうだい」
何をだ、と問える雰囲気ではなかった。是と答えることも憚られて、こくりと躊躇いがちに頷きを返す。
それを見て、気を落ち着けようと瑞希は数度深呼吸した。大きく息を吸うごとに、体温よりも冷たい空気が頭の中まで冷やしてくれるような錯覚。
気の済むまでそれを繰り返して、瑞希はやや据わった目でもう一度アーサーを見た。
「この国ーーいえ、この世界でもいいわ。学校って、あるわよね?」
お願い、あると言って。当たり前だと言って。不安を杞憂で終わらせて。
瑞希の懇願は、アーサーによる否の返答で儚く散った。
「全くない、というわけではない。王族や貴族階級のための学習施設として学問院が設置されているが、極めて狭い門だな」
そもそも、一般的な国民は学問を必要としていない。算術と文字の読み書きができれば十分生活を営めるからだ。
また政府の思惑として、民草に余計な知恵をつけられて反乱でも起こされては堪らないというのもある。
瑞希は気が遠くなりかけた。
「あ、あり得ない……」
よろめいて、危ないからとカイルを床に下ろす。それから自由になった手の一方で額を押さえた。
あり得ない、ともう一度呟く。それしか言葉が出てこなかった。
アーサーは戸惑いを滲ませた目でカイルを見る。カイルもカイルで、戸惑い気味に養父を見返した。
「母さんに、きょーいんって何、って聞いたら……」
こうなった、とは最後まで続けられなかった。
あり得ないとだけひたすら繰り返す瑞希はなんとも禍々しい雰囲気を醸し出していて、大好きなのに少し怖い。
カイルは不安げにアーサーの傍に寄った。
子供達に一人頼られるアーサーは、意外なことを知ったと改めて瑞希を見た。




