嫌な予感ほど
「そういえば、カイルとライラはいくつなの?」
瑞希は、実は自分の年齢しかわからない。
ルルに歳を尋ねたことがあるが首を傾げられた。妖精に年齢についての概念はないらしい。「そんなもの数えてどうするの?」と逆に問い返された時には言葉に詰まってしまった。
アーサーの年齢は、ただ聞く機会がなかったから知らない。しかしこちらの世界でも人間には年齢の概念はあるらしく、初めて会った時には歳を言ったら酷く驚かれたため、聞き返すタイミングを逃してしまったのだ。
彼にも今度聞いてみようと決めて尋ねたことに、カイルは「9」とあっさり答えた。
九歳ーーーそれにしては、やはり同じ年頃の子供と比較すると一回り以上も小柄だ。慢性的な栄養失調が主な要因と推測できるが、それが解決してもやはり後手に回らざるを得ないだろう。
(学校で変にからかわれなければいいけれど………ーー)
瑞希はぴたりとその動きを止めた。どうして今の今まで気づかなかったのだろう。当たり前だと思っていたからか、それともただ単に忘れていたのか。
(この世界って、学校、あるの……?)
ぞっとして、瑞希は嫌な汗をかいた。
「母さんはいくつなの?」
瑞希の不安など知る由もないカイルが素直に尋ねる。
「30。多分アーサーよりも歳上かしらね」
「そうなの?全然見えないや」
子供の真っ直ぐな言葉が瑞希の胸にぐっさり深く突き刺さった。痛恨の一撃である。
自分自身重々自覚していることなのだが、家族ーーそれも我が子に指摘されるのは予想以上に突き刺さる。周りから散々言われて苦渋を舐めたどの言葉よりも辛い一言だった。
どんよりと目に見えて落ち込む瑞希の傍らで、なぜかカイルはにこにこと満面の笑みである。しかも嬉しげだ。
「母さんすごい!」
きらきらと期待の眼差しで見上げてくれるのは嬉しいが、この子が果たして何をすごいと言っているのかわからない。こんなにも反応に困る「すごい」は初めてだった。
「母さんはずっとお店してるの?」
「ううん、お店はこっちに来てから始めたから。その前までは教員してたの」
「きょーいん?」
なぁに、それ?と知らない言葉にカイルは首を傾げた。
先生のことよ、と言い換えてみても、今度は逆の方向に首を傾げられる。
まさかの予感的中かと瑞希は口元が引き攣るのを自覚した。




