ベーグルサンド
キッチンに立った瑞希は、まずベーグルサンドの製作に取り掛かった。双子のゼリーを一旦冷蔵庫に入れて、それからベーグルを上下半分にスライスする。
中身は無難なハムとチーズのサンドは一つ確定したが、他にも野菜を多く取り入れたものが欲しいし、アーサーはもっと食べ応えのあるものも欲しいだろうからそれも考えなければ。
冷蔵庫の中に野菜はたっぷりある。そういえば貰い物のエビがあることを思い出して、それも使ってしまおうと決めた。
先にエビをボイルして、その間にレタスを千切り、アボカドをスライスする。ベーグルの切れ面にマヨネーズを塗って、野菜とボイルしたエビを挟めば二品目が完成だ。
そのまま取り出したのは卵と厚切りのベーコンとケチャップ。作るのはもちろん、ハムチーズに並ぶ鉄板、BLTサンドだ。
これだけあれば十分だろうと、用意したベーグルサンドたちを一気にトースターに入れて仕上げに取り掛かる。
ほどほどの焼き目がつくまで待つ間にお湯を沸かし、ティーポットを準備する。今日のお茶はカモミールティーだ。リラックス効果で広く知られているそれは整腸作用もある。これが少しでも子供達の胃を守ってくれることを願って淹れた。
ここまでして、ようやく気がついた。
(一人でキッチンに立つって、なんだかものすごく久しぶり……)
こちらの世界に来てからはいつもルルが傍にいた。アーサーが来てからはアーサーも一緒だった。カイルとライラがやって来てからは、キッチンはさらに賑やかになった。
常に誰かがいることが当たり前になっていたことに少なからず驚く。教職に従事するようになってから始めた一人暮らし。その期間の方が比べようも無く長いのに。
「ミズキ?何か手伝うことはーー……って、何してるんだ?」
顔を覗かせたアーサーが、瑞希を見た途端不思議そうに瞬いた。
それも当然の反応だ。忙しなくしているだろうと思っていたのに、瑞希は必死に笑いを噛み殺しながら蹲っているのだから。
「いったいどうしたんだ?」
手を差し伸べながらもアーサーはどうしようもなく戸惑っている。そんなちぐはぐで優しい彼に、瑞希はまた笑った。
「私、みんながいなくなったら生きていけそうにないかも」
そんなことを言う瑞希の顔は、意外にも晴れやかだった。
ドアの向こうから、ぴょこんぴょこんと子供達が覗いている。随分可愛らしいお団子に幸せがまた溢れた。
「あー………笑ったらお腹減っちゃった」
チン、とタイミング良くトースターが焼き上がりを知らせた。




