お父さんも一緒
泣いてしまったからなかなか赤みの引かない目元に濡れたタオルを押し当てて冷やす。喉も渇いただろうし、時間も時間だったから、この日は早く昼休みを取ることにした。
生活スペースに繋がるドアを開けると、すぐそこにアーサーが落ち着かない様子でいて、双子を見た瞬間にホッとしてみせたものだから笑えてしまった。もしかしたら一番過保護なのは彼なのかもしれない。
「ミズ……母さんを手伝いたいという気持ちは素晴らしいが、何事にも限度がある。それを弁えた行動をしなさい」
わざとムッとした顔をして子供達に言い聞かせるが、言葉が難しいようで二人とも首を傾げている。きょとんとして見上げられて、叱っているはずのアーサーは困惑顔になった。
威厳も何もあったものではない、新米パパの可愛らしい一面を見て、瑞希はついつい小さく笑った。
「二人のことが心配だったのよ。あとは、一人だけ仲間外れにされたヤキモチかしら?」
「ミズキっ!」
瑞希の解釈に、何を言うんだとアーサーが顔を真っ赤にする。しかし否定しないあたり、強ち間違ってもいないらしいと判明してしまった。
「アーサーは意外と子供っぽいわね」
そう言ってしまえば、アーサーはもう何も言えなかった。いつになく養父の見慣れない様子に傍観に徹していた子供達は首を傾げた。
とりあえず、養父が養母に逆らえないということはわかる。しかし何故逆らえないのかまでは、さすがにわからなかった。
悔しそうにするアーサーに、とことことカイルが歩み寄った。
「父さん、寂しかったの?」
カイルの問いはーーというか、子供の問いは無邪気なものである。無邪気だからこそ、余計に心を抉ってくるのだ。
「……お前たちはまだ病み上がりなんだから、いつ倒れやしないか、心配なんだ」
加工を施した答えを返す。大人の小賢しい術だが、カイルはなるほどと理解を示していた。
「じゃあ、父さんも一緒にやればいいんだよ!」
名案とばかりに言うカイルに、アーサーは戸惑いを隠せなかった。
どうにもテンションの上がったカイルに、瑞希とライラはどうしたのかと首を傾げた。
その中で一部始終を静かに見ていたルルだけが、小さな体を震わせて必死に悶えていた。
危なっかしい様子で目の前を浮遊するルルを、手のひらを受け皿のようにして受け止める。ルルは小さな手でペチペチ瑞希の手のひらを叩いた。
「ルルまで、いったいどうしたの?」
瑞希にはわけがわからない。
「ママ、ルルちゃん、どうかしたの?」
「わからないけど、とりあえず笑ってるわ」
体調不良ではないとわかるから一安心なのだが、これはこれで心配になる。
不思議そうにする瑞希に、カイルはタックルのような勢いで抱きついてきた。少なからず揺らいでしまったが、堪えきれないほどのものではない。
ぱちくりとしている瑞希を、カイルはキラキラと目を輝かせて見上げている。
「母さん、父さんも一緒に手伝いたいんだって!だから、お昼からはみんなで一緒!」
「うん……?」
何がどうしてそうなったのか、瑞希にはわけがわからずますます首を傾げる。そんな瑞希に、ライラもさらに首を傾げた。
ルルはますます腹を抱えて一段と大きく笑い声を上げた。




