不器用に完敗
早くも店のアイドルと化した子供達は、それでも驚くほどに人気だった。
まだ人慣れしていない、おっかなびっくりといった接客は見ていて微笑ましくもあり、自然と見守ってしまう。二人が可愛がられているのを見るのは嬉しいし、疲弊した心を癒してくれる。
しかし、毎日が毎日大盛況と言っても過言ではないほどの来客数と売り上げを誇るこの店の仕事は、やはり子供達には負担も大きいようだ。少しでも手が空くと抱きつきにやってきて、ぐいぐいと額を押し付けてくる。仔猫のような甘え方が愛しいと思う反面、申し訳なく思っていた。
「カイル、ライラ。手伝ってくれてありがとう。疲れたでしょう?アーサーのところに行って、三人でお昼寝しておいで」
昼食にも、中間閉店にもまだ早い時間だが、不慣れなことをしてふらふらになっている二人をこのまま店に置いておくわけにはいかない。
固形物はまだ食べられないが、アーサーもお茶だとかは淹れられるし、疲れた体が一番求めるのは睡眠だろう。
そう思っての提案だったのだが、双子はそれが気に入らないのか、むうっとして瑞希の裾を握りしめて離さない。
「……やだ。まだ手伝うの」
もっと、と強請る声に、どうしてそこまで頑なになるのかわからなかった。
カイルもライラも、誰の目から見ても疲れているのは明らかだ。二人の食事情を知る瑞希からしてみれば、あれだけのエネルギー量でよくここまで動けたものだと思えて仕方が無い。無理をしていないか不安でたまらなかった。
しかし二人は聞き分けなく、まだ手伝うと言って聞かない。
瑞希はルルと顔を見合わせた。
「気持ちは嬉しいけど……無理したら元も子もないのよ?」
「無理じゃないもん!」
身を寄せ合った双子が、揃いの目で見上げてくる。きっとつり上がった目は、なのにどこか頼りなく、弱々しい。
「無理じゃ…ないもん……」
ついに潤み出した目に、瑞希とルルは慌てて二人を抱き込んだ。ぐずぐずと鼻を鳴らす子供は、無理じゃないとしきりに繰り返している。
「母さんは……僕達が邪魔?いらない?」
「そんなこと!あるわけないじゃない!」
何を言い出すのかと叫びにも近い声で瑞希が否定する。
まだ日は浅くとも確かに子供達を愛しているし、今後もそれが変わることはない。ぎこちなくも、二人もそれを受け入れてくれていると思っていたからこそ衝撃も大きかった。
「ミズキ、この子達はどうしてそんなことを言うの?」
「わからない……。ねぇ、どうして邪魔だとかって思うの?」
瑞希にもルルにも、今ここにはいないアーサーだって、子供達を邪険に扱うことはない。それぞれがそれぞれの手法で愛情を示している。それを疑う余地などないと勝手に思っていたが、もしかしたら子供達にとってはそうではないのだろうか。
「だって……」
ポツリとライラが口を開く。ぽそぽそとした声は不安と涙で揺らいでいる。
「だって、いらないから、どっかいってほしいって……」
「僕たちは、母さんの傍にいたいだけなのに……っ」
きゅう、と眉を下げて、ダメなのと問いかけてくる無垢な瞳に、どうしてもこれ以上の言葉をかけられるはずはない。
「……無理はしないって、約束してね」
「っうん!」
本当に嬉しそうにして顔を輝かせる子供達に、現金なものだと、二人して苦笑した。




