朝のひととき
瑞希の朝は早い。アーサーとの同居が一足早く始まったが、瑞希の起床が誰かの後手に回ったことは一度たりともない。
それは、早朝から職員会議があった教師の頃からの癖でもあった。
店で販売している薬は夜や、営業中の少し手の空いた時に作成している。サービスティーは寝る前にデキャンターに水を張って水出ししている。
子供達を迎える前、アーサーとの同居が始まる前までは、瑞希はこの朝の時間も薬作りに充てていた。
朝早く起きることができるとはいえ、まったく苦を感じていないわけではない。寝起きは良い方だからすんなりと目を覚ますが、食欲はほとんど無いため、朝食は新鮮なフルーツが主だった。
しかし、今はそういうわけにはいかない。自分と違ってアーサーは朝からでもしっかり食べれるようだし、なにより子供達がいるのだ。
子供というものは、大人が思うよりもずっと物事をよく見ている。親が嫌いな物を子供も嫌うことが多いのは、子供が親を見て、あれは美味しくないものだと先入観を抱いてしまうからだ。
親として、子供達にそんな理不尽な好き嫌いをさせるわけにはいかない。
さらに、朝食とは一日の基本である。朝食を摂るのと摂らないのとでは体の動きも頭の回転速度も随分変わってくるし、子供というものは毎日が激しいためエネルギー不足などということがあっては将来の健康にも差し障る。
使命感のようなものさえ感じ突き動かされて、瑞希は朝早くからパンを焼き、スープを煮込んでいた。
子供達には、イチゴとキウイ、花の蜜を加えたスムージーを用意した。
通常食組にはコーンポタージュとエッグトーストとサラダだ。アーサーには物足りないだろうからハムエッグも作っている。これも、一分としないうちに完成するだろう。
(随分と手慣れたものねぇ……)
あちらでももともと一人暮らしをしていたから料理ができないということはなかったが、あまりレパートリーは豊富でなかった。それ加えてに、作っても女一人が食べれる量など高が知れていて、二日かけてなんとか食べ切るということが多かった。
だが、今はどうだろう。
こちらに来てしばらく、ルルと二人暮らしになってから、瑞希のレパートリーは増え出した。
ルルが作ったものを美味しいと喜んで食べてくれるのが嬉しかった。
余り物だけど、と余分を集落に持っていくと、集落の妖精達も喜んで食べてくれた。
アーサーが来てからは、さらに勢いを増した。言葉は少ないけれど、きちんと一つ一つを味わってくれる。
どれも、あちらでは感じられなかったものだ。
「ミズキ」
スッと音もなくアーサーが現れる。今日はアーサーに軍配が上がったようだ。
寝起きとは思えないしっかりとした足取りでやって来て、瑞希の隣に立って止まる。言葉無く、何か手伝えることはあるかと尋ねる彼に、瑞希は少しだけ考えた。
「じゃあ、子供達を起こしてもらえる?朝ごはん、もうすぐ出来上がるの」
「わかった。……ルルは?」
「多分まだ寝てる、かな?子供達を起こす声で起きると思う」
ルルは寝起きはあまりよくない。機嫌が悪いとかではなく、うとうととした感じがしばらく後を引くのだ。
それを伝えると、アーサーは少しの間を置いてから、わかったとまた頷いた。
アーサーが階段に向かう背を見送って、再び手元のフライパンに目を戻す。ハムエッグは調度いい具合に焼けていた。火を切って、それを皿に移し替え、テーブルに運ぶ。
あとは、みんなが揃って席に着くのを待つだけだ。




